第49話 開幕

「……でも、それっておかしくない?」


 珠彩シュイロの声に、ゲームへの参加の意思を固めた皆が動きを止める。


「もう、みんな乗り気になってくれたのに……どうしたの? 珠彩シュイロちゃん」


「あんたはなぜ、私たちをここに呼んだの? 兄貴なんて、勝手に記憶をコピーして、勝手に殺せばよかったんじゃないの?」


「ああ、言い忘れてたよ、私はね、自分が菜音ナオトくんの妹に相応しい存在だっていうことを証明したかったんだ。あなたたち全員に勝利することによってね」


「そう……私に勝つ自信があるってこと?」


「そりゃね。私は菜音ナオトくんが生み出した存在だから。彼に一番近い存在が私。それなら勝つしかないでしょ? それとも、珠彩シュイロちゃんは私より、菜音ナオトくんのことを愛してるとか、そういうことが言いたいのかな?」


「ち、違うわよっ! 兄貴が死んだら寝覚めが悪いでしょ! だから……」


「本当にそれだけ? キスまでしておいて?」


「う……そんなところ、見てたの……?」


「ふふふ……」


 実羽ミハネは余裕に満ちた不気味な笑みを浮かべる。一瞬たじろいだ珠彩シュイロはかぶりを振り、実羽ミハネを睨みつけて言い放つ。


「兄貴と離れたくないって思うことの……何が可笑しいのよっ! そのふざけたゲームとやらをクリアして兄貴が取り戻せるなら安い物……しょうがないからやってあげるわよ」


珠彩シュイロちゃん……ボクも同じだ」


「お姉ちゃん、私だってそうだよ」


「ま、おにいがいない世界なんてつまんないだろうしね~」


「お兄様を救うことで果音カノン様に認められたいですから」


「わしの兄上を情報ごときに独り占めされたくないからのう」


 珠彩シュイロたち6人は互いに顔を見合わせ、その意思に揺るぎが無いことを確認する。


「じゃあ、準備はいいんだね?」


 実羽ミハネの言葉に6人は何も言わず頷く。そして、彼女たちは設置された椅子に腰を掛けた。


「始めるよ……」


 6人の頭に椅子の背もたれからヘルメットが被せられる。すると、僕の目の前のモニターの映像は、今僕が居る部屋と似たような白い光が走る部屋を映し出す。そして、そこに6人がの姿がじわりじわりと現れる。


「ここが、VR空間……」


 悠季ユウキさんがそう漏らすと、画面の端から実羽ミハネが歩いてやってくる。


「みんな、無事に入れたようだね。初めまして……でいいのかな?」


 実羽ミハネは相変わらずセーラー服、悠季ユウキさんは白黒のメイド服、星宮ホシミヤさんは紺の修道服、燈彩ヒイロちゃんは魔法使いのような赤いローブ、このみはピンクのフリフリのステージ衣装、マノリアは白いドレス、珠彩シュイロはブレザー、高校の制服を身に纏っていた。よく見ると部屋の真ん中にはガシャポンのような装置がポツンと佇んでいた。


「ここはどこ? これからどうすればいいのよ?」


「ここは、始まりと終わりの部屋……さ、みんな、このガシャポンを回して武器を手に入れようね。この先こわーいモンスターが襲ってくるんだから」


「なるほど、敵を倒しながらダンジョンを探索して、菜音ナオトさんを見付けて脱出するってクエストだね」


「そうだね、さ、悠季ユウキくんが一番最初に来たんだから、最初にガシャポンを回しなよ。この中には7つの属性の武器が入ってるんだ」


 悠季ユウキさんはガシャポンを回す。すると、オレンジ色のカプセルがコロンと落ちてくる。


「これは地属性の武器、不動斧フドウノオノアースアンカーだね」


 悠季ユウキさんがカプセルを捻って開けると、彼女の目の前の空間に、錨の形をした1メートルはある赤茶けた大斧が出現する。


「さ、悠季ユウキくん、その斧の名前を呼んで、契約するんだ」


「……アースアンカー!」


 悠季ユウキさんは声と共に斧の柄を握る。すると、機械的な音声が響く。


 [悠季ユウキさんと不動斧フドウノオノとの契約が成立しました]


