一二、移動

 俺はクゥィングォとルォゥミュから話を聴くと、現在進行形で喫緊の問題が二つ発生している。と、認識を強める。聴いた内容からいくつか質問を繰り返す。これは問題点を明らかにし、対処範囲の抜け●●漏れ●●を潰す。また、問題点の本質とその認識を皆で共有する。



 これら二つの問題はそれぞれ異なる事象だが、根底では連動する問題と考えている。

 一つ目の問題。東方の街で越境盗賊の襲撃で、人が攫われ盗賊は北へ逃走中とのこと。盗賊の北の境界までの逃走経路は数日の距離、それまでに東方の街の人々を奪還しなければならない。

 もう一つの問題。北の境界を越えた二十騎の盗賊。ここ、ドゥランの街に向かうと思われるとのこと。早ければ、今夜にもここを襲える距離にいるらしい。しかし、目的が見えない。既に排除した四人の盗賊。盗賊たちが戻らない者の『安否を気にする訳がない』と、思う。合理的に考えるならば、恐らく人攫いの逃走の援護、もしくは追撃勢力の分散を狙た陽動が考えられる。

 そこで、クゥィングォが人攫い追撃に送った増援。この増援に向けて二十騎の盗賊が動くのではと考えている。勿論、この街への襲撃の可能性も捨てきれない。

 その他の可能性は除外して問題ないと思われる。ここを襲った排除した盗賊の棍棒。人攫いの持つ炎を放つ得物。同じ武器に思えるが、それらの回収が目的。その棍棒は既にここには無い。宮様のもとへ持ち帰って調べるらしい。


 その他、懸念すべき事柄があるが、緊急性はないので長期的な問題と捉える。事情に変化があれば、その時検討すればよいと考えられる。

 これまでの越境盗賊の襲撃規模は多くても十らしい。その点で言えば、東方の街を襲った盗賊は百を超えている。増援・陽動の越境盗賊は二十。それに炎を放つ揃いの得物、と言うよりは統一された武器の印象がある。そしてこの新領域と言う土地、どこぞの半島と同じ火薬庫臭がする。加えて、そんな土地に入植した天界を渡る民ドゥラン、キュハァスの「重々侮るなかれ」的な発言。おそらく入植地を指定したのは宮様なのだろう、何を考えているのやら…。



 それで俺が考えた対策は、第一に二十騎の盗賊の対処を速やかに終える。第二は人攫いの退路を断つべく、逃走経路と目される境界付近に急行。として、クゥィングォらとの合意へ至る。

 幸い彼ら守護のつわもの衆は、会話鏡・・・なるものがあり、現代的な通信手段、すなわちリアルタイムに会話、映像を確認できる。これにより、二十騎盗賊動向の捕捉と、追撃に送った増援の状況が判る。



 そして今、クゥィングォに連れられて急ごしらえの射撃場にいる。一応、射界方向は土手に遮られている。この土手は何でも北洲の開拓時の物らしい。多分灌漑用の用水路だと思う。現在、その目的は失われている。

 あぁ、既視感が半端ない。丸太が等間隔に四本立てられいる。映画でみる刑場、銃殺刑の。それだな。少し罪悪感を覚える。

 そんなことを考えていると、クゥィングォから声が掛かる。


「的はこちらで用意する」

「ああ、了解」


 クゥィングォとの話を終え、丸太の方へ向くと赤鬼クル族青鬼ロム族の若い衆が、的を丸太に括りつけ始める。的、布に包まれた人型? なぜ、人型! クゥィングォを呼び止める。


「クゥィングォっ! あれはなんだっ!」

「あれは使徒殿が屠った盗賊どもだ」


 クゥィングォはさも当然の様に語る。それがクゥィングォが用意した的。いろいろ、人道的に問題がありそうなのだが。盗賊たちの遺体を使うらしい。若い衆の動きをたどると、馬車の荷台から下ろしている。残る元盗賊たちは荷台に寝かされている。

※ 俺は手を合わせ、南無ぅ。まぁ、外見は布に覆われているのだが…。小銃ブルパップの威力を確認するには、分かりやすいのだろう。郷に入っては郷に従え、ということなのだろう。この土地の人に合わせる。そんな俺の仕草を眺めるクゥィングォが声を掛ける。


「使徒殿、力を確かめさせて貰う。アァマの使徒の力を示せ」

「承知している。まだ注意事項があるから、始める前に説明する」

「承った」


 俺はの準備を長めならが気分が重くなる。それらの準備が終わるころには、罪悪感やら後ろめたさが更に増す。ちょっと気が重い。



 ギャラリーへ向き直り、気分を切り替え明るく振る舞う。


「お集りの皆さぁん。喫緊の問題が山積する中、貴重なお時間を割いてお集り頂有難うございまぁす。

これから始めますのは、この小銃とこの拳銃の威力をご覧いただきます」と、俺は順番に小銃と拳銃を手に掲げ皆に示す。


「これから始めますが、その前に幾つか注意事項がございまぁす。

これ等の銃は、発砲時たいへん大きな音がします。心の臓が弱い方いらっさいませんかぁ?」と、皆の表情を確認する。

「それから、馬ですね。遠くに離れて、確りつなぎとめておいてください。お願いします」と、馬への配慮も怠らない。

「では、次。大変大きな音です。予め発砲する前に『発砲』と声にするので、音に敏感な方、音に関するお仕事の方は、発砲時は耳を塞ぐことをお勧めしまぁす。耳鳴りで、物音が聞こえにくくなります。耳を塞がない方は自己責任でお願いしまぁす」と、一応脅かしておく俺。


「はじめに、皆さんは都度指定する所で待機してもらいます。その前提で次の注意事項を厳守願いまぁす。

では、その注意事項です。

一つ、自分が『いい』と言うまで、絶対にその場を動かない事。

二つ、自分が『いい』と言うまで、小銃や拳銃、引き金に触れない事。

三つ、自分が『いい』と言っても、銃口を覗いたり、銃口の前に立たない事。

以上の三点が守られない場合は、その場で中止とさせていただきます。

また、此方の指示に従わず事故が発生した場合も、全て自己責任でお願いしたします。

加えて、瑕疵の如何を問わず当方には一切の責任が無いものとします。あらかじめご了承くださぁい。

皆さん、わかりましたかぁ?」と、俺は重くなった気持ちを払拭するため物騒なことをさり気なく伝える。

「…」

「皆さぁん。わかりましたかぁ?」

「…」

「あれぇ、どうしたのかなぁ?」と、言ってみんなの顔を窺う。なんかお互いの顔を見あっている。なんだぁ?、反応が薄い? いや、違うな。どうしていいのか分からない様子。

「皆さぁん。わかったら大きな声で『ハイ』と、返事をしてくださぁい」と、俺が言って、皆を見渡す。


「はい」…「はい」、「「はい」」…「はい」と、やっと返事が返ってくる。


「不服な方はいらっしゃいませんか。不服な方はご退場ください。

よろしいですね。では、皆さん自己責任でよろしくお願いします」と、念を押す。退場者いない。



「それでは、はじめまぁす」


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