第18話 虚構
「……きっ……兄貴っ!」
それは
「ちょっと……聴いてるの? 兄貴ってば!」
「……
「……ひっ……なんて顔してるのよっ! ちょっと、こっち来なさいよ」
「兄貴……あんた、相当やつれた顔してるわよ? 目にクマが出来てるし……一体あそこで何をしてたのよ?」
「……映画を観てたんだ」
「映画? あんたが? そんなことしてる暇があったなんてね」
「誘われたんだよ……」
「……誘われたって、誰によ」
「
「……誰よそれ」
「女の子だよ……僕の友達の」
「あんたに友達? それに女の子ですって?」
「そう……その子と一緒に『超兵器妹』っていう映画を観てたんだ」
「ふーん……」
珠彩は手元のスマートフォンを操作し始める。僕はそれを気にも留めずに続ける。
「その映画はさ……VRで仮想空間を体験できて……」
「……う、うん、超リアル体験って、サイトにも書いてあるわ」
「
「……祭? そんな情報、どこにもないわよ?」
「はは……おかしいな。確かに体験したんだけど……6時間くらいはあそこに居たんだよ」
「まだ12時前だけど……いつから映画館に行ってたのよ」
「あれ? いつからだっけ……確か、
「ちょっと……大声出さないでよ……みんな見てるでしょ」
僕はその後、うわ言のように
「お帰りなさいませ、
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫ね……」
――僕が暮らすアパートに辿り着いた。息を切らした
「……ゴクッ……ゴクッ……ありがとう、
「どういたしまして」
「……
僕は虚ろな瞳で血相を変えた
「ど、どうしたもこうしたも無いわよ……ちょっと、落ち着いてこれを見て欲しいの」
「うーん、えーと……甘くないのならなんでも」
――独り言を言いながら映画館で飲み物をふたつ購入する僕が映っていた。
「……これって、どういうこと?」
僕は
「そんなのこっちが聴きたいわよ! 私のSNSに通知があったと思ったら、『あなたのお兄さんを見かけました』って、この動画が貼りつけられてたのよ! だから、慌ててあの映画館まで行ったの」
「だって、僕は
「さっきから言ってるけど誰よそれ? ここに映ってるのはあんた独りだけじゃないっ」
「いや、そんなバカな……確かに
「なんでございましょうか?」
「このあいだ、
「……いいえ」
「でも、僕を呼びに来たじゃないか」
「それは……
「そ、そんな! だって僕のスマホにも着信が……」
慌てて手にしたスマートフォンを操作する。しかし、スクロールしても
「……なんで」
「こちらが聴きたいですよ。
「……
「
僕はその場にガックリと膝を落とし、交互にふたりの目を見る。その目に僕を陥れようとするような気配は見えない。そうではない、ふたりの目は確実に僕の身を案ずるものであった。
「……ごめん、よくわからないよ」
「……そう……なんか、心当たりはないの?」
「わからない……」
「
「……
「……ぷっ」
少し噴き出す
「……あ、あれは」
僕は組み合うふたりの横を四つん這いのまますり抜け、その荷物の中からひとつのノートを手に取り、腰を落ち着けてペラペラとめくり始める。
「何、どうしたの?」
「……
しかし、
「
――
「……そうだ、思い出したよ……
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