第9話

 シルク達がトロに来て1週間シルクが貸したお金によって資金が潤沢になった事で様々な福祉と公共事業が再開と開始がされた。

 それによって戦争で貧困層やスラムに落ちた者達が仕事が得られる様になった。

 街も徐々に活気を取り戻しつつあった。


「流石、ホーフェン商会の副会長ね。私に出来なかった事をこうも容易く・・・」


「それは違うぞ、サーモ。お前にもこの程度の事をするのは訳じゃない。ただ金がなかっただけだ。」


 シルクは金を与えただけだった。

 事業企画などはサーマに一任していた。その間、シルクは名産製作に着手していた。


「それでこれが繋ぎの草?」


「あぁ、ワイン造りにはどうしても時間がかかるからな。それに名産一つに頼った政策は長続きしないからな。」


 ワインの名品を造ろうにも葡萄園造りや発酵期間などあるから。

 とにかく時間がかかる為、その繋ぎの輸出品を作ったのである。

 シルクとしてもトロは自分が思っていたより土地だった。


「それでこの草は何?」


「ホーフェン商会が開発した新種蚕の餌。」


「ホーフェン商会が?」


 この1週間提供された資金も、技術も、シルク派独自開発なものなど何かあっても責任と証拠を握り潰せるものだった。

 ただホーフェン商会が開発したものになるとそうはいかない。もう商会で制限のないと判断された技術ならともかくその蚕は新種でありシルクの口ぶりから最近である事が読み取れた。

 そんな蚕の餌なんて重要な情報を情報規制がちゃんと出来ていないこの土地で広めていいのかと思ったのである。


「問題ない。この草を育てる条件が揃っている土地はこの国だけだからね。何かあればすぐに分かる。それにこの蚕を作るには多大な資金と時間がかかったからね。餌がバレた程度で育てれる程生易しいものを作っていないよ。」


 例え蚕が盗まれようが、餌がバレようが、それだけで育てれるほど簡単なものを作っていない。

 つまり、すぐに死ぬという事だ。

 技術流出は必ず防がないといけないものである。

 だからこそ、シルクが少しでも関わった物品はそれが徹底されていた。

 ただパクって楽して稼ごうとする愚者には決して成功しない仕掛けが施されているのである。


「それにこの蚕の糞もこの草の茎も根も土壌改良に使える肥料となっている。ホーフェン商会として蚕が出来たのは良いが生糸を作る為の餌がないから困っていたんだ。」


 この蚕の生糸シルクを大量生産しようと繁殖させようにも実験用の少量の餌は入手は可能だったが、大量飼育の為の餌を確保するには条件が揃った土地がなかったのである。

 だから、トロの土地はホーフェン商会にとって都合が良かった。

 この草は荒れた土地でも育つ上休閑時期に植える事も可能な為本当に都合いいのである。


「この草を育てた後はこの麦を植える。」


 この麦はシルクがトロの土地にあった最高の麦を内紛時期から品種改良したものである。

 トロのパンは元々トロの名産のワインと合うものとして作成されたパンだった。

 トロパンの事を昔からシルクは惜しいと思っていた。

 製法は最高なのに、小麦粉がイマイチである。

 だから、いつか最高の麦で最高のトロパンを作りたいと思っていたのだ。


「シルク?どうしたんだ、悲しそうな顔をして?」


「・・・いや、なんでもない。」


 成人した三人で自分が開発したトロパンと二人が作ったワインで夜を過ごそうと夢を見ていたのである。

 もう叶わぬ夢となってしまったが、それでも最高のトロパンの夢は終わっていないのである。


「葡萄、麦、生糸。この三つでワインの繋ぎ、そして、ワインのサブとしてトロの輸出品として活躍してもらう。」


「こ!こんなに!」


 シルクが見せた今年の予想輸出額を見てサーモは驚いていた。

 まだ、今年の麦は自領で完全消費される程の生産しかできない予想なのでシルクが見せた今年の輸出額はシルクだけである。

 それだけでこれだけの額なんておかしいと考えたのである。


「この蚕の生糸シルクは今までにない最高級品になるからな。全てはフィクサー大陸の王族御用達の衣装の素材になる。だから、輸送費や仲介料を差し引いてもこれだけの利益になる。」


「これ・・・ワインより儲かる事にならない?」


 ワインの生産輸出が始まってもその頃にはこの蚕の生糸シルクの大量生産が出来ている筈である。

 シルクの事だから他の大陸にもこの蚕の生糸シルクを卸すことにしていると思う為、蚕の生糸シルクの値段が下落する事はないと思われる。

 だから、この蚕の生糸シルクが輸出メインになってワインはサブになるのではと思ったのである。


「馬鹿か、この程度の儲けにしかならないワインを造るわけないだろう。俺が目指すのはヴァンプ相当の物だ。ヴァンプの最高級ワインならこの100倍は余裕で利益が出る。」


「なっ!」


 サーモは自分が夜飲んでいるワインがそんな馬鹿高いものだと改めて知った事でもっと味わって飲もうかなと考え始めた。


「遠慮はいらないぞ。俺はヴァンプと独自契約しているからな。普通より安く買えてる。まぁ、それでも今のトロの年間税収を余裕で超えるけどな。」


「・・・・・・・」


 お母さん、貴方の幼馴染は遠い存在になっています。とサーモは空を仰いで天国にいるお母さんに報告していた。

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