一四、近接射撃

 俺は小銃ブルパップでの射撃を終え、規制線の外に集まるギャラリーへ向かう。最初は銃声に慣れてもらう目的とし拳銃と小銃を披露。しかし、ギャラリーの面々の反応は今一つ、という表情をしている。殊更、不満げな表情を表すクゥィングォに向かう。



「少し地味だったか?、最初っからぶっ飛ばしても耳が聞こえなくなるだけだ」と、俺はクゥィングォに声を掛ける。

「そうだな、初めて耳にする音。戦場いくさばに出る前に耳にするのは僥倖だ」

「次は、実践的な射撃を実演しようと思う」

「ほう。いいだろう」

「今度は、声を掛けずにするが良いか?」

「ああ、構わぬ」

「ただ、この後はその戦場いくさばに向かう訳だが、そこで耳が使い物なら無いのではお前たちの生き死に係わるだろ?」

「言わずもがな」

「改めて、そこで得物が発する大きな音銃声に対する心構え、それが予め判れば何とかなるだろう? いや、どうにもならんな。まぁ、オレから離れているのが一番だ」

「戦場ではそうも行かぬ。しかし、前もって分かれば各々とれる行いが出来るだろう」と、クゥィングォは頷いて見せる。

「神経を研ぎ澄ます戦場だ。判るのと分らぬとでは明暗がわかれるな」と、俺は同意しギャラリーに向き直る。



「それでは、次に進みまぁす」

 俺は次に実演する内容を説明する。より実戦的な近接射撃にあたり、今回は発砲前や発砲時に声を掛けない事を説明する。その代わりに、俺の射撃の姿勢に注目する様に促す。それで、俺がその姿勢を実演する。

 この近接射撃、所謂タクティコーなやつ。を思い描く。その刹那、はぁ、何だそりぁ。再び、認識の乖離、そんな違和感を認知する。



「小銃の場合、このような姿勢をすると先ほど『照準』と声を掛けた時と同じになります」と、俺は引き金に指を掛けずに小銃を構える。


「この姿勢は、この銃で標的、つまり敵など脅威となる対象を捉えた事を現します。

よろしいですかぁ? 

更に右手の人差し指に注目してください。この指の形を良く憶えて下さい」と、人差し指を前を指すようにに示す。


「次にこの動作は『発砲』と声を掛けた時と同じになります。より厳密に言えば、その一歩手前と言った所です」と、俺は人差し指で安全装置を押し、引き金に触れる。


「場合によっては、人差し指が見えないと思います。姿勢や上半身、右腕の細かい所作を捉えるようにしてください」と、俺は安静装置を引き戻し、また、人差し指でそれを押し引き金に指を掛ける。向きを変えながら、何度か安全装置解除、引き金に指を掛ける、安全装置を戻すを繰り返す。


「皆さぁん。動作による『照準』と『発砲』、分かりましたかぁ?」と、ギャラリーを見渡す。今一つ理解に及ばない様に見える。


「それではまた、少し練習しましょう。

試しに声を『照準』、『発砲』の声を掛けながらやってみましょう」と、説明して動作を繰り返す。皆の様子を確認しながら向きを変えながら実演を繰り返す。厳つい面々の仕草が滑稽。キュハァスは相変わらず、キュート・・・・。思わず顔が綻ぶ。



 ギャラリーの反応を見ながら、更に動作を繰り返す。皆、要領を得た様に見える。俺からの問いかけに皆頷いて応える。それを見て、ギャラリーに移動を促す。最右の標的の正面、現在の規制線から更に三十歩ほど後退する。ギャラリーから最右の標的までは、およそ八十歩。皆をそこに待機させる。それから俺は、その規制線の最左の標的の正面に移動する。

 俺がこれから実演する近接射撃は、現在位置より、左から二番目の標的元盗賊の正面、最初の規制線の辺りおよそ五十歩の位置へ移動する。それから右から二番目の標的へ指向、銃撃。続いてその場で姿勢を落として最右の標的へ指向、銃撃。最後に最左の標的の正面へ、同規制線上を移動。左から二番目の標的を指向、短連射で銃撃。拳銃に持ち替え、同標的へ指向、銃撃。と、右手の動きがギャラリーから見える様に配慮して、近接射撃の実演を組み立てる。



「これから近接射撃の実演をはじめまぁす!」と、俺は声を張る。ギャラリー一同頷きで答える。



 俺は深呼吸し、左から二番目の標的を目で捉える。続いてその正面の第一規制線の地面に目を移す。もう一度深呼吸し、肩を上下に動かし力を抜く。左手が握る被筒と右手が掴む銃把の感触を確かめる。そして、もう一度右から二番目の標的、最右、左から二番目、順に第一、第二、第三と呼称する標的へ順に視線を向け位置を確認する。


