第50話 探索
[シスターウォーズ、ゲーム開始です。制限時間は残り180分]
そのメッセージのあとに、1秒ほど部屋全体が揺れる。僕は
「
しかし、そこには
「僕は何をすればいいんだ?」
そんな独り言を呟きながら、僕はダンジョンの部屋を渡り歩いて行く。しかし、どの部屋も同じ間取り、同じ模様、同じ緑の光が走り、もはや自分がどこから来たのかすらわからなくなっていた。連続する同じような部屋、まるでゲームの無限ループのように、それは延々と続いていた。
「青い……」
やっとのことで訪れた変化だ。僕は青い部屋に辿り着いた。中央にはポツンと、開いたままの宝箱が置いてある。僕はそれを覗き込むが何も入っていない。そうして次の部屋へ移動すると、またしても緑の部屋に出る。僕はダンジョンの中をしばらく彷徨い歩いた。
「……黄色? って、君は!」
部屋を移動するとそこには黄色い光が走っていた、そして、目の前ではこのみが獣型のモンスター3匹と対峙している。モンスターは皆同じ獣形をしており、体長1メートルほどはある。3匹は四つの脚を慎重に運びながら、このみの周りを弧を描くように取り囲んでいた。モンスターたちは一瞬、部屋に入室してきた僕に、一斉に視線を向ける。
「誰? って、おにい! やっと見つけた! ちょっと待ってて!」
このみはそう言うと、手にした金色の槍、ディスチャージャーを天にかざす。すると、稲妻がほとばしり、獣型のモンスターたちに電撃が走る。モンスターたちは一瞬の間を置いてあっけなく倒れ、部屋の壁を走る光は青く変化した。そして、このみはすかさず僕に駆け寄ってくる。
「やった、おにい! おにいなんだよね? おにいを見付けられたってことは、あとはここから脱出するだけだよね?」
「……そ、そうかな……出口らしきものは今まで見てないけど」
「とりあえず、探し回ってればどこかに出口があるんじゃないかな?」
そうして僕とこのみはダンジョンの各部屋をひたすら捜索して行った。部屋に走る光は緑のものが多かったが、時折黄色く変化し、モンスターが現れる。
「うへぇ~、これ虫みたいだね? 怖い、怖いよぉ~」
このみはそう口にしながら、壁から湧いてくる虫型のモンスターたち3匹を、ディスチャージャーの放電で攻撃していた。
「ふぅ、楽勝楽勝っ!」
その後も、黄色い部屋に出くわしては、出現したモンスターをこのみが放電で処理して行く。這い回る虫型、四つ足の獣型のモンスターたちは、3発ほどの放電で成すすべなく倒れて行く。
「なんか簡単にクリア出来ちゃいそうだねっ。これも私とおにいの愛の力かな?」
「へ、変なこと言うなよ」
「あははっ……でもさ、おにいにあんなに妹が居るなんて知らなかったよ」
僕とこのみはダンジョンを探索しながら、時折現れるモンスターたちを蹴散らし、会話を続ける。
「妹と認めた覚えはないんだけどね……」
「でも、あの白い髪の娘って、どこかのお姫様なんだよね? 何でそんな人とおにいが関係あるの?」
そんな会話を交わしながらも僕たちは部屋を渡り歩いて行く。
「ちょっと!」
「ん、どしたの? おにい」
「そっちの扉を開くと前の部屋に戻っちゃうんじゃないかな?」
「え、そうかな?」
このみがそう言いながら扉を開くと、そこは青い光が走る部屋であった。
「ほら、青い部屋は一度通ったところだよ」
「そっかー、黄色くなると敵が出てきて、それを倒すと青くなる。確かにこの部屋は一度通った部屋なんだろうね」
しかし、扉は4つある。さっき出た扉がどれかなんて覚えちゃいないが、とりあえず同じ扉を選ぶ確率は1/4だろう。
「こっちでいいんじゃないかな?」
「あははっ、おにいだって当てずっぽうじゃん! でも、出口も同じ扉だったとしたら、見付けるの大変だよね。
などと言いながら、僕の選んだ扉を開くこのみ、そこは緑の部屋。どうやら初めて訪れる部屋のようだ。
「緑の部屋か……すぐ黄色になることもあるけど、しばらく歩き回ってるとどの部屋も結局黄色くなるんだよね」
このみは部屋の中をうろうろと歩き回る。僕がその姿を目で追っていると、壁の方からタッタッという物音がする。
「人……? 何者じゃ?」
声のした方に視線を向けると、そこには開いた扉に人影が佇んでいて、こちらの様子を伺っている。
「まさか、兄上なのか!? おおっ、兄上ーっ!!」
両手を真っ直ぐ前に出して広げ、僕に駆け寄ってくるのは、白い髪をなびかせたマノリアだった。僕は彼女の深紅の瞳に見惚れていると――
「おにいっ! なにこれ!? 赤くなったよ」
後ろからこのみの叫ぶ声が聴こえる。僕はそちらに振り向いた刹那、マノリアは僕にしがみついていた。
「おいおい、このみ、マノリアの目が赤いのは……」
僕がそう言いかけると、その時やっと異変に気付く。先程まで走っていた緑の光は、赤い色に変化していたのだ。
「なんだ……これ?」
[エンゲージが発生しました。この部屋の中に居る妹のうち、誰かひとりのHPが0になるまでここから出られません]
僕の疑問に答えたのはシステムメッセージであった。それは、エンゲージが意味するところの――
「ふむ、交戦しろってことかの……」
「え、どういうこと……?」
僕たち3人は、赤い光に囲まれたままお互いに顔を見合わせていた。その頃、他の少女たちは――
「まったく、私、剣道なんてやったことないのよね……やぁっ!」
モンスターを刀の錆にしてゆく者。
「ファイアーッ! あははっ、本当に魔法使いになったみたい」
マンガの神様に誓ったペンを、炎の宿る杖に持ち替えて戦う者。
「ふう、このぐらいの傷なら平気かな」
敵の攻撃を受け止めながら、重厚な斧を振るう者。
それぞれの少女が、それぞれの戦いを繰り広げていた。そして――
「あなたは何者なのですか?」
「ふふふ、
「そんなもの……存在しません!」
青い瞳の少女の手から放たれた凍てつく矢じりが、人ならざる者へと一直線に飛ぶ。
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