第56話 連勝

由野ヨシノさんといいましたか。その斧も凍ってしまっては形無しですわね」


 星宮ホシミヤさんのリフリジェレイターによる一撃だった。それは、悠季ユウキさんの身体を凍り付かせてしまう。


「ふんっ!」


 だが、不動の斧による攻撃は、凍結してなお一閃する。距離によるアドバンテージから、星宮ホシミヤさんは攻撃を受けることはなかったが、その様子に驚愕の表情を見せる。


「なんですって……凍結していても動けるというのですかっ!?」


「ああ、そうみたいだね」


 悠季ユウキさんはそのままぐるんぐるんと回転して星宮ホシミヤさんに接近し始めた。その様子に怯え、尻尾を巻いて逃げる星宮ホシミヤさん。


「……いくら動けると言っても、走る速度には追いつけないようですわね」


 しかし、弓に矢をつがえている時間はない。扉が開くのを待つ時間もない。凍結は間もなく解除される。攻撃している間動き続けられる悠季ユウキさんは、部屋の隅に星宮ホシミヤさんを追い詰めようとしていた。しかし――


「ファイアスターター!」


 星宮ホシミヤさんは杖に持ち替え、咄嗟に火炎放射を放つ。その炎は悠季ユウキさんの身体を包む氷を溶かし、ついには――


「ああああああああっ!」


 悠季ユウキさんを火だるまにしていた。通常ならノックバックが発生し、攻撃対象はダメージを受けると炎の外に追いやられる仕組みになっていたが、不動の能力を持った悠季ユウキさんは、炎の中で継続してダメージを受け続ける。炎はみるみる彼女のHPを奪い――


 パリーンッ!


「はぁ……はぁ……アースアンカー」


 星宮ホシミヤさんは、光となって消えた悠季ユウキさんが残した斧を手にしていた。


 [澪織ミオリさんと不動斧フドウノオノとの契約が成立しました]


「これは……?」


 星宮ホシミヤさんが手にしたのは、悠季ユウキさんが持っていたもうひとつの武器、光破銃であった。それを拾い上げた星宮ホシミヤさんは――


「ハイパーメガランチャー! ……違いますのね」


 星宮ホシミヤさんは銃をアイテムボックスにしまい込み、部屋を後にする。


「緑の部屋ですか……ファイアスターター」


 彼女は炎で床を照らし出す。


「ふ、モンスターが出るスイッチはあそこですか。武器を3つも持っていては、相手にするのは9体のモンスターでは済みそうもありませんわね」


 炎で照らすことで、床のスイッチを見破れることに気付いた星宮ホシミヤさんは、それらを回避しながら進んでいたのだった。


「さて、後何人倒せばよいのでしょうかね……」


 一方、珠彩シュイロはと言えば、未だに床を全て踏んで、モンスターを倒し続けていた。


「この刀一本で何とかなるものね。ポーションも余っちゃうわ」


珠彩シュイロちゃん、楽しそうで何よりだよ」


 急に珠彩シュイロに話しかけてきた人物は――


「あら、やっと会えたわね。こんなつまらないゲーム初めてよ。そんなことより、あんたが何者で、どう血迷ったらこんなくだらないことをするのか、聴いてみたかったの……」


「そんなこと言わないで、もっと私と遊ぼうよっ!」


 回転しながら剣を振るい接近する実羽ミハネに、珠彩シュイロは斬撃を見舞う。すると、いとも容易く攻撃がヒットするのであった。


「そんなのこけおどしね。簡単に見切れるわ。その剣は両方に刃がついてるけど、たかが50cmくらいじゃない。80cmはある私の刀の方がリーチが長いのよ。さ、おとなくし私の質問に答えなさい」


