第7話

「此処がアイツの墓か。」


「そうよ。此処にビンが眠ってるの。」


 二人が来たのは山だった。

 3人でよく登った思い出の山であり、ビンがサーモに告白した地でもあった。


「ビンの遺言だったの。3人の思い出の山に埋めてって。」


「此処から見える夕焼けは変わらないな。」


 子供の頃は遊び倒したあと、此処から夕陽を見るまでが1日のルーティンだった。

 此処からの夕陽はトロの海と合わさって途轍もなく綺麗なのだ。

 死んだ後も思い出の地に眠りたいというビンの願いから皆が巨大な墓石を持って来たのである。


「俺を残して死んでいきやがって・・・・死に様もお前らしいよ。」


 ビンの死因は避難し損ねた子供達を守って死んだ。正義感が強く、子供に好かれていたコイツらしい死に方だとシルクは思った。

 墓石にシルクは持って来たワインを半分かけると残りのワインを飲んだ。

 その目元にはきらりと夕陽が反射していた。


「ごめんなさい。」


「・・・・・・お前が謝る必要はない。文句は何十年後かにあの世で謝ってもらう。」


「えっ・・・?」


 サーモはシルクが何を言っているのか分かっていなかった。

 シルクは二人と言った。

 それはまるでビンだけではなく、サーモもこの世にいないかの言い回しに聞こえた。

 サーモは混乱していた。

 


「気がついていないと思ったか。お前が俺だと分かった様に、俺もお前がサーモではない事なんて一目で分かったよ。」


「・・・・・・・・」


 サーモはショックを受けた面持ちでシルクを見ていた。

 それは絶対にバレていけない人にバレてしまったからだ。

 この事は死ぬまで黙っておこうと思っていた。

 の親友をこれ以上悲しませる訳にはいけないと思っていたからだ。


「他の奴らに話していないんだろう。俺も別にバラすつもりはない。でもな、二人の時にまでサーモだと思いながら話す事だけは許さない。アイツは自分の娘に自分を殺してでも自分を演じて欲しいなんて願うわけがない。」


「そうですね。母さんはそんな事を願っていなかったでしょうね。元々、母の姿で生き残る予定でも無かったですから。」


 サーモとその娘がやったのはトロ家に代々伝わっている禁術の一つだった。

 その術は元々、同性愛に芽生えた当時の領主が編み出した二人が融合する事で二人の子を産むという愛の術だった。

 でも、完成したのは二人の経験と知識と肉体を持つ二人のどちらかというものだった。

 当時に生き残ったのは領主ではなく恋人の女性だった。

 この事は生涯誰にも話す事なく、恋人とは別れた事にして領主の変わりにトロを治めたことが禁書と共に書かれていた。


「あの禁書をサーモの書庫で見つけたのは俺だ。アイツは幼い頃から家庭教師などに英才教育されていたからな。その間、暇だった俺たち二人は各々屋敷で時間を潰していた。」


 因みにビンは近衛兵などの詰め所で剣術など戦闘方法を習っていた。

 それに対してシルクは書庫に入り浸って本を読み漁っていた。当時の使用人達からはビンよりもシルクがサーモと結婚して欲しいと思われていた。剣術などより領地を発展させるには賢い婿の方が良いと思って事であり礼儀作法も知識と共にすんなり覚えていたのも評価点になっていた。

 そんな時にある日記に違和感を覚えたシルクはそれを何度も読み返してやっとの思いで謎を解き明かした。

 それは日記に暗号が隠されていたのだ。

 それらを組み替えることによって隠されていた禁書の在処を見つけたのであった。


「その後、三人で見つけよう思っていたが、ビンが怪我したから。仕方なくサーモと二人で探検することにした。そこでそれが書かれている禁書を見つけた。記憶も継承しているお前なら知っているだろう。」


