第32話 変身
「くっくっくっ……
「ど、どういうこと?」
「
顔を上げた
「そ、そんなの……」
「私の気持ちを理解できるチャンスなのですよ?」
「……わ、わかったよ」
そうして
「はい……できました! そうだ! 最期にこれを!」
「じゃあ、
ピンポーン
――部屋のチャイムが鳴った。僕は扉が閉まったばかりの浴室に目を泳がせる。
「……あっ、
「こんにちはっ! 来てあげたわよっ! って、あんた……」
――
「こ、これはね……」
「あんた…… 帰ってきたの……ね」
彼女はその歓喜に満ちた声と共に顔を綻ばせ、僕の両手を握る。僕もつられて、その柔らかく暖かい手を握り返す。そして――
「……って、
「いや、僕は……
「……ひぃっ! な、何勝手に人の手を握ってるのよ! あ、兄貴なの? あんたがそんな奴だったなんて……!」
汚物を前にしたような視線でたじろぐ
「あ、
そこに居たのは白と青のダボダボなパーカーを着て、グレーのハーフパンツを履いた――
「……ゆ、
「ああ、それ、
「あはは、
「まさか、これって
「そうだよー。
「に、似ているわ……
「そ、そうなの?」
僕が疑問を口にすると、
「うん、
そう言って
「……え……
僕はその形を確かめるように両手を自分の顔に当てる。そして、その表情は自然と目尻が下がり、だらしなく綻びる。
「何、自分の顔見てうっとりしてるのよ! 気色悪いわね!」
「あははっ!
「うっさいわね
「ボクはしばらくメイドの仕事をお休みすることにしたのさ!
「『
「そうか、敬わないといけないね。うーん……あっ! じゃあ、こう呼ぼうか……姉さん!」
「ね……姉さん? って、僕のこと?」
「姉さん、『僕』じゃないでしょう? 『私』、ほら、言ってごらん」
「……わ、私」
「そう、そして、姉さんの名前は……野菜の『
「私は……サイネ……ご主人様に仕える……メイド」
「そう、姉さんはボクに仕えるメイドさん……」
「……あんたたち、何がどうしたって言うのよ!」
「
「ひっ! そんな呼び方……やめなさいよ……兄貴」
「
「ちょっと!
「ボクは何もしてないよ。ただ、姉さんにはきっと、変身願望があったんだよ。ほーら、姉さん……今度は姉さんのお仕事振りを……動画サイトで公開するよ。いいね?」
「はい、
「はははっ!」
「何、あんたら……そういえば
「取ってなかったよ。だからこんな事態になってるんじゃないかっ♪ ……くくくっ」
「しかし、ホントに
「
「うう、気持ち悪いけど、
「姉さん、パソコン借りるよ」
「……ムーバーの設定画面なんて開いて、何すんのよ?」
ムーバーは世界最大の動画サイトの名称である。
「『お姉さんメイド観察日記』っと」
「あんた、今、ものすごく悪い目をしてるわよ……」
「元はと言えば、
「人のせいにしないでよっ!」
そうして、私と
「姉さん、ボク、着替えたいんだけど」
「はい、かしこまりました。どうぞ、こちらへ」
「うん……あっ、姉さんちょっと、その、手が……」
「申し訳ありませんっ!」
極めつけは、
「『ワンルームメイド』だった頃より、アクセスの伸びが早い。やっぱりボクの狙い通りだな……」
「姉さん、歌に興味はあるかい?」
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