一三、銃声

 俺は精神の安定と集中力の高揚のために、一番左の標的へ進む。背後に控えるギャラリーも誰も言葉を発しない。俺の一挙手一投足に注目しているかのように、皆固唾を飲んで静まり返える。

 この即席の射撃場は、ドゥランの街から北上して、やや東側に進んだところだ。陽の光は暫く正午には及ばない。左の頬に陽の暖かを感じる。大気はやや乾燥し、風は凪いでいる。

 一番目の標的元盗賊を背後に前進する。丁度十五歩で立ち止まり、地面に×印を踵で描く。其処からさらに、三十五歩進む。立ち止まり、標的へ振り向く。周囲を確認。其処に規制線を踵で引く。皆の方へ向き直る。



「皆さぁん此方にお集まりくださぁい」と、少し声を張る。皆、息を止めていたのか深呼吸している。少し脅かし過ぎたか。


「では、皆さんは線の此方に来てください。指示があるまで、この線を越えない様にしてください」と、足元の規制線を示す。

「これから拳銃と小銃、それぞれ一発をご覧いただきます。これで銃の音の大きさを掴んでいただきます。発砲都度、皆さんへ確認しますが、ダメと思う人は両手を上げて身振りで合図してください」と、俺も両手を上げ、両手を振る。

「繰り返しになりますが、『発砲』と聞こえたら耳を塞ぐようにしてくさい。

あと、皆さまに心の準備をしていただくために、『照準』と声を掛けます。

『照準』と聞こえたら耳を塞ぐ準備を始めてください」と、説明する。皆、硬くなっている様子。


「はぁい。少し、練習しましょう」と、皆に声を掛ける。


「手本を見せるので、一緒にやりましょう。こちらをよく見て、同じようにしてください」と、伝え一呼吸置く。


「照~準っ!」と、俺は声を張り上げ両手を耳の傍に運ぶ。

「発砲っ!」と、再度声を張り上げ両耳を塞ぐ。皆、真剣に耳を塞いでいる。キュハァスの真剣が顔が少しキュート。赤鬼クル族青鬼ロム族の厳つい面々が真剣に耳を塞ぐ仕草はなかなか滑稽に見える。



 この練習を規制線の所で三回ほど繰り返す。皆ができるの確認して、次はリハーサル。



「じゃ、本番に近い形で練習しましょう。これで問題なければ、初めに拳銃、次に小銃の発砲をご覧にいただきます」と、言って皆を見渡す。皆、首肯して応えてくれる。俺は踵を返し、×印まで駆ける。始めは皆の方へ向いてリハーサル。



「照~準っ!」の声に合わせて、皆が両手を耳の傍へ腕を上げる。

「発砲っ!」の声で、耳を塞ぐ。大丈夫そうだ。

「声はきこえましすねぇ。聞こえたら手をふってくださぁい」と、声を張る。皆が手を振る。


「これで最後の練習になりまぁす。いいですか?」と、声を掛ける。手を振って応えてくる。



 俺は左端の標的に向き直る。左肩に掛けた小銃を手に取る。銃口を左上にして小銃を抱える。小銃の負い紐スリングに首を潜らせ、右腕を通す。、小銃を前に負い紐を左肩かける。右手で負い紐を下に引き、銃口を下向きに背中に回す。正面に左端の標的を見据え、両足を肩幅に揃える。気持ち腰を落とす。肩の力を抜いて、両手を臍の高さに上げる。息を整える。顔を右に振り、視界の端にギャラリーを捉える。準備完了。

 腰の拳銃嚢ホルスターの銃把に手を掛ける。



「照~準っ!」と、素早く標的に顔を向けると同時に、標的の胸に照門から覗く照星を重ねる。


 一呼吸置く。


「発砲っ!」と、声を張る。拳銃を胸元に引き戻し、左右を視認して拳銃を戻す。耳を塞いだギャラリーへ向き直る。


「皆さぁん。ちゃんと耳塞ぎましたか?」の声にギャラリーが手を振る。


「では、本番いきまぁす。準備はいいですかぁ?」と、声を掛ける。皆が応えるを確認して標的に向く。



 一旦、拳銃を取り出す。弾倉を抜き、弾倉を腰に差し込む。拳銃の遊底を引き、装填状態を確認。弾倉を挿入して、遊底を戻し初弾装填する。

 両足を肩幅に合わせ、腰を落とす。肩の力を抜き、両手を引き上げる。顔を右にふり、ギャラリーを視界に捉える。周りの大気の動きが緩むのを感じる。そっと腰の銃把に手を置く。



「照~準っ!」

 声と同時に、標的の胸に照準を合わせる。



「発砲っ!」

 引き金を絞ると、大気を切り裂く乾いた咆哮が響く。


 左右に視線を送り、胸元の拳銃を腰の拳銃嚢へ納める。


 振り返って皆の様子を確認する。皆、いまだに耳を塞いでいる。



「皆さぁん、大丈夫ですかぁ?」と、声をかけ手を上げる。皆、片手を上げている。両手を上げている者はいない。



「では、次。小銃いきまぁす!」と、手を上げる。皆も手を上げて応える。



 標的に向き直り、後ろの回した小銃を前に戻す。小銃を携え、負い紐から首を抜く。小銃を前に押し出すよう構え、負い紐を右肩で張る。銃口を下に向け、銃床を肩に押し当て小銃を保持する。

 左人差し指で切り替え器の単発の位置にあることを確かめる。単発、良し。両足を肩幅に揃え、腰を落とす。小銃射撃準備、良し。顔を右に振り、視界の端にギャラリーを捉える。



「照~準っ!」

 左足を半歩前に進め、それと同時に標的を指向。標的の胸へ照門に囲まれた照星を重ねる。



「発砲っ!」

 安全装置を人差し指で押し出す。

 引き金を絞ると、重厚な衝撃が大気を揺らす。


 左右へ視線を送り、銃口を下に向ける。安全装置を戻す。



「皆さぁん、耳はだいじょうぶですか」と、振り返って声を掛ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る