「はい、探検から帰って来た二人は父には禁書の事を黙っていましたね。ふふ、拗ねている父は珍しいです。」


 いつも厳格な父が二人が二人だけの秘密を共有している事へ露骨に拗ねた子供らしい態度をとっている姿を思い出しながらこんな時もあったんだなと懐かしんでいた。


「元々、こんな術を使うつもりはなかったんです!!アイツさえ来なければ!父も!母も!貴方に会えていた!!!」


 今まで心に奥底に隠していた気持ちを吐露し出した。

 それは怒りだった。

 こんな形でしか生き残ること出来なかった自分の力の無さに、そして、自分から全てを奪った諸悪の元凶に対して激怒していた。


「私も頑張ったんです!両親の仇も討ちました!でも、母の最後の想いはシルク様!貴方に対する謝意でした。再会の約束を守れなかった!懺悔でした!せめて、半分でも守れる様に母を演じて貴方に会いましたが、それも・・・バレました・・・私なんかが生き残るべきじゃ無かったんです・・・・」


 誰にも話せていなかった本音をシルクに半ば八つ当たり気味に話し出した親友の娘は途中で涙腺も決壊して涙ながら話していた。

 娘はずっと後悔している。

 自分なんかではなく母こそ残った方が良かったのではないか、そんな思いを抱いてしまったから母の最後の願いすら叶えることも出来なかった。


「確か、オオだったか。」


「なんで・・・私の名前を知っているのですか?」


 自分が産まれた時には既に手紙を返せる情勢では無かった筈である。

 それなのに自分の元名前を知っている事がオオには不思議だった。


「やっぱりか。それは俺が二人に子供の名前として提案した名前の一つだった。意味は愛してる。子供好きなアイツらが好みそうなの選んで提案したからな。懐かしいよ。」


 二人の結婚と現地で祝えない代わりに自分が子供の名付け親にと提案された時には困ったと昔を思い出していた。

 何日も徹夜で書籍を漁って考えた為、女の子の名前と男の子の名前の欄を間違えて送った事は申し訳なかったと目の前の娘に内心謝っていた。


「君は二人に愛されていたのだろう。そんな二人が君を生かす為に命を賭して頑張ったんだ!それを勝手後悔して!勝手に怒ってるんじゃない!」


 シルクはオオの胸ぐらを掴んで怒鳴った。

 二人の愛を侮辱する様な行為を許すことなんてシルクには出来なかった。


「それに俺たち三人の約束をお前が申し訳なくするな!守れなかったのは二人の責任だ!決してお前の責任じゃない!!」


「でも・・・私がちゃんとしてたら・・・」


「二人は生きていたか?そんな事ない!お前程度が頑張ったから回避できていた死をアイツらが防げるわけがない!だから、あまり責めるな。君は自分の役割を果たしている。」


 シルクは二人の子供にこんな顔をさせ続ける訳にはいかないと思った。

 二人にあの世で会ったとき、二人の娘はしっかり領主を務めたと報告しないといけない。

 二人の見たかった活躍する娘の姿をたんまり土産話として持ち帰らないといけない。


「後悔しているのならまずは領民を救え!領地を再興させろ!それが何よりの罪滅ぼしだ!」


「私も頑張ったわよ!でも!ダメなの!知識も!記憶も!技術も!お母さんの力を受け継いだのに!全く上手くいかないの!」


 戦争後の処理も、戦後復興もオオは頑張っていた。

 でも、努力した分、結果が返ってくるほど世の中は甘くない。

 偉大な母の背中を遠くに見ながら母の力を持っていても活かせない自分に怒りを向けた事は数えきれない。


「手伝ってやる。」


「え?」


「君が自分の力を活かせないというなら活かせる様に成長させてやる。任せろ、これでも数多くの馬鹿どもを立派に成長させた実績がある。それと一緒に復興してやる。」


 シルクはオオを慰めた。

 元々、故郷再興はする予定だった。

 その中に親友の娘を育てるのが増えたところで何も問題はなかった。


「本当ですか?」


「俺に任せろ。大丈夫だ、必ずお前を二人が誇れる立派な領主にしてやる。」


「シルク様・・・ありがとう・・・ございます・・・・」


 母の記憶にあった誰よりも頼りになる背中を見ながらオオは心に不思議な感覚に襲われていた。

 これは母の気持ち、それとも・・・・

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