第15話 映画と戦争
僕が復学してから迎える初めての土曜日、僕は朝から
「やっほー、
僕は待ち合わせ時刻より15分早く着いたのだが、そこには既に
「はぁ、はぁ……早いよ、
「ははっ、そんなんで息切れしちゃうの? さては運動してないなっ?」
「はぁ、はぁ……ゴホッ! ゴホ……そ、そうだけど……そんなことより、今日は何するの?」
「……うーん、何しよっか?」
「誘っておいて決めてないのか……」
「ああ……冗談冗談、今日はね、
「
「うーん、えーと……甘くないのならなんでも」
「わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれる?」
トタトタと駆けて行く
「じゃあ、もう座って待ってようか」
「うん」
行動の主導権はいつも
「うわ……結構リアルだね」
「この街が舞台だって言うから見てみたかったんだけど、本物みたいだったね」
「そうだね。ここを出たら、街が無くなってないか心配になってきたよ」
映画館の出口に向かって階段を上りながら、僕は
「え……これって、どういうこと……?」
「ふぅ……良かった。
僕を見ずにそう呟く
「無事だったのってさ、この映画館くらいだったんだよ」
そう、僕が目にしていたのは、破壊されたビル群と、あちこちから立ち上る煙だった。それは、さっき映画の中で見た、戦場になった街そのものであった。
「……さっきのはね、戦争で心を病んでしまった人が、正気を取り戻すためにと用意された映像だったんだ」
「そんな……戦争だなんて」
「そっか、現実を直視できるようになっても、記憶までは戻らないんだね。ただ、
「戦争に行くとさ、
「じゃあ、妹は……」
「……現実は映画みたいに甘くないよ……思い出せないなら教えてあげる。あなたがニュースで見たって思ってる飛行機事故、あれはあなたの屋敷が戦火に巻き込まれてしまったことをあなたが歪めて解釈していたものなんだ」
「妹……
「そんな大声出さないでよ……あなたの妹はその時屋敷にはいなかった。だけど、この街が戦場になってから、爆撃に巻き込まれて……」
「嘘だっ! そんなタチの悪い冗談あるかよ!」
「嘘じゃないよ……やっぱりあなたは現実を拒絶するんだね。……あ、ちょっと待ってて」
淡々と話す
「はい、これ、
それはコンビニのおにぎりだった。貼ってあるシールを見ると、賞味期限は5日前だった。
「これが……今日の食事?」
「そう、もうこの国には余裕がないんだよ」
僕は
「……え、それって……総理大臣の」
「……断片的な記憶はあるんだね。そう、この国は市街地をボロボロに破壊されて戦争に負けた。国民を守るためにと始めた戦争は1ヶ月しか持たなかったんだよ」
「そんなっ! ……じゃあ、
「
「でも、
「夢と現実の区別がつかなくなるのはよくあることだよ。あんなボロアパートにメイドさんなんているはずないでしょ?」
「ボロアパート……」
「あなたの屋敷はもう跡形もない。だから、国が無償であのアパートを貸し出している。他の人たちだって焼け出されて行く宛てがないから、辛うじて壊されていない建物で暮らしている……でもさ、見てごらんよ」
辺りを見渡すと、街の復興のために瓦礫を片付けている人たち、屋台を出して、食料品や衣料品を売り出している人たち、街は確かにボロボロに崩れ果てていたが、そこに生きている人間の瞳は活力に溢れ、自分たちの将来をしっかりと見据えていた。
「みんな……強いんだね」
「そうだよ。みんな自分ができることを精一杯やって、この街を復興させようとしている……おじさん、それくださいなっ!」
ひとつの屋台に向かってトタトタと走る
「おー、お嬢ちゃん、コーヒーでいいのかい? 砂糖はちょっとお高いよ?」
「うーん、でも今日は贅沢したい気分なんですっ! えへっ」
「しょうがねえな……その笑顔に免じて今回だけはタダにしてやるよ。他のヤツには言うんじゃないぞ?」
「いいんですかおじさん、そんなこと言って。贔屓してるのがバレたら困るんじゃないんですか?」
「なんだい、藪から棒に……お嬢ちゃん、さてはなんか企んでるな?」
「ふふっ、バレちゃいました? じゃあ、今の言葉をバラされたくなかったら、ミルクも入れて下さいなっ」
「……ちっ、滅多なこと言うもんじゃねえな……商売上手なお嬢ちゃん、これはサービスだからな。俺が個人的にお嬢ちゃんにしているサービスだ……だから内緒にしてくれよな……持っていきな!」
「おじさん、ありがと! はい、じゃあこれで、ついでにブラックのも一杯!」
「……っておい、これじゃおじさんが貰い過ぎになっちゃうよ! 値切ってたんじゃないのかい?」
「ふふ、いいんですよ。おじさん優しいから……それに、このお金も明日には何の価値もなくなっちゃうかもしれませんし」
「はっはっはっ! そいつは
そして、両手にコーヒーを持ち僕のもとに戻ってくる
「はい、
「いいの? ……贅沢品なんじゃ……」
僕はおじさんと
「
「僕を支えるって……」
「そう、戦争の一番の被害者は、戦場に赴いて傷付いて尚生き残ってしまった人たち。つまりあなた、
「僕が、戦場に?」
「思い出せないのも無理はないか……だけど、
「うん……なんとなく予想がついてきたよ……」
「そう、良かった。少しずつ慣らしていこうね」
その後、僕と
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