 システムメッセージであろう。


「ふふ、じゃあ、次は澪織ミオリさんだね」


「はい」


 ガシャポンから現れたのは紫色のカプセルだ。


「これは冷属性の武器、凍結弓トウケツノユミリフリジェレイターだね」


 星宮ホシミヤさんの前に、細長い紫の水晶を組み合わせて作ったような弓が現れる。


「リフリジェレイター……!」


 [澪織ミオリさんと凍結弓トウケツノユミとの契約が成立しました]


 そして、次々とガシャポンを回してゆく女性たち。


「赤いカプセルということは炎属性、点火杖テンカノツエファイアスターターだね」


 燈彩ヒイロちゃんが引いたのは、赤い菱形の宝石を先端に備える金属製の杖だ。


「ファイアスターター!!」


 [燈彩ヒイロさんと点火杖テンカノツエとの契約が成立しました]


「黄色いカプセルは雷属性、放電槍ホウデンノヤリディスチャージャーだね」


 このみが引いたのは、三又で金色の刀身を備えた槍であった。


「ディスチャージャーッ」


 [このみさんと放電槍ホウデンノヤリとの契約が成立しました]


「青いカプセルは水属性、堡礁盾ホショウノタテグレートバリアリーフだね」


 マノリアが引いたのは、サンゴ礁のような色とりどりの模様が美しい、ラウンドシールドだった。


「グレートバリアリーフ」


 [マノリアさんと堡礁盾ホショウノタテとの契約が成立しました]


「じゃあ、私も回せばいいのね……」


「うん、残りは2つ、残り物には福があるっていうけど……」


 転げ落ちたのは黒いカプセル。


「これは闇属性の吸血刀キュウケツノカタナブラッドレインだね」


 現れたのは黒い刀身が血のような赤い光を反射する刀。珠彩シュイロはその柄を握りしめる。


「……ブラッドレイン!」


 [珠彩シュイロさんと吸血刀キュウケツノカタナとの契約が成立しました]


「じゃあ、最後は私だね」


「やっぱり、あなたも参加するのですね」


澪織ミオリさん……言ったじゃないですか、私はあなたたち全員に勝つんだって。それに、ゲームは自分でプレイしないと面白くないからね」


 そう言いながら回したガシャポンからは、緑のカプセルが転げ落ちる。


「風属性の剣、循環剣ジュンカンノツルギサーキュレイターだね。まあ、私は知ってたけど」


 その武器は、柄の両端に50センチメートルほどの刀身がプロペラのように互い違いの角度で伸びているものだった。


「サーキュレイターッ!」


 [実羽ミハネさんと循環剣ジュンカンノツルギとの契約が成立しました]


「じゃあ、始めようか!」


 実羽ミハネがパチンと指を弾くと、僕の目の前のスクリーンは消え、実羽ミハネが再び扉から現れる。


実羽ミハネ……」


「ふふ、自分の境遇が分かった? まあ、私と一緒にずっとここで暮らすのも悪くないでしょ? そうそう、彼女たちには言い忘れたけど、私が勝った場合、彼女たちの脳から菜音ナオトくんの記憶は全部消えることになってるから。思い残すこともなくていいでしょ」


「そうなのか……」


「じゃあ、私は菜音ナオトくんのために頑張ってくるから、応援してね」


 実羽ミハネは四方の壁に一枚ずつある扉のひとつに手をかざして開き、部屋から出て行った。その時、システムメッセージが響く。


 [シスターウォーズ、ゲーム開始です。制限時間は残り180分]


 そのメッセージのあとに、1秒ほど部屋全体が揺れる。僕は実羽ミハネを追って閉じた扉を開き、白い光が走る部屋から出た。


実羽ミハネ! まだ聴きたいことが……」


 しかし、そこには実羽ミハネは居なかった。そこは、さっきまでいた部屋と同じ間取りだったが、幾何学模様の壁を走る光は緑色をしていた。


「僕は何をすればいいんだ?」

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