第44話 王女の望むがままに
偶然出会った異国の王女マノリア。日本のアニメが大好きな彼女に招待されて、僕と
「ああ、ごめんなさい。妹、寝ちゃってるみたいで……」
「おお、そうなのか。今日はこの国の休日なのであろう? 妹さんは徹夜でゲームでもしていたのか?」
「いえ、恐らくマンガの原稿を徹夜で描いていて……」
「マンガ? なんじゃそれは?」
「絵と文章を組み合わせて物語を綴ったものです」
「ほう、それはライトノベルのことじゃな? 文字の海の中に浮かぶ夢の島、それが挿絵じゃ」
「あー、いえ、違うんです。実はマンガというのは50年前に……」
「もう、兄貴、そんな蘊蓄語り出したら失礼でしょ?」
「なあ、
「あ、いえ、それは……」
僕が小声で否定し始めたのを見るや、
「はい! そうなんです。
"になる予定"の部分だけ目を逸らして小声で呟く
「そうか、そなたは
「えー、あなたもですか……うーん……」
「ふふふ、わしはまだ15歳じゃ! そなたはそれよりは上であろう。年上の男性を兄上と呼んで何が悪い!」
「ま、まあ、いいんじゃないですか? 兄貴も良かったわね。王族の妹ができるなんて……くくくっ」
「だから、僕の妹は
僕と
「……ふん、確かに兄妹というのは良いもののようじゃな。ところで兄上よ、先程言いかけた、マンガというものについてだが、もっと詳しく教えてはくれまいか?」
僕はマノリア王女に蘊蓄の続きを披露した。その様子を冷ややかな視線で見守る
「姫様、
ミトさんが丁寧な口調で僕たちに問う。
「何を言う、ミトじいよ!
「かしこまりました。
「「は、はい」」
というわけで、そのホテルの最上階にあるレストランの個室に招かれる僕たち。
「緊張するわね」
「そういや兄貴は根っからのお金持ちだものね。成り上がった私たち家族とは違うのよね」
呆れたような表情でそう漏らす
「オープニングテーマのあとに登場した先輩配達員が……」
「口では強がってたけど本当は……」
「途中で登場した絵描きのセリフが……」
「あのセリフは監督が実際に……」
「頭の上の巨大な赤いリボンが印象的で……」
しかし、隣の
「
僕はうつらうつらとして瞼が閉じかけた彼女を呼ぶ。
「……ああ、兄貴? お料理、美味しかったわね」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫よ……えっと、マノリア王女、ごめんなさい、私ちょっと疲れちゃったみたいで……」
「これは申し訳ないことをした……そなたのことを放ったらかしにしていたようだな。すまない」
「いえいえ……」
「お食事も済んだことですし、この辺でお開きにしませんか」
しかし、その言葉にマノリア王女は不機嫌な様子を見せる。
「じい、良いところだというのに……」
「しかし姫様、おふたりに迷惑がかかっては……」
マノリア王女の視線は、ミトさんから僕へ、そして
「あっ、では私たちはこれで失礼致します。この度は本当にありがとうございました」
「そうか……うむ、
マノリア王女も渋々納得してくれたようだ。
チーン
僕はエレベーターが到着する音に意識を向けることができなかった。なぜならば、振り返った先の少女は、その赤い瞳で僕を引き留めようと訴えかけていたのだから。
「ねえ……」
「はあ……わかったわ。私、先に帰ってるわね」
エレベーターの扉が静かに閉まる。僕は身体を廊下の先の少女に向け、足を一歩前に踏み出す。
「……兄上」
僕の視線の先から控えめな声が響く。それと同時に、僕はゆっくりと足を運び始める。しかし、マノリア王女は僕を呼び終えると共に、その足で廊下を力強く蹴りつけていた。あっという間に肉薄し、僕の身体にめり込むように衝突した少女の身体は、羽のように軽かった。その抱き心地は柔らかく、儚さを感じさせる。僕の鼻の真下には白銀の美しい髪を湛えた彼女の頭があった。なぜだろう、この少女は他人のはずなのに、ずっと前から知っているような懐かしい匂いがする。僕がその不思議が感覚を味わっていると、少女は顔を上げた。
「兄上! わしはアキバに行きたい! 案内してくれぬか?」
「えっ?」
「知らんのか? 秋葉原じゃ」
「いえ、それはわかりますけど……」
「ううう、日本に来たのにアキバに行かないなんてあり得ないじゃろ! さあ、早く行こう!」
「は、はい、わかりました」
「では姫様、
「わし、着替えてくるっ! ちょっと待っておれ!」
急いで着替えを終えたマノリア王女、僕、ミトさんの3人でエレベーターを降り、フロントから外に出ると、既にリムジンが待ち構えていた。そこに半ば押し込まれるように乗り込み、一路秋葉原を目指す。
「ふふふ、兄上とアキバ観光じゃ♪」
僕の隣で上機嫌になって体でリズムを取るマノリア王女。彼女の服装は何故か黒のブレザーとグレーのチェックのスカートだった。襟元には青いリボンが揺れている。そう、彼女の服装は日本の女子高生の制服のようなものになっていたのだ。
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