〇三、フィジカルコンタクト
先行した騎馬隊から、黒い騎馬の大きな一頭が此方に歩み寄ってくる。馬上から黒い姿の鋭い眼光が、足元の大男の遺体を見下ろす。
「キサン、…バ…タオシ…トカ。ドゲェ…バ…シヨッ…トカ」と、頭を覆う外套を纏う男が此方を向いて馬上から問う。
雰囲気的には、大男を倒した人物と方法を訊いている様子。肩に掛けた
「オレタイ。コレデタオシッタタイ」
男が優雅な所作で馬上から降り、足元の大男の脇に屈みこむ。その男は、外套の頭の覆いの右から三つ編みを垂らしている。その三つ編みを弄りながら、しきりに遺体の胸の傷口を調べている。
先行の騎馬三騎が別の大男の遺骸に向かう。三騎から頭を覆う外套を纏う男たちが降り、同様に遺体を検分している様子。
残りの騎馬は広場の外へ向かう。
夫々大男の検分を終えた外套の男たちは馬を引いて近付いてくる。皆一様に件の棍棒を携えている。その一人が、自分の足元で遺体の検分を続ける男の耳元で何やら囁いている。一通り話を聞き終えた右三つ編み男が腰を上げ、差し出される件の棍棒を手に取り視線を向ける。棍棒を差し出した男と二言三言、言葉を交わす。先ほど違って、耳慣れない言葉を話している。
話を終えおると棍棒を男に返し、此方に向き直る。そこに、後続の騎馬隊の到着を示す騎馬の嘶きが響き渡る。
後続の騎馬隊の方からよく通る艶めかしい女の声が届く。が、これも聞き慣れない言葉だ。その女が馬上から降りると、先行の右三つ編みを垂らした男と言葉を交わす。暫く何やら言葉を交わし後、此方に振り向き近づく。
徐にの二の腕へ彼女の両腕が伸びる。視線を戻すと、そこには彼女の顔があった。「近い、顔、ちけぇ」と、思った瞬間。彼我の唇の接触を認識する。「ナニコレ、何のハニトラ。これっておいしいのかぁ」と、思うや否や急に全身から力が抜けていく感覚に襲われる。次に瞼が重くなり、意識が遠退いて奈落に沈む。
意識が朦朧とするなか少しづつ覚醒する。しかし、瞼も未だ重い。全身から力が抜けている様に、全身の感覚が覚束ない。まるで躰の四肢に力が伝わらない。
右手に意識を向ける。掌に何かがまとわりつくような温もりを知覚し始める。しかし、指に意思は伝わらない。左手は。掌に滑る温もりが過る。それが胸元に近づいてくる。柔らかな湿った温もりが全身を包み始める。心地よい暖かさを感じる。
意識を足元に向ける。爪先はよく分からない。少し冷えている感覚はあるが、意思が伝わらず動かせない。そう認識していると、大腿部を上から圧迫する力を認識する。それは次第に大腿部の滑る様に裏へ回り込む。次第に温もりが伝わり始める。
大腿部を圧迫していた重みが、温もりを伝えながら上へ向かって滑らかに移動する。次第に全身に熱が伝わる。柔らかな感触が胸元まで上がると、脇から滑る様に温もりが背中に回る。
暫く、その柔らかな感触の温もりに身を任せる。とても心地がよく、いつまでもこうしていたいと感じる。全身を巡る熱き血潮が一点に向かって脈動し始める。体に熱を帯び変身を始める。
脈動に合わせて湿った滑らかな温もりに包み込まれる。心地よさが意識を高揚させる。その高揚した意識が天を駆け上った刹那、意識が途切れる。
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