第20話 カメラは見た
捨てても捨てても戻ってくるノートに翻弄された僕と
「ねえ、さっき私を肩車した時、なんで震えてたの?」
「え!?」
それには答えられない。あれが劣情に抵抗するための行為だったなんて、彼女には言えっこない。僕は気取られないようにと慎重に言葉を選んでいたが、
「もう、何かあるならハッキリ言ってよ!」
「な、なんでもないよ」
「……そう、気を遣ってくれてるのね」
「……?」
「とぼけないで! 私が重かったんでしょ? だから震えてたんでしょ!?」
「いや、ちが……」
「違わないでしょ!? うう……ついついストレスがたまると甘い物が欲しくなっちゃうのよね……だから、ダイエットしないとって思ってるんだけど……」
「そ、そうなんだ……」
良かった、バレてなかった。と思うと共に、彼女を持ち上げることにさほど苦労を感じていなかった僕は、要らぬ誤解をさせてしまったと反省する次第なのであった。
「
「悪かったって何がよ! そんなに気を遣わなくたっていいわよ!」
「うう、困ったなぁ……」
「もうっ、バカバカっ!」
涙目で僕の胸を両手でポカポカ叩く
「ただいま戻りました……ぷっ」
「お……おかえりなさい」
冷や汗をかきながら
「ちゃんと捨ててきた?」
「ええ、しかし、毎度のことですが、不法投棄は気が引けますね」
「まあ、今回は事態が事態だから……目を瞑りましょうよ」
そんなこんなで、僕は部屋に監視カメラを付けられたまま眠りに就き、次の日の朝を迎えた。
「やっぱり……戻ってきてる」
「ええ、戻ってきてますね」
その見慣れた光景に、
「兄貴、大人しくしてた?」
「ええ、私が見てた限りでは」
「ってか、
「そうなんですが、いつの間にか眠ってしまっているのですよね……」
「僕も寝てるはずなんだけど……」
「ふふんっ、これからそれを証明してもらおうじゃない。さあ、監視カメラの映像を見るわよ」
「……え、これ……どういうことなの?」
「ボクが……なんで……」
そう、画面の中でパジャマ姿のままアパートを出て行ったのは、
「
「ボクが聴きたいよ……なんでこんなことが」
「……う、しかし、考えてみれば当然のことよね。だって捨てた場所を知ってるのは
画面の中では、愛おしそうに僕の創作ノートを抱えてパジャマ姿のまま帰宅する
ビリビリビリビリ……
――それを手で千切っていた。
「しゅ、
「何をも何も、最初からあんたがこうしておけば良かったんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
その時の
「全く、あんたら、ふたり揃ってどうかしてたのね……まあ、家族や主人を失ったんだから、当然のことではあるでしょうけど……ともかく、これは私が焼却処分するわ」
「そうだったんだ……ボクもあのノートを千切ることはできなかった。それはきっと、あのノートに何か未練のようなものを感じていたからなんだ」
「ごめん……僕があんなものを書いたから……あれには何かわからない、呪いのようなものがかかってしまったのかもしれない」
「そんな……ボクは……いえ、私が自分でしてしまったことです。その責任を感じる必要はありません」
その後、僕と
「
「え、ええ……これは……」
「「
ふたりで声を揃えて呼んだその名前の少女は、アパートの部屋の内側、壁や天井の至る所に描かれていた。それは、ペンや絵の具はおろか、刃物で深く掘り込まれたものまで、さまざまな手法で刻みつけられていた。その全ての顔は、僕たちに視線を向け、満面の笑顔を作っている。大小さまざまでおびただしい数の"彼女"たちは、色とりどりの線で描かれていたが、瞳だけは全て真っ赤に染められているのであった。
「こ、こんなことって……まさか、僕たちが?」
「ええ、でもそうとしか考えられません。どうしてこんなことに……」
「と、とにかく、これを描いたのが僕たちだって、確かめようよ……誰かのいたずらなら、それで安心できるんだしさ」
僕の藁にもすがる様な提案に、
「……ひっっ!」
玄関から現れた
「あ、あんたたちがこれをやったの……?」
震えた声でそう問いかける
「それを確かめたいんだ。監視カメラの映像を見せてよ」
「わ、わかったわ……」
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