第51話 交戦
[エンゲージが発生しました。この部屋の中に居る妹のうち、誰かひとりのHPが0になるまでここから出られません]
「ふむ、交戦しろってことかの……」
「え、どういうこと……?」
一瞬にして事態を把握したマノリアと、疑問を口にするこのみ。
「もしかして、おにいを賭けて決闘しろってこと?」
「そのようじゃ……しかし……」
このみは両手で槍を握り、対するマノリアは左腕のラウンドシールドを見つめる。僕はその時、ふと疑問が浮かんでしまった。
(この部屋に来るまでに、マノリアもモンスターと交戦していたはずだ。盾しかもっていないマノリアはどうやってここまで切り抜けたんだ?)
しかし、僕がその疑問を口にする前に、このみが一歩前に出る。
「なるほどね、これ、そーいうゲームなんだ……じゃあ、やるしかないよねっ!」
彼女の語尾に力が篭り、同時に手にした槍が高く掲げられる。槍からほとばしった稲妻は、マノリアに向かって伸びていた。
「……グレートバリアリーフ」
ぼそっと口にしたマノリアは、ラウンドシールドを前に構える。すると、盾は直径1.5メートルほどの円形の透明の水鏡、コンタクトレンズのようなバリアを発生させた。稲妻はそのバリアに弾かれ、マノリアにダメージを与えることなく飛散する。
「待て、このみとか言ったか、戦わずにこの場を切り抜ける方法を考えるんじゃ」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。これはゲームなんだから、ルールに従うしかないでしょ?」
このみは再び稲妻をマノリアに向けるが、幾多のモンスターたちを葬って来た電撃も、巨大な水鏡の盾の前では無力と化していた。
「……それもそうじゃが」
僕はそれを見ていることしかできなかった。飛散した稲妻が僕の身体を通り抜けるが、ダメージはない。どうやら彼女たちの攻撃は僕には通らないようである。
「これじゃダメか……じゃあ、いくよっ!」
続いてこのみは直接攻撃に打って出る。
「えいっ……ああっ!」
水鏡のバリアはこのみの突きをぶにょんと受け止め、弾き返す。尻餅をつきその手から槍を取り落としかけたこのみは、一歩後ろに下がり、腰の辺りで槍を前に構え、深く腰を落とす。
「これならっ!」
3歩ほど助走して、槍がバリアに突き立てられる。
「うおおおおおおおっ! ……うわぁっ!」
しかし、その勢いを殺して跳ね返す水鏡。このみはさきほどより大きく弾き飛ばされ、後ろの壁に激突してしまう。このみの頭の上にはHPを表すゲージが表示され、全体の10%ほどのダメージを受けたことが伺える。
「無駄じゃ、このグレートバリアリーフ、絶対的な防御力を有しているようでな。攻撃のダメージは攻撃したものに返ってゆくようじゃ」
「……でもっ、それでも私はおにいとこのダンジョンを出るんだっ!」
このみは槍を床に突き立て、それを支えに立ち上がろうとする。マノリアはこのみが本気であることを見定めると、小さくため息をついた。
「ふぅ……そなたの意思が固いのはわかった。じゃが、兄上とこのダンジョンを脱出するのは……わしの役目じゃ!」
マノリアは、グレートバリアリーフのバリアを正面に向け、そのままこのみへと突進して行く。
「バリアには、こういう使い方もあるのじゃ!」
「ひぃっ!」
バシャーンッ!
このみは小さな悲鳴と同時に槍を再び正面に構え、電撃を発射する。しかし、その電撃を押し返しながらマノリアのバリアは突き進んだ。大きな水しぶきの音が部屋を揺るがす。そして――
「ああああああああっ!!」
水の音に続いて響いた絶叫の主、このみは、壁と突進してきたマノリアのバリアに挟まれ、一瞬にしてHPをごっそりと持っていかれ、ついには0となってしまう。このみはそのまま床に倒れ、数秒の間を置いて光となって砕け散った。
パリーンッ!
壁に走る光は赤から青に変化した。その様子を見届けたマノリアは、腕に装備したグレートバリアリーフに視線を落としながら呟く。
「ふう……モンスターの退治には苦労するが、やはり対人ではこの手の装備が強いようじゃな」
「このみ……」
彼女が消えた跡には
ゴゴゴゴゴ……
「な、なんじゃ? また地震か?」
ダンジョン全体が揺れる。揺れが収まるとマノリアが再び口を開いた。
「なんなんじゃこれは……しかし、対人戦についてはこういうゲームだと諦めるしかないのう……あの様子だと、実際に痛みを感じているようじゃ。わしはこの盾のお陰で一度もダメージを受けておらんからわからんかった」
「そうなのか……なぜそんな趣味の悪いシステムに……このみはどうなったんだ?」
マノリアは僕の問いに一瞬言葉を詰まらせる。
「……そんなことを考えてもしょうがなかろう。とりあえず行くか」
「えっと、マノリア、この槍……」
「ふむ……よっと」
マノリアはディスチャージャーを拾い上げた。
「これが使えれば、モンスター攻略も楽になりそうじゃの」
「さっき、ガシャポンから出した時に名前を呼んだから、これも名前を呼べば装備できるんじゃないかな?」
「そういうもんかの……どれ、ディスチャージャー!」
[マノリアさんと
「ほう、装備できたぞ! やった! やったーっ!」
マノリアは子供のように飛び跳ねて喜んでいた。
「……コホン、ここに置いておいて、誰かに利用されてもよくないからのう。さて、では出口を探すか」
「うん……早くここを脱出しよう」
僕とマノリアは、出口を探すため、徹底的にダンジョンを探索することにした。マノリアは扉を開けながら不満げにこぼす。
「しかし、行けども行けども全部同じ形の部屋、これでは面白味に欠けるのう……」
その時、ガタンと音がして、部屋を走る光が黄色に変わる。
「ふん、来たようじゃな。どれ、この槍の威力を……って、グレートバリアリーフ!」
壁から湧いて出てきたのは、虫型のモンスターと、魚のような形をして宙に浮いているモンスター、鳥のような姿のモンスターだった。マノリアが驚いた理由は、そのモンスターたちが3匹ずつ出現したからである。その中で、魚型のものが真っ先に突進してくる。
「……うわっ!」
「えっ……あ、兄上っ!」
魚たちが向かってきたのは、盾を構えたマノリアではなく、僕の方だった。僕は回避運動を取ったものの、1匹の突撃をもろに食らってしまった。そして、マノリアが言うように、確かに、痛覚に連動しているようだった。しかし、そんなことより重要なことは――
「兄上のHPゲージが……減っておるぞ!」
次は鳥型のモンスターたちがやってくる。彼らは僕の周りでホバリングしながら、逃げ惑う僕をツンツンと突っつき始めたのだ。
「いてっ!」
「くっ……わしが盾など使っておるから、ターゲットから外れたんじゃな……ディスチャージャー!」
鳥たちに電撃が浴びせられ、3匹がポトリと落ちる。しかし、魚型のモンスターは、再び僕をめがけて突撃をしかけてくる。
「なんとっ……えいっ!」
槍から放電が起こるが、1匹の魚はすでに僕のHPを奪っていた。
「ぐあっ!」
魚たちは電撃により息絶える。続く放電により、虫型のモンスターも殲滅した。部屋の光は青に変わり、部屋の中央に宝箱が出現するが、マノリアは僕の方へと駆け寄ってくる。
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