第41話 炎上と会見
「マンションに帰ったら盗撮されるから……」
「ああ、そうだね……」
その理由は取ってつけたようなものに感じられたが、僕はその違和感を飲み込む。それから僕たちは、言葉を交わすことも無く、大きな池のある公園に足を向ける。ベンチに腰をかけ、自販機で買った暖かいお茶をすする僕たちふたり。
「……私の家ってさ、私が芸能活動を始めた頃から、両親がしょっちゅう喧嘩してて、ついに離婚しちゃったんだよね。私が中二の時」
「そうなんだ……」
「でね、なんか全部嫌になっちゃって、高校入ってから独り暮らしを始めたんだ。プロデューサーが色々世話してくれたよ。だから、アイドルをやめるなら、今のマンションを出て行かなきゃならないかな。稼げなくなるだろうしね」
「……両親か」
「おにいのご両親は……?」
「……不幸があってね」
「そっか、ごめん」
「いいんだ。僕はもう振り返らない」
「……強いんだね」
僕たちがそんな会話を交わしてる頃、アイドルの炎上という事態に収拾をつけるため奔走する男がいた。その名は
「……ったくどこに行ったんだあいつは……くそっ」
彼は毒づきながらも打開策を探っていた。彼こそが
「こいつらを黙らせる方法は……」
そうして彼が打って出たのは、SNSの
「
お決まりの文句である。スキャンダルが起こるとそれまでの経緯で何があろうが、まずはご迷惑をお掛けしたことを謝罪するものなのである。そして、
「しかし、私もプロデューサーとは言え人間です。皆様の反応に心を痛めているということもお伝えいたします。なぜ、監督やスタッフ、そしてキャストの
それは、謝罪とは名ばかりの、顧客への苦言であった。
「
アイドルの公式アカウントとは思えないその発言に、SNSのユーザーたちはざわめき立つ。"的外れな謝罪"、それがその投稿を見た人間の素直な感想であった。そして、
「まずいわね……」
「もしもし、私は
「はい、鈴野です。いかがなさいましたか?」
「プロデューサーに折り入ってお願いがあるのですが……
「掛け合ってみます」
そうして電話を切りしばし待つ。焦りを感じ部屋をうろうろする
「どうやら
「そこをなんとか、お願いします」
「と、言われましても……」
悩む
「……
「う……わかりました」
電話を切って茶色のレディスーツに着替え、家を出る
「失礼します。
30分後、ホテルに到着し、プロデューサーの部屋へと訪問する
「
「し……
――予想外の人物との再会に目を丸くする
「あなたが……
その人物は
「そ、そうです……」
「あなた……なぜ突然会社を辞めて……」
「それは……」
「は……」
しかし、出かかった言葉を飲み込み、彼女はかぶりを振る。
「……いえ、今はそんなことより、あなたが油を注いだ炎上を食い止める方が先よ……いいですね?」
「は……はい、しかし、どうすれば……」
「会見を開きましょう。今すぐに。あなたは私の筋書き通りに喋れば……」
「私が表に顔を出すということですか? ……それだけは」
「……くっ、わかったわ……私が出る。それでいい?」
「はい……」
「じゃあ、会見の手配をお願いするわ……」
記者会見はそのホテルのロビーで行われることになった。
「皆さま、私は『ハイタッチガール』の製作委員会に参加している、
深々と頭を下げる
「この度の騒動、これらは全て、我々製作委員会に責任があります」
「……
記者のひとりの言葉に、その目を見つめてはっきりと答える
「はい、
「
記者の表情は、ただ単に質問をしている時のものではなかった。その裏側に、スキャンダルを煽ろうとする下心が覗き見える。そんな彼に対し、
「そちらにつきましては、あの男性は
「やはり男性が……その、失礼ですが、女性アイドルの部屋に男性が踏み込んだとなれば、ファンの方々が黙ってはいないと思いますが」
「はい……ただの男性であればそうですが、あの男性は、実は……ネットアイドル、伝説の男の娘メイド、サイネなのです!」
「あの、先日ネットを賑わしたサイネちゃんですか?」
「そうです。サイネの正体は彼。彼はその演技力を買われ、
「しかし……女装していても男性……やはり疑惑は晴れていないのではないでしょうか?」
「そちらは心配に及びません……なぜならば、サイネの心は女性そのものであり、男性が好きだからなのです! 彼は
「で、では、サイネさんは、その……性同一障害の男性であったと……!」
「そう考えて頂いて問題ありません! 彼は……いえ、彼女は男性の肉体を持っていることに悩んでいた。しかし、メイド服を着てネットアイドルに扮することにより、彼女本来のアイデンティティーを手に入れたのです!!」
こうして話題は、
「
こうしてネットアイドルサイネの、いや、僕の尊い犠牲を払って、
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