第21話 曰く付きの部屋
朝起きると、僕の部屋の壁には無数の
「ひいいっ!!」
――そこには、焦点の定まらない眼で一心不乱に壁に
「こんなことって……僕たち、どうかしてたんだ」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
誰に向けているのかわからない謝罪を続ける
「はぁ……はぁ……」
「……ありがとう、
「……う、うん」
すっかり怯え切って目を潤ませている
「それに、この部屋は借り物だ、それをこんな風に傷つけてしまったんだから、今後どうするにせよ、一旦不動産屋さんに相談しよう。ね?」
「わかりました……」
「だから、僕が行ってくるから、
「はい……」
僕はすっかり大人しくなった
「
「……な、何よその言い草……私を除け者にしようっていうの?」
「違うよ……僕たちはきっとおかしくなってしまったんだ。そのケリをつけることに
「おかしくなったなんて言ってる人を放っておけるわけないでしょ? さあ、一緒に不動産屋に行くわよ」
「しかし……」
「別に私が勝手に兄貴について行くだけなんだから、いいでしょ!」
僕はそうやって
「おや……
不動産屋の主人は僕の顔を覚えていたようだ。ただ、僕の顔を見たその時に、明らかに顔色が変わったことが大変気がかりであった。
「実は……壁を汚したり、傷つけたりしてしまって……僕と
「……その様子だと何か訳ありのようですね。詳しくお聞かせ願えますか?」
「わかりました」
僕と
「……そうですか。やはりあそこに住んでいるとそうなってしまうのですね」
「何か知ってるんですか? 私も聴いていいなら、ご説明願います」
「彼女さんもご心配ですよね。承知しました。ご説明いたします」
一瞬だけ
「もう薄々お気付きのことでしょうが、実はあの『さいか荘』はいわゆる『事故物件』というもので、あそこに住む人は、皆、奇妙な行動をとるようになってしまうのです。あなたにタダでお貸ししたのも、あそこに1年間、何事もなく人が住み続けたという実績が欲しかったからなのです」
「まあ、そんなことだろうとは思いましたけど……」
「え、
「どんな物件だって、タダで貸してくれることなんてないでしょ。何不自由なく生きてきたあんたにはわからないかもしれないけどね……で、あそこでは自殺者でも出たんですか?」
僕をたしなめた
「……いえいえ、滅相も無い。そんなことは起きていません。ですが、あそこに住むと、ある者は大声で歌い続け、ある者は絵を描き続け、ある者は独り芝居を続ける。皆、そのように変わってしまうのです」
「だから、僕も同じように自分が作り出したキャラクターの幻覚を見てしまった……」
「そうかもしれません。ともかく、あそこに住むことが危険なことには変わりないようです……」
「そうですか。なら、答えは簡単よね? 兄貴」
「簡単って?」
「あんな部屋、引き払ってしまえばいいのよ。あんたはもう自由に財産が使えるし……なんなら、うちに住んでくれてもいいんだし……もちろん、私の兄貴になるって誓ってくれればね」
「だから、兄貴にはならないってば」
「頑なねぇ……まあ、いずれにせよ、あの部屋は違約金でも払って立ち退けばいいことでしょ? 不動産屋さん、それでいいですよね?」
「……お金がいただけるなら願ってもないことですが」
不動産屋の主人と勝手に話を進める
「いや、
「じゃあどうするのよ? また起こるかも知れない幻覚に怯えながら、あそこで暮らすっていうの?
「こちらとしては、そのまま住んでいただいても構わないのですが……何が起きても私には責任が取れません」
「……それで結構です。
「ふんっ、あんた、軟弱そうに見えて意外と強情よね。わかった、好きにするといいわ。その代わり、私はもう何も手を貸さないから……それにあんな部屋、もう足を踏み入れるどころか、見たくもないわ……あんな怖い思い、もうまっぴらよ……」
「
「そうですね、それが正しい選択なのかもしれませんが……ここで逃げてもいずれどこかで同じようなことが起こる……そんな気がしてならないんです」
「そうですか……止はしませんが」
そうして僕も不動産屋を後にし、
「おかえりなさいませ。それで、どうするのでしょうか?」
不安さを隠しきれない顔の
「ただいま。
「そんな、
「そうだね……」
しかし、僕の脳裏にある考えがよぎる。
(いや、この壁を修繕するだけで済むことか? 結局はまた同じようなことになるだけではないか? 問題は僕と
「
僕は、小首を傾げる
「……オカルト……バスター?」
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