第6話

「来ませんね。」


「えぇ、でも、シルクは時間を守る人だから。必ず来るはずよ。」


 サーモ・トロはシルクの使用人と名乗る者達の伝言をシルビアから聞いてから元気を無くしていた。

 それはシルクとの約束を守れなかったと言う申し訳なさからだった。

 マシルはそんなサーモを見てシルクに怒りの感情を向けていた。シルクの事はあの後、サーモが昔話に出てくる幼馴染の名前がシルクだった事を思い出したのである。

 戦争でサーモとビンが苦しんでいたのに海外に逃げた(マシル達は思っている)シルクに元々良い感情を向けていなかった。


「そろそろ約束の時間ね。」


「サーモ様!あれを!!」


 海をずっと監視していたメイドが海の異変に気がついた。


「なんだ?!あそこだけ何もないのにまるで船が通っている様に波が立っている!!」


「あれはまさか!」


 サーモを含めた港にいる者たちがその不思議な現象に驚いていると霧が晴れた様に船が出現したのである。

 船の旗にはホーフェンの国旗が掲げられていた。

 間違いなくシルクの船である。


「相変わらずの時間ピッタリさだね。」


 昔変わらずの正確さに懐かしさを覚えたサーモは涙をうっすら浮かべていた。

 船からは沢山の使用人がゾロゾロを降りてきて左右に整列し出した。


「!!」


 その次に降りてきた人々がこの地に踏み出した瞬間、圧倒的な威圧感が空気を包んだ。

 今、降りてきている人達は全員が化け物である事を本能が叫んでいた。

 中には耐えられずに倒れる者もいた。


「懐かしい空気だ・・・と言いたいとこだが、様変わりしたなサーモ。」


「久しぶりね。シルク。それを言うなら貴方もでしょう。」


「「「えっ?!!」」」


 サーモとシルクの会話にシルクの昔の姿を知る者達は驚いていた。

 サーモ達3人がシルクの旅立ちの日に撮った記念写真には活発そうなガタイの良い少年がサーモとビンの二人の肩を掴んで照れている二人を結んでいる様な構図で撮られていた。

 今のシルクからはあの頃の細くあるが筋肉ある様なコワモテ少年の面影はどこにもなかった。

 それなのに幼馴染の絆からかサーモは一切考える事なくシルクと分かった。


「ビンは死んだのか。」


「・・・・・ごめんなさい。」


「そうか・・・」


 暗い空気が二人を包んでいた。

 シルクは親友ビンが死んだ事を親友サーモから言われた事から現実である事を突きつけられて、サーモは親友シルクにビンが死んだ事を、3人でまた会おうと約束した事を守れなかった事を悔やんでいた。


「・・・覚悟はしていた。お前が悔やむ事はない。お前達!荷物を置いたら!船に戻ってろ!」


「何よ。シルクの地元を観光させてくれないの?」


「馬鹿!空気を読め!」


 シルクは使用人達と部下達に指示するとその中で不満に思う者が意見してきた。


「良いよ、ザッハ。タマの不満も最もだ。でも、今夜は一人にしてくれ。」


「・・・・・はぁ、分かったわ。私の主人がそんな辛気臭い面をするんじゃないわよ。」


 シルクがあまり他人に見せない悲痛な顔がチラッと見えた為、タマと呼ばれた狐の獣人は渋々言う事を聞いた。

 タマとしてはシルクのそんな顔は見たくないとさっさと船に戻って行った。


「そう言う事だから。今日は俺が泊まるだけの場所が欲しい・・・」


「屋敷に貴方が泊まる部屋があるわ。」


 ホテルが無いかシルクは聞こうとしたが、サーモはシルクがいつか帰郷して来た時に寝泊まりする場所がいるだろうとピンと昔話して客室をシルク専用にしていたのである。

 十数年使う事がなかったが、用意しておいて良かったと思った。

 まぁ、ここまで太っているとは思っていなかったからベッドが耐えれるか微妙だなと思っていた。


「・・・ベッドは持って来た。俺に合うベッドがあるホテルなんてホーフェンでも俺の行きつけしかないからな。」


 シルクは自分の体格を理解している為、こう言う長期間滞在する場合は自分特注のベッドを持ち歩く事にしていた。


「ちょっと待ってください!こんな母国を捨てた奴を由緒正しき屋敷に泊めるなど・・・」


「口を慎みなさい。マシル。私の心配をしてくれるのは嬉しいけどシルクは私達の親友です。シルクに対する侮辱は貴方であっても許しませんよ。」


 マシルの発言をサーモが止める中、シルクも部下が起こそうとしていた蛮行を止めていた。


「やめろ。カシミア」


「どうして、コイツ。お父さんを侮辱した。死んで当然。」


 マシルの発言にいち早く反応して殺そうと行動に移る少女がいた。

 それをシルクの横を通り過ぎる瞬間に腕を掴んで止めたのである。

 カシミアは鬼の形相でマシルを睨んでいた。


「お父さん?シルク、結婚していたのですか?」


「カシミアは養子だ。俺は未婚だよ。」


 カシミアのシルクに対するお父さん発言から手紙を送れていなかった期間で結婚したのかとサーモは思ったが、カシミアはシルクの養子であって実子ではなかった。

 三十を超えてもまだ結婚する予定はシルクには無かった。


「そんな事より案内してくれ。」


「えぇ、分かったわ。」


 そう言って二人は屋敷とは正反対の方向に歩み出した。

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