第12話
「最新の船って凄いのね。はっきり言って屋敷より快適ね。」
「当たり前だ。この船は俺の最高傑作の一つだ。」
里帰りしてから1ヶ月、サーモの提案もあってサーモの屋敷を改修と拡張工事して正式に住む事になった。
自分の我家になる訳だがら。
シルクもこだわりにこだわっている為、工事が長引くだけではなく、外国から資材や調度品を手配している。
だから、その間はサーモ達、屋敷の住人はシルクの船で暮らす事になった。
メイドと執事は本格的な指導が始まっている為、地獄の指導で悲鳴が絶え間なく船にこだましていた。
「でも、思っていたより質がマシだ。爺さんが長生きしてくれたからかな?」
「とんでもない。皆、サーモ様に仕えるものとして努力してきた結果でございます。私の様な老害の力など微々たるものでございます。」
戦争で屋敷の住人も様変わりしていたが、執事長のサンマだけは変わらず元気にしていた。
こんな事を言っているが、仕事に一切妥協を許さないこの人が教育を怠るなんてしないと言う信頼感があった。
ホント、自分にも欲しい人材だ。
「あげないわよ。」
「取らねぇよ。この人はお前の一族に仕えてこそ一番輝く人材だ。そんな勿体無い事はしねぇよ。」
シルクの色目に気が付いたのか、サーモが渡さないよと注意し出した。
人材マニア気質なシルクとしてはその者が最も輝く場を奪う行為はあまりしたくないのである。
「それにしてもシルク様の使用人は教育が行き届いていますね。流石です。同じ執事として見習わないといけない技術がまだまだありますね。」
「いえいえ、私どもとしてもサンマ殿の技術はこの都市で唯一見習わないといけない希少なものです。素晴らしい能力です。」
シルクの使用人は自分が恵まれた環境で育成された自覚があった。
そんな自分達と同レベルの執事がこの街に存在するとは思っていなかった。
だから、サンマの技量には感嘆の意を示していた。
「それでこれからはどうするの?私としてはこのまま安定していくまで動かないつもりだけど、何かあるんでしょう。」
「流石、幼馴染。俺の事を分かっているな。」
そんなやり取りを見ながらサンマは目に涙を溜めていた。
戦争後から最愛の人と子を失い、元気を無くしていたサーモが笑って過ごせている今が本当に喜ばしかった。
それもこれもシルクのおかげだと心の底から感謝していた。
若者の中にはシルクの事を里を捨てた裏切り者という輩もいるがサンマはそんな事を一度も思った事はなかった。
小さい頃から知っているシルクはそんな薄情者で決してない事を分かっていた。
血涙流しながら廃れていく故郷を嘆き悲しんでいるのだとそう思っていたのである。
そして、金も、力も、人脈も手に入れたシルクが今、トロを救っている事こそが何よりの証拠である。
彼は里を捨ててなどなかった。
真の裏切り者は仕える者でありながら主人を、トロも守れなかった自分達だとサンマはそう思っているのである。
「次、俺達はこの国に鉄道を通す。」
「鉄道か、もう長らく放置されて使っていないな。今、使えているのはシャリくらいだろう。」
シャリとはグッテンで一番栄えている領地であり首都である。
グッテン連合王国は元々、四つの国が合わさって出来た国であり、それぞれの領主こそ王であり代表でもあるが、そんなものは形骸化している。
今では王と名乗るのはシャリの領主だけである。
その内、グッテンから連合は無くなるだろう。内乱もそれが発端という話らしいからな。
「もう既に使者をシャリに送っている。俺が設立させた民間の鉄道会社をこの国にも派遣して鉄道を国と共同で作っていく。トロだけじゃない。この国全体を活性化させて復興させる。」
国全体を通した鉄道の開通。
これによって国内の流通を円滑にさせる事が可能である。
馬車と違って態々、魔力と速度で守られた鉄塊に挑む魔物はいやしない。
安全な流通が可能。
それにシルクが考えているのはこれだけじゃない。
「この国と大陸を結ぶ。」
「えっ?!ごほっ!ごぼっ!!」
あまりにも荒唐無稽な話にサーモは驚いて咽せてしまっていた。
それもその筈、この島国と大陸の間には大きな海峡がある。
だからこそ、昔から他国に攻められたことのない国として有名なのだ。
魔魚人族もこちらから仕掛けない限り攻撃してくる事もない。
今まで突破されたことのない天然の要塞こそがこの国の最大の防壁なのである。
もし、島々を橋で結び大陸とこの国を結べたとしてもそんな事を女王が許可するとは思えなかった。
内乱で弱ったこの国に他国からの侵略を守る余力はないのだから。
それでなくともシルクのお陰で安全な航路が完成しつつあるのだ。態々、橋を建てて国の防衛能力を落とすなんて事はさせないだろうと考えられた。
「こんな事で女王と揉めたらシルクの商売にも影響が・・・」
「それには及ばない。策はある。それにデメリットよりメリットは既に上にしている。」
自信たっぷりなシルクの顔を見て焦ったサーモの心を落ち着かせていた。
それを見たサンマはシルクの使用人が音も立てずに出て行った事を確認して自分も部屋から出ていった。
「・・・・・・やはり。」
「何がやはり何ですか?サンマさん。」
「おや?マシル。もう訓練はよろしいのですか?」
サンマが扉の前で笑みを浮かべていると背後からマシルが話しかけてきた。
マシルは隊員達と共にシルクの私兵に最新装備と今の最先端の魔法技術を学んでいた。
隊の中では年上の部類だが、肉体は若々しいマシルはサーモを守る為、誰よりも意欲的に最先端を吸収していっていた。
「えぇ、質と効率の良い休息も訓練の一つだと言われていますので。」
「それは良い教えですね。」
マシルはサンマの事は昔から仕える同じサーモの配下という立場から敬意と尊敬の念を抱いていた。だが、最近のサンマは何か企んでいる気がしているのである。
根拠は何もない。
ただの勘。それでも未熟な自分が戦場で生き抜いてこれた最も信用出来る己の力だった。
「何を疑っているのですか?まさか私がサーモ様を裏切るとでも?」
「・・・・いえ、そんな訳・・・あり得ません。」
マシルが自分を疑っていると長年の執事としての経験から察知した。
悲しそうな表情を浮かべながら言うサンマに罰悪そうにマシルは否定した。
勘もこれじゃないと言っている。
より良い教育と強者との訓練で成長した勘の精度は前より上がっていた。
「そうですか・・・・・・貴方の勘は正しい。ですが、それはサーモ様にとって悪い事ではありません。・・・決して。」
サンマはそう言うと奥へと歩いて行った。
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