第10話
「凄いですね。」
「この程度、私達の部下なら当然の結果です。」
シルクの私兵と一緒にトロ領の兵力強化のためにまずは周辺治安の向上のために山賊退治をしていた。
因みにこの世に海賊という者はいない。
海の魔物脅威はそれだけ凄まじいのだ。
圧倒的な強者を抜きにして海を渡る事は出来ないと言われている。
それでも毎年の様に商船が消息を断ちまくっている。
ホーフェン商会は魔魚人と契約を結んでいる為、比較的安定して渡れる要素がある上に、シルクが開発した船は海の魔物を寄せ付けない設備を装着している。
海路の殆どはホーフェン商会、それもシルク派が牛耳っていた。
「凄まじいお手並みですね。王家の近衛兵でもここまでの兵力はありません。」
「それはグッテンが遅れているだけだ。俺たちなんてシルク様の配下では雑兵さ。」
トロの兵がシルクの私兵の迅速な連携と個々の実力を賞賛すると私兵は自分達は大した事はないと事実を話した。
確かにそこらの山賊や魔物に傷を負わされる程弱いなんて言わないが、そんな事はシルクの私兵では当たり前。
シルク派の私兵の仕事の大半が商船などの護衛であり、迅速かつ丁寧な仕事が求められているのである。
この程度の山賊に時間をかける様では輸送に遅れが生じてしまう。
「流石にあの方も雑兵とは言いませんよね。」
「・・・当たり前だろう。ダラク隊長はシルク様の直属護衛にも打診されているほどの実力者だ。俺達とは文字通り次元が違う。」
「そこ!駄弁っていないで!暇なら山賊の生き残りがいないか!探していろ!!」
「「は、はい!!」」
ダラク隊長に見つかった二人は凄い形相で睨まれて注意された。
二人は急いで森に消えていった。
「あははは、厳しいね。ダラクさん。」
「ふん、仕事がないなら探せ。私達はシルク様に金を貰っているのだ。その分の仕事をしないといけない。当然だ。そうだろう、トロ近衛兵隊サンマイ副隊長。」
フランクで柔らかい笑顔を浮かべているサンマイに対してダラクは厳つい表情で見ていた。
二人とも女性であるのに対照的な二人だった。
ダラクはどうしてこんな仕事をしないといけないんだと思っていた。
「ダラクさんって直属護衛隊に行くんですか?サーモ様が言ってました。あれは化け物集団だって。」
「私はまだまだ未熟者です。あの方達と肩を並べるなんて畏れ多いです。」
サンマイはダラクの事を凄いストイックな人だと思っているが、実際は違う。
ダラクは昔からダラけるのが好きな人だった。でも、そんな人生を楽しておける訳がなかった。
だから、実家の伝手を使って同じ堕落の権化みたいな体型のシルク派閥で雑兵として安定した生活をしていたのだが、どういう訳か自分には才能があった。
訓練後の自主練も自室での予習復習もしていないのに安定した結果を出せる人だった。
そんなこんな実績を安定して積み上げた結果、シルクの私兵隊の一隊を任される様になり今ではシルク直々に専用武具を製作してもらえる直属護衛隊から入隊の打診が来ていた。
ダラクとしては断固拒否である。
これ以上の地位向上には責任も今まで以上に乗り掛かってくる。
そんな事になれば自分のスローライフからかけ離れた生活になる断固拒否である。
でも、あの高給には唆られる気持ちもあった。
「隊長!ここら辺にはもう山賊はいません。これで全員です。」
「そうか、なら今日の狩りはここまでだ。戻るぞ!」
「はっ!!」
嫌な事を思い出したと現実逃避をしていたダラクは帰って酒を呑みたいと思っていた。
「ダラクさん、帰ったら一手指南してもらって良いですか?」
「断る。雑魚とやっても時間の無駄だ。」
「ガーン!そんなハッキリと言わなくても・・・・・」
サンマイは別に弱くはない。
戦争で上の実力者がいなくなった事を加味しても10代で近衛兵隊の副隊長に抜擢されただけの実力は持ち合わせていた。
でも、それはこの国での話だった。
「そもそも、今日一緒にいて分かったが、お前達は色々と古い。」
「古い?ですか?確かに装備は資金がなくて昔からの使い古しですが・・・」
「装備だけではない。なんで、魔力操作も中世レベルになっているだ?心底意味が分からん。」
ダラクがトロの兵隊を見て思ったのはまず第一に中世にタイムスリップでもしたか?だった。
装備もそうだが、魔力操作にしても日進月歩である。
昔の剣豪と今の剣豪が戦えば同じ質の装備でも十中八九昔が負けると言われているほど魔力の効率、身体強化率などが段違いなのである。
剣術などもそれに合わせて変化と進化を繰り返している。
それがトロでは中世からストップしているのではと思えるくらい酷かった。
「今回の狩りはお前らの実力を見るのも目的だったが、それ以前も問題だ。明日からの訓練は私達が主導して行う事になっているが、全て基礎にする。お前達ではシルク様が提供なされる装備が使えない。」
装備も現代基準に合わせている為、自然に行われているレベルの魔力操作が雑だと扱う事すら出来ないのである。
昔の料理人に電子レンジをポンと何も言わずに渡しても使い方が分からずに持て余す様に一から使い方も活用法を教えないといけないなとダラクはため息をついていた。
「・・・そんなに違うんですか?」
「あぁ、今私達が来ている鎧を良い装備だなと感心している時点で遅れている。シルク派は最先端中の最先端装備を末端にも渡している。だから、それを基準にするのは間違えではあるが、それでも他国での共同演習でこの国が一番遅れていると確信できるほど遅れている。」
「そんなに言わなくても・・・・」
自分達の隊をボロクソに言われて流石の明るさもなりを潜めて落ち込んでいた。
「まぁ、それにしては良い才能だ。私たちの訓練を受けたら私レベルになんてすぐになれる。」
「・・・本当ですか?」
自信を無くしたサンマイにダラクはフォローした。
普段のダラクならこんな事せずとっとと話を打ち切るのだが、サンマイに才能を感じたのは本当のことであり、ダラクにとって今日唯一の嬉しい誤算だった。
コイツは訓練方法を教えたら勝手に伸びるタイプだ。
それに才能も申し分なし。
シルク様もこの街に長くいるみたいだし、コイツを成長されて私の実力を抜いてくれれば私より直属護衛隊に相応しい人材がいると出来る。
直属護衛隊の話をダラクが保留にできている理由として後進が育成出来ていないというものがあった。
確かに私兵隊でダラク程の者はいない。
だからこその直属護衛隊への話なのだが、そこは今までの生真面目(笑)が役に立つ。
自分の部下達を無責任置いて出世など出来ないと色々手間取っている様に見せていた。
そこでサンマイである。
自分の後進として若く元気な才能ある10代を見つけたから己の手で育てたところ己より強く責任感の厚い信頼のおける人材になったため、推薦します。
これで決まりだな。とダラクは内心微笑んでいたのだが、そんな事、シルクにはお見通しだった。
ダラクの性格も分かった上で直属護衛隊にと打診したのである。
シルクが直属護衛隊に打診を送る者はなんらかの理由で自分から出世にしない者達だった。
ダラクの場合、生来の堕落が邪魔して才能を無駄にすると判断したシルクは強制的に才能を活かせる直属護衛隊に入隊させようと考えたのである。
こんな風に勿体無いと感じた者には強制的に活かせる所に送るのがシルク流の教育法だった。
だから、最初からダラクの作戦は失敗が確定していたのである。
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