 俺は集中力を高揚させる。俺の魂が耳元で静かに開始の合図を伝える。


 俺は第一移動地点に向けて、駆ける。疾走する。目に捉えた第一標的が上下に躍動する。視界の周囲が後方に流れ去る。移動地点に到達。小銃を構える。銃口を指向。標的の胸を照門に囲まれた照星が捉える。素早く安全装置を押す。標的を捉えたまま、指切りで二点射、引き金を絞る。着弾を確認し、左右、後方も含めて視界に収める。そして、次の所作へ遷移する。


 視界の第一標的が左に流れ、第二標的が右から流れ込む。右軸足を折り、左足を前に伸ばし姿勢を落とす。第二標的の胸を捉え、指切りで三点射、引き金を絞る。着弾を確認し、改めて左右、後方も含めて視界に捉える。安全装置を戻す。そして、次の動作を始める。


 第二移動地点に視線を向ける。その刹那、駆けだす。第三標的を視界の端に捉える。その標的の背景・・・・・が左方に移動。視界が後方に疾走する。それに合わせ左指で連射に切り替える。移動地点に至り、小銃を標的に指向。その胸に照門に囲まれた照星を合わせる。刹那、安全装置解除。指切りで二度、引き金を引き絞る。二度の短連射に合わせ大気が咆哮する。

 左目で着弾を捉え、小銃の銃把から拳銃の銃把へ右手を移す。標的に指向しながら、小銃の被筒を掴む左手を拳銃に添える。照門に挟まれた照星が標的の胸を捉えた瞬間、引き金を二回引き絞る。乾いた大気の裂ける音が響き渡る。その刹那の前に着弾を左目が捉える。再び左右、後方も含めて視線を移す。拳銃を戻す。そして、小銃の被筒、銃把に手を伸ばす。

 両手で小銃を携え、ギャラリーに向き直る。そして、そこに向けて歩み出す。



 ギャラリーの中のクゥィングォへ向かう。彼と目が合う。


「使徒殿、なせ胸ばかり狙う?」と、クゥィングォ。

「的が大きい急所を狙う。理に適っていると思うが」と、遺体損壊への抵抗を感じる俺は、それを伏せて異なる理由を応える。

「では、次は四体すべて頭を的にして、使徒の力を示して見せよ」

「はぁ、まだやんのかよぉ。二十騎の迎撃の方が現時点で最優先事項と思うが」と、葛藤から別の理由を口にする」

「それは重要な事だ」

「それはどう言う理由なのか?」

「とどめを射すならば、この地では頭にしろということだ。この後の戦いでも同じことだ。『予め判れば』とは、使徒殿の言葉であろう?」と、クゥィングォ。こいつ、巧いことを言いやがる。

「あの盗賊たち、あとで弔ってやってくれるか? 禁忌を犯すようで罪悪感が半端ないのだが」

「ああ、心得た。使徒殿。思う存分、力を示せ」と、力強く頷いて見せるクゥィングォ。



 俺は、先ほどのスタート地点に歩みを進めながら射撃の展開を練る。第三標的までは先の実演と同様に進め、第三標的へ向けた拳銃の射撃を第四標的へとする。なお、最後の拳銃の銃撃は短連射に変更する。


「最後の実演はぁ、先ほどと同じ流れで。一番左の標的が最後になりまぁす。

では、始めまぁす」と、位置について声を張る。



 先の実演同様、俺の魂が開始を囁く。第一移動地点に向かい、第一標的へ指切りの二点射を頭に浴びせる。次の所作へ移り、第二目標へ指切り三点射を浴びせる。続いで次の動作に移ろうとしたとき、ギャラリーのどよめきが知覚する。

 それと同時に視界の左方に動き**を感じる。その刹那、俺の魂が脅威を囁き始める。『ヤバイ』と繰り返し囁く。その間隔が短くなる。

 反射的に左手が連射に切り替える。俺はその場に留まる。第三標的を視界に捉える。銃口を指向。頭部を照準。指切り2点射。左目にする頭部の四散。大気の短連射の轟。再びの轟。

 視線を左右に振る。再び、俺の魂が囁く。囁く、々…。その囁きに反比例して時の流れ緩むの感じる。

その場で、すぐさま小銃から拳銃に持ち替え、連射に切り替る。拳銃を第四標的へ。指向。照準。絞る。絞る。頭部が砕ける。遅れて届く乾いた大気の咆哮。続く咆哮。

 再び左右を確認し、脅威の排除を認識。単射に切り替え、拳銃を腰へ戻す。


 すると、ギャラリーから歓声が上がる。



「なんだよ。今のは」と、俺は背中に寒気を感じ、空を仰ぐ。

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