第24話 救済
「こんにちは、オカルトバスターです」
僕に手錠をかけて喫茶店に連れ込んだ
「お待ちしておりました」
少し年季の入った家屋からは、老夫婦が現れる。彼らは僕の存在と、僕の手と彼女の手を繋ぐ手錠に無視を決め込み、
「なるほど……首輪が外れてワンちゃんが逃げてしまったと」
老夫婦の男性が持つ首輪は、老朽化のためか千切れているようだった。彼らは犬が逃げてしまった原因を、何か良くないものの仕業だと考えているようだった。
「そうですか……では、そのワンちゃん……ポチタロウさんがいつ帰ってきてもいいように、首輪とおうちを新しくしておきましょう」
僕たちは老夫婦を連れて、この間のようにホームセンターへと足を運ぶ。そして、犬小屋の材料となる板と釘、それと首輪を購入する。
「えっと、僕が運びますよ。もう逃げないので、この手錠、外してもらえますか?」
「……いいでしょう」
僕は手錠を外してもらい、大部分の荷物を運ぶ。4人で老夫婦の家に戻る道すがら、ご主人は小声で僕に話しかける。
「いいねえ、彼女さんがシスターだなんて、それにものすごくべっぴんさんじゃないか。大切にしてあげなさいよ」
「ははは……はい」
苦笑いを浮かべながら生返事をする僕であったが、その心のうちでは、老夫婦へのきめ細やかな対応や、その境遇を想い、
「それでは、お祈りさせて頂きます。……太陽と月の狭間を征く者に、星明りの導きを……」
そして、僕と
「はぁ……結構手間取ってしまいましたね……今日はもう帰りましょうか」
「そうですね」
「でも、お兄様、あなたのことは絶対に……諦めませんからね!」
「ははは……あー、そう言えばそんな話してましたね……あ、あの、送りますよ」
「あ……ありがとうございます」
僕の心にも
「しかし、オカルトバスター、立派な活動ですね。あれでポチタロウ君が帰ってくればいいんですけど……」
「……帰ってきませんよ」
その時の彼女の目は、死んだように輝きを失い、真っ直ぐ前を見つめていた。
「では何故、犬小屋を造らせたのですか……?」
「最近の情報技術というのは残酷なものですよ。さっき、喫茶店で依頼の写真を画像検索したら……コホン……いえ、あれは、心理療法のようなものです。お兄様、あなたと
「しかし、あなたはステラソルナの神様を信じているのでは……?」
僕は立ち止まる。少し先を行く
「居る訳ないじゃないですか。そんなものは愚か者共に与えられた虚構の偶像。問題に突き当たった時に悩むことしか能が無い、迷える子羊たちへの慰め、ちっぽけな救済に過ぎません。……ですが、それでいいのです。何かを信じるくらいのことで迷いや悩みが消えるなら、安い物でしょう」
夕陽の逆光に照らされた彼女の横顔は、蔑むような微笑みを湛えていた。
「ですが、あなたは神様を見付けたと」
「……そう、私はそんなまやかしなどではない、本物の神様を見付けたのです。それは……あなたの妹さんなんですよ」
「
僕は驚きを隠せなかった。しかし、僕の口からこぼれたその名前に、
「はい、中学生の頃、私はクラスの中で孤立していました。当たり前ですよ。身寄りのない変な宗教の女だって、みんな噂してました。そのせいで私は、学校では毎日鬱屈した日々を送っていました。しかし、後輩として入学してきたあなたの妹、
「そ、そうでしたか……」
「はい……声を掛けられないまま、私はステラソルナゆかりの高校に進学して、
「あの女?」
「あなたの妹になるとSNSで宣言した女です。あの女は
「ええ……それはまた……なんとも」
僕はそれ以上の言葉を口に出すことができなかった。
「あ、兄貴、やっと見付けた……
「え……
制服姿の彼女は、黒いハイソックスを纏った脚でこちらに駆け寄ってくる。風になびくその赤い髪は、夕陽の中で真っ赤に燃え上がっているかのように美しかった。そして、その手は僕の手を掴む。
「さあ、行くわよ! もう、心配かけないでよね……」
「あなたは……
「はあ?
「
「ふーん、知らない名前ね。大体、そんな修道服を着た知り合いが居るなら、忘れやしないと思うけど」
「ぐっ……お兄様、今日はこの辺で勘弁して差し上げます。ですが、私は絶対に諦めませんからね! それと……覚えてなさい、
そう叫んで走り去って行く
「な、なんだったの……アイツ」
「多分、悪い人じゃないと思うよ……」
「そ、そう……っと、そういえば、
「そうなの?」
僕は
「お帰りなさいませ。
「あんた、さっきは普通に喋ってたじゃないの」
「
「買い取る……別に構わないけど……」
「えへへっ、
「そっか……」
僕はさっきの
「そうだね。
「菜果荘」という名前はちょっと気恥ずかしい感じがしたが、僕はその提案を了承した。
「ありがとうございますっ!
「まあ、あんたたちがいいならそれでいいけど……ね……はは」
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