第17話 花火
戦後初めて開催されたお祭り。その活気を堪能した僕と
「ねえ、
「どうしたの?」
「これさ……メガネっ子のフィギュアだよね」
その手には袋から取り出した、射的の景品のフィギュアを持っていた。
「これも、これも……」
3つのフィギュアの箱を交互に見つめる
「あなたの妹もさ、メガネかけてたよね……やっぱり、家族が、妹が恋しいの?」
「……わからない、その妹を失ったって言う実感が、僕にはないんだ」
その時、
「……ごめん」
「何で謝るの?」
「だって……私が
顔を上げた彼女の瞳は潤んでいた。
「どういうこと……?」
「あの日、私があなたを誘ったから……だから、あなたはあの爆撃から助かることになったけど、妹さんとは離れ離れに……そして、妹さんはまた別の場所で……」
「……そう」
僕は事も無げにそう返す。そして、草の上に転がったフィギュアの箱を手に取り、そのキャラクターのメガネの奥の瞳を見つめていた。
「私が……私が妹になってあげるから……本当に……ごめん」
謝罪を繰り返す
「わからないけど……
「でも、もうあなたの本当の妹は帰ってこないんだよ?」
「そっか……でもさ、それなんだけど」
「えっ?」
「僕は
その時、花火が上がる。無言の僕と、その僕を丸い瞳で見つめる
「現実の世界はこんなに鮮明に光を反射しないよ。それに、今まで見てきたこの世界は、破壊されているのに美しすぎるんだ……まるで、誰かが作った芸術品のように……」
僕から目線を外し、前に向き直って花火を眺めながら、
「……いつから気付いてたの?」
「気付いたも何も、僕の妹が僕を残して死ぬことなんてない。僕はそう信じてるからね」
「なにそれ……そんなことで?」
「……笑うがいいさ。それで、これはさっきの映画の続きだよね? 考えて見れば射的が見事に命中するのだって、演出のひとつだったんだ」
「そう……これは……現実じゃない……虚構だよ」
僕たちふたりの会話は、花火が次々と打ち上がっているのに鮮明に耳に届く。
「でもさ、感動したよ。こんな美しくも儚い世界をリアルに体験できるなんて、見事なものだね。僕が知らない間に、VR技術はここまで進化していたんだ……でも、なんで
「それは……私が、
「……そっか……僕の財産のために?」
「違うよ……私が
「……
「
「そっか……」
「私は
"兄さん"、その言葉が僕の本能を突き動かすように響き渡る。しかし僕はそれをかき消さんばかりに声を上げた。
「ダメだ……」
「……やっぱり、この世界と同じように、偽物だから? この世界で味わった感動も偽物だって、そう思うのも無理はないよね……」
「……違う。偽物の世界でも、そこで得た感動自体は本物だと、僕はそう思うよ」
「それなら、偽物の妹でもいいじゃない。私を妹にしてくれてもいいじゃない!」
「でも、それでもダメなんだよ、僕のことを想ってくれるのは嬉しいけど……でもごめん、僕の妹は
「そう……わかった」
その時、
「
――誰も居なかった。
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