第3章 FAKE SISTER
第13話 さいか荘
僕はかつて自宅だった広大な更地の前で
(しかしこの部屋、外は快晴なのにやたら雰囲気が暗いな……光の具合とかじゃなくて……なんというか、空気が重い気がする)
起き抜け、そんな風に物思いにふけって寝転がったまま天井を見つめていると、ふと視界の端っこに、異様な存在感を放つ物体が映り込む。
(ん、あのノート、ここに持ってきてたんだ……お屋敷の中に置きっぱなしにしてたと思ってたけど)
それは、山積みにされた荷物の一番上にある古びたノートで、僕が創作を始めたばかりの頃、妄想の丈を書き殴っていたものだった。僕がそのノートを取ろうと、手を伸ばしている時――
「ただいま戻りました」
――アパートの部屋のドアがガチャリと開く。そこに現れたのは、制服姿の
「ゆ……
「ええ、ですから、一時的に親戚の家に厄介になっていただけです。色々と身辺整理をしたかったもので」
「そうなんだ……てっきり僕を置いて居なくなったものだと」
「私は
その時、僕の頭の中にある疑問が浮かぶ。
「あ、で、でも、なんでこのアパートが分かったの? お屋敷は更地にされちゃって……」
「ああ、狼狽えてると思ったら、そんなことですか。
僕は枕元に置いていたスマートフォンのロックを解除する。
「……エゴサーチって……?」
「ご自分の名前で検索するのです」
「『
そこに表示されたのは、僕と兄妹になることを宣言した、
「
ツーショットの背景には、このアパートの壁が映り込んでいた。ただそれだけの情報から住所を特定するなんて、
「どうぞ」
「あ、ありがとう……っというか、これってどうにかならないのかな? こんなの肖像権の侵害だし、僕は
「ご自分で連絡なさってはいかがですか? そのスマートフォンの連絡帳から」
僕はそんなバカなと思いながらもスマートフォンの連絡帳を開く、そこには登録した覚えのない「
「ああ、兄貴? どうしたの? こんな朝早くから」
それはまさに
「しゅ……
「ああ、あれ? やっと気付いたの? まあ、先に言ったもん勝ちでしょあんなの。あれが公開されてしまえばもうこっちのもんよ……既成事実ってやつ? にひひっ」
「いや、そんなものは既成事実にはなり得ないよ。それに、僕の意思は尊重されないの?」
「尊重するわよ。そのうちね。あんたが私の兄貴になって、私を妹だって認める日が来るんだから、その時には結果的に尊重されたことになるでしょ」
彼女はそう言うと、一方的に通話を切断する。僕は物言わなくなったスマートフォンの画面を見つめたあと、
「さて……この恰好のままでは仕事ができませんね」
「ちょちょちょっ……! な、何してんの?」
「いえ、学校の制服のまま仕事をするのは私のポリシーに反していますから、こうやってメイド服に着替えてるのですよ」
「なんだ、そうなのか……って違うよ、僕が居るのになんで……」
「ああ、
「うわーっ! 待って! ちょっと、バスルームに引っ込んでるから!」
慌ててバスルームの扉を開けようとする僕の腕をガッシリ掴む
「な、何っ!?」
「いえ、主人をバスルームに閉じ込めて、私がこちらで着替えるなど、そんな恥知らずな真似はできません」
「ああ、じゃあ、
「いえ、私はその必要を感じていません。なんでしたら、
「なんでそうなるんだよっ! もういいよ! 僕はちょっと出かけてくるから!」
「左様でございますか。お気遣い痛み入ります」
僕は慌てて靴を履き、玄関からアパートの廊下に出る。すると、後ろから
「着替えたら私は、この手入れが行き届いてないお部屋を綺麗にいたしますから、しばらくお散歩でもしていてください」
「わ、わかったよ」
そうして僕は、2階の廊下から階段を下り、アパートの敷地から歩道に出て、振り返る。
(部屋もそうだけど、このアパート自体、ずーっと手入れされていないみたいだな……ツタが絡んでるし……それにこの、アパートの名前)
そのアパートの名前は「さいか荘」。平仮名で書かれているが、その言葉から僕が連想するのは「災禍」や「最下層」といったマイナスイメージだけであった。その時、歩道に立っている僕を呼ぶ声が聴こえてくる。
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