「ふふ、話すことなんて……ないよっ!」


 実羽ミハネは再び剣を振り回し始める。珠彩シュイロはその切っ先を寸でのところでかわしながら、刀を強く握る。


「ったく! 人が話をしてあげようっていうのに、こうするしかないわね!」


 踊るように攻撃し続ける実羽ミハネを、いとも容易く斬り捨てる珠彩シュイロ。そして地震を見届ける。


「また地震? ってことはやっぱり……時間はあと60分ってところかしらね」


 そして、マノリアは――


「また地震か……わしが実羽ミハネを倒した直後にも起こっていたが、わしが倒した3匹以外にもいるみたいじゃの」


「そのようですわね」


「そなたは……誰じゃ?」


星宮ホシミヤ澪織ミオリです。先程お会いしましたでしょう?」


「ふん、おぬしも兄上の妹候補とやらか。しかし、その首から下げたペンダント、おぬし、ステラソルナのものじゃな?」


 マノリアは星宮ホシミヤさんの胸元で光る、茶色い盾のような紋章を睨みつける。


「よく、ご存知ですね……」


「ふん、わしの国を陥れた怪しい宗教団体を覚えていないはずがなかろう……」


「そうでしたか……それは大変申し訳ないことを」


「まったく、おぬしらは我が国民を堕落させ、マルセリア王国の侵攻を間接的に手助けしたようなものじゃ。姑息な手を使いおって」


「……それが本当ならば、私はその汚名を返上せねばなりませんね。それでは、正々堂々と戦わせて頂きます」


「ディスチャージャー! グレートバリアリーフ!」

「アースアンカー!」


 マノリアは左手の盾で身を守りながら、時折右手の槍による電撃を見舞う。


「ふふふ、この勝負、わしの勝ちじゃな。いくら強力な武器でも、このバリアに防げぬものはない……!」


「なるほど、水の障壁ですか……では」


 星宮ホシミヤさんは一旦マノリアから距離を取る。


「ふん、放電が届かぬ距離まで逃げようというのか」


「リフリジェレイター……!」


「グレートバリアリーフッ!」


 冷酷無比な氷の矢尻が水鏡のバリアを襲う。しかし、その力は水を氷に変えるだけで、相変わらずダメージを与えられない。


「ふんっ、それだけか!? 行くぞっ!」


 しかし、次に飛んできた矢は、マノリアが想定していたものではなかった。


「……ファイアスターターッ!!」


 星宮ホシミヤさんが弓につがえていたのは、点火杖テンカノツエだった。菱形の熱を帯びた赤い宝石が氷の壁に突き刺さり、更に炎を上げる。すると――


 ガシャーン!


「バカな! グレートバリアリーフがっ!」


 氷と化したバリアは、熱を加えたことによっていとも容易く砕け散った。そして、マノリアがそれを唖然として見届けたその向こうには、既に星宮ホシミヤさんが肉薄しようとしていた。


「アースアンカーッ!!」


 星宮ホシミヤさんはそれを容赦なく振り下ろす。マノリアはバリアを再展開しようとするが――


「グレートバリアリーフッ!」


「ふふ、懐に入ってしまえば、そんなバリア……!」


 攻撃判定は既にバリアの内側に達していた。そして、展開されたバリアはアースアンカーの不動の力を妨げることはできなかった。水鏡のバリアの効果は"攻撃判定"を跳ね返すこと。懐に飛び込んだ星宮ホシミヤさんの身体は止められない。


「ギャアアアアアアアアアアッ!」


 アースアンカーはマノリアの背中に突き刺さり、彼女を地面に叩きつけた。その威力は容赦なく彼女のHPを奪う。二度、三度と振り下ろされるアースアンカー。うつ伏せで地面にめり込んで行く彼女のHPは、無残にも奪い尽くされる。


「ふ、これであとは……やっかいなあの女をなんとかできれば」


 パリーンッ!


 光となって砕け散ったマノリアがその手にしていた武器、ディスチャージャーとグレートバリアリーフを星宮ホシミヤさんは入手する。


「ディスチャージャー、グレートバリアリーフ」


 [澪織ミオリさんと放電槍ホウデンノヤリとの契約が成立しました]

 [澪織ミオリさんと堡礁盾ホショウノタテとの契約が成立しました]


「これなら……いけるかもしれませんね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る