第16話 祭
戦争により破壊された街という現実を受け入れた僕は、
「
「あれは……お神輿……」
「うん、神様のご加護か、あのお神輿だけ無傷だったんだって、その奇跡にあやかって、今夜祭が開催されるんだ。ほら、あの川の河川敷でね」
「おや、そのマーク……訳アリの兵隊さんだな。お気の毒に……」
僕の胸にはいつのまにか勲章のようなものが付いていた。僕がそれを手に取り、目で確かめていると、
「はい、ですが、もう大丈夫です。彼はもう現実を受け入れていますので」
「……そうか、大変だったろうに……そういや、お嬢ちゃん、兵隊さんの彼女さんかい? お似合いだねえ」
ニッコリと微笑むおじさんに、
「あははっ、からかわないでくださいよ……私も彼も、他に頼れる人がいないだけなので……」
「……そうか、すまんな、変なこと言っちゃって……そうだ、いいものがあるんだった!」
そう言うと彼は、すぐそこに停めてあるワゴン車のバックドアを開き、ふろしきに包まれた何かを持ち出して
「これはなんですか?」
「ああ、これはな、浴衣だよ。祭りの日のために買っておいたんだ」
「どうして私に? いいんですか?」
「……おじさんにも君たちと同じくらいの年の息子と娘がいてな……その子たちにプレゼントするつもりだったんだけど……な」
そう言って下を向き、深いため息をつくおじさん。
「……そうですか」
それ以上の言葉が出ずに一瞬伸ばした手を止める
「ああ、遠慮しないでくれよ。こんなのいつまでも持っていても、辛くなるだけだからさ」
彼はそう言って、半ば強引にその浴衣を
その後、僕たちふたりは一旦アパートに戻ることにする。その道すがら、荒れ果てた街の様相に僕は心を痛めながら、自分が置かれている状況を徐々に噛み締めていった。
「僕は……兵隊だったのか……信じられないけど」
「うん……思い出さない方がいいかもしれないね」
「僕もその……誰かを傷つけたりしたのかな?」
「……それは私は知らない。だけど、そうだとしても
「そっか……」
「うん……」
僕たちふたりはそれ以上言葉を交わさずに、アパートまで戻る。そして、しばらくリュックの中の荷物などを片付けた後、沈みかけた夕陽を見た
「じゃあ、お祭り、行こっか?」
遠くからは神輿を担ぐ男たちの気合いの入った掛け声と、微かな祭囃子が聴こえてきていた。僕たちはさっきのおじさんに頂いた浴衣に着替え、河川敷へと赴くのであった。
日が沈んだ頃、辿り着いた河川敷には既に人が溢れており、その波に少し揉まれると、
「……ごめん、はぐれないように……ね」
その小さな手の温もりが僕の腕を伝わって、荒んだ心を癒してくれているようであった。
「あ、あれやろっか?」
「おじさんっ、強いアームでっ!」
「はっはっは、お嬢ちゃん、これはUFOキャッチャーじゃないんだよ?」
そんな冗談を交わして、
「ほら
すかさずポイを差し出す
「……あ、ああ……わかったよ」
「大丈夫ぅ?」
「任しといて!」
しかし、意気込みとは裏腹に、僕のポイはいとも容易く一匹の金魚に突き破られる。
「あーあ、はっやいなぁ……もったいない」
「も、もう一回! もう一回!」
「しょうがないなぁ……おじさんっ」
ポチャン!
――やはり、金魚たちは僕のポイをもろともしない。
「くくくっ……あははははっ、へったぴー!」
「じゃあ、
「え、私? いいよっ、ねえ、おじさんっ」
「はいよっ」
小気味良いリズムでポイを受け取る
「……いくよ!」
「えっ……どうやったの?」
「へへんっ! どんなもんだいっ!」
得意げに金魚をお椀に移す
「お嬢ちゃん、すげえな……金魚すくいなんて……やったことあるのかい?」
僕はおじさんのその言葉に軽く違和感を覚えるが、
「おじさんっ、ありがとう!」
「お、おう、気を付けてな」
「それ、どうするの?」
僕はビニール袋に一杯になった金魚たちに目を落とす。
「……うーん、食糧難だしね……」
「え……」
「冗談だよっ! 冗談っ、もう、
そう笑い捨てる
「ねえねえ、あれもやってみようよ!」
「くっそー……おじさんっ、もっかい!」
「お嬢ちゃん、その辺でやめといたらどうだ? もう5回目なのに、全然ヒットしないじゃないか、ほら、これあげるからさ」
屋台のおじさんは、足元から箱に入ったアニメキャラクターのフィギュアを取り出し、
「情けなんていりませんっ! さあ、もう一回!」
小銭を差し出し強く迫る
「……
そう、僕だった。
「……いくよ」
僕は金魚をすくう
タァン!
――その発射音の直後、フィギュアが雛壇から落ちる。下にはマットが敷かれており、そのキャラクターを傷付けることなく受け止める。弾は残り2発。僕は息をつく間もなく次の標的に銃口を向ける。命中。そして、次もまた命中。
「すごい……百発百中……
それは確かな手応えだった。自分の技術でそれを成し遂げた。僕の身体はそれを当然のこととして理解していた。そう、それは、僕の記憶にない経験によって培われたものであったのだろう。
「えへへ……僕、こんなことできたんだね」
屋台のおじさんは、落ちたフィギュアを元に戻し、それと同じフィギュアが入った箱を袋に入れてくれた。その後、僕らはお好み焼きやフライドポテト、串焼肉などで腹を満たす。
「
僕は
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