一〇、人形
大きな半球状の
その外見は団子!? いや、顔がある。白い達磨だ。しかし、達磨と言っても厳つい顔ではなく、なかなか愛嬌がある。
「おはよう。今戻った。ダルマ君」
『ぼく、ドゥルァ衛門士』
「えっ?」と、俺は何かが引っかかる。
『ぼく、ドゥルァ衛門士』
「オレはヒトロクと呼ばれてる。ドゥルァちゃん。キュハァスは戻っている?」
『キュハァス、部屋。ヒトロク』と、端的に答える達磨。暫し、俺は達磨と見詰めあう。あぁ、これは空気読まない奴だ。
「あぁ、悪いが部屋まで案内頼めるかなぁ」と、俺はお願いしてみる。すると、達磨の愛嬌ある目が瞬きして踵を返し、館の入り口に向かい滑る様に進み始める。
俺はその姿を見入り、暫し考えを巡らす。達磨、これってロボだよなぁ。大体、“ぼく、ドゥルァ衛門士”って何だよ。色々間違っている様な気がするが、気にしても始まらん。
そんな事を考えていると、白いロボが入り口まで止まり此方に振り向く。“ついて来い”とばかりに視線を向けてくる。
「あぁ、悪い。今行く」と、俺は館の入り口に歩みを進める。
俺を案内する白いロボが館に入り、右に進む。すると、左から別のロボが館の外へ出ていく。その別のロボと目が合うと、一度止まり瞬きするとまた進みはじめる。その姿を追うと、俺を案内しているロボがいた場所で止まる。
俺はそれを見届けて館に入り、右に進む。すると、案内する白いロボが此方を向いて止まってる。俺の姿を確認するとまた踵を返して進み始める。
暫く進むと、白いロボは立ち止まり左の壁に向く。すると、一瞬で壁が消え去り部屋への入り口が現れる。白いロボが後ろに退き、俺の方へ向く。
「ドゥルァちゃん、ありがと」と、部屋の入り口に向かう俺は白いロボに礼を告げる。白いロボは黙礼して戻ってゆく。
戻る白いロボの後ろ姿を眺めながら、部屋の入り口を潜る。そういや、これは朝帰りなのか、と考えなら天蓋の掛かる寝台を覗く。食事から酒宴に雪崩こみ、キュハァスとはそれっきり。
天蓋の薄い布越しから寝息が聞こえる。キュハァスはまだ眠っている。昨日は食事から宴会へ、それから飲み比べに突入。それから目が覚めるまでは、記憶が無い。
天幕でごろ寝のせいで背中が痛む。とりあえず、湯に浸かり背中の凝りを解して、さっぱりするために湯殿に向おう。
§
俺は湯舟に浸かり背中の凝りを解して、さっぱりしたとこで湯殿を後にする。湯あみを済ました後は、これからの準備に着手する。装備を確認していると背後に気配を感じ振り返る。
「キュハァス。おはよう」
「ヒトロク様。ロミェールをあんなにお飲みになって、昨夜はどちらに?」
「あぁ、クル族とロム族の野営地に」
「まぁ、それはそれは」と、キュハァスが徐に近付いてくる。俺は立ち上がりキュハァスに向き直ると、彼女は俺の肩に腕を伸ばす。その伸ばした腕を俺の背後へ滑り込ませ、彼女の躰を俺に寄せる。
「ヒトロク様、湯あみを済まされたのですね。昨夜はミュゥランと随分と親しげになさっていたようですが、彼女と何事か御座いましたか」と、キュハァスは何かを探る様に俺の眼を覗き込む。
「そ、そうなのか。昨日は食堂での宴の後の野営地に向かった記憶が無いんだがなぁ。おまけに、ここに戻るのにクゥィングォに頼んでここまで馬車で送ってもらったぐらいだ」と、俺は彼女の腕を解きなが些か詳しく答える。別に後ろめたい事は何もないが、目を覚ました時に俺の傍らにミュゥランが寝ていたことは黙っておく。
「そうなのですか。それで、今は何をなさっているのです」
「クゥィングォにこれを見せる」と、屈んで傍らの
「わたくも参ります。身支度を整えますので暫しお待ちを」
「あぁ、もちろん。こっちも用意があるから」
装備の確認を終え、立ち上がり背後のキュハァスへ向き直る。
「こっちは準備は整った。キュハァスは?」
「はい、わたくしも終わります」
キュハァスは壁に向かって身支度を整えている。背中に大きな襟を垂らした濃い青みがかった紫色の衣をまとっている。彼女の身支度を整える仕草を少し怪訝に思い、彼女の後ろに回り込む。
「鏡になっているのか」と、鏡の中のキュハァスへ眼を向ける。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、何もない壁に向かって何をしているのか。と思ってね。姿見になっているとは」
「ドゥランの鏡は皆こうです」
「部屋に戻る途中の達磨ロボといい、なんの冗談かとおもった」
「あぁ、衛門士ですね。よくは存じませんが人形ですね」と、彼女は暗い茶色の外套に袖を通し、此方を振り向く。
「人形ねぇ」と、彼女の外套の襟を整える。
「わたくしも準備が整ました。ではまいりましょう」と、とても魅力的な笑顔で応える。
館の外へでると、
「お先にどうぞ」と、彼女を馬車へ誘う。彼女に続いて、俺も乗り込む。
馬車の扉を閉めると、ゆっくりと馬車が進みだす。少しずつ移るを景色を眺めていると、キュハァスが口を開く。
「どちらに向かわれるのですしょうか」
「先ずはクゥィングォのところだと思う。それから移動すると思う」
「そうですか」
「そういえば、クゥィングォの所で珈琲を飲んだ。ここにもあるんだな」
「その飲み物はなんですの?」
「ああ、焙煎豆茶って言ってたな」
「焙煎豆茶ですか」と、彼女が話すところで馬車が止まる。野営地に着いた。
始めに俺が馬車から降り、キュハァスへ手を伸ばす。彼女の手をとって、降車を促す。彼女が降り立ったところで、俺は彼女へ尋ねる。
「焙煎豆茶、飲んだことある?」
「いいえ、ありませんわ」
「ちょっと、大人の味的なんだが」
「それは、わたくしも頂いてみたいものです」
そんな話をしているところに、件の珈琲を出してくれた年長の男が現れる。
「焙煎豆茶の話がきこえたのでね」
「先ほどは、有難う御座いました。また、これからまた頂けますか?」
「勿論。さっきの所に行きなさい。
「有難うございます」
俺たち二人はクゥィングォの所へ向かう。すると、クゥィングォは何やら打ち合わせをしている様子。何やら険しい表情を浮かべている。時折り語気を強めて話し合っている。
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