Day 3「落葉」 貴方と2人だけの世界まで
秋の風に煽られて、木の枝からまた一枚、木の葉が舞った。
木々の足元には落葉の絨毯が、分厚くできている。
随分寒そうな木々が増えてきた。この調子だと、雪が降るのもそう遅くはないだろう。
家で暖を取るための薪がたんまり入った籠を背負い直す。かじかむ手に、手袋を忘れて出て来た事に今気づいた。
家までの道を歩いていると、特徴のある鳥の鳴き声が聞こえた。
思わず頭上を見上げると、白く大きな鳥が4、5羽の隊列を作って東へ飛んでいく姿が見えた。
ますます、冬はもうすぐそこまで迫っているらしい。
「ただいま」
「おかえり。寒かったでしょう」
「白鳥が飛んでたよ」
家のたたきに背負っていた籠をおろして、ついこの間から一緒に暮らし始めた人に言う。
ただいま、と言ってお帰り、と言われる事にまだ慣れていない。幸せが心をくすぐる。
「もう冬だねえ」
冬が嫌いじゃない、と笑っていた同居人は少し楽しそうだ。居間のストーブは、部屋の隅で煌々と燃えている。今年初めての運転で心配だったが、順調に機能していて良かった。
いつものクセで、かじかんだ手をストーブであぶろうとすると、目の前にマグカップが差し出された。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう」
落ち葉のような色合いの紅茶がなみなみと入っている。マグカップを両手で包んで持つと、かじかんだ指が、じん、とほどけていった。
紅茶は美味しい、というのも一緒に暮らし始めてから知った。
一口飲むと、体の中から暖まる。マグカップの湯気の向こうに、得意げに笑う同居人の顔が心の底から愛おしいと思った。
「冬ごもりの支度をしないと」
「ここから村までの道も雪で通れなくなっちゃうものね」
昨年は一人で過ごした。その前の年も、その前も。寒くなる家に自分以外の人がいるなんて、もう何年ぶりだろうか。
「冬の間に籠を編めるようにしたいな」
「時間はゆっくりあるから一緒に頑張ろうか」
冬の相談を誰かにできるのも、何年ぶりだろうか。
こういう時間を、心を満たす温かさを、きっと、幸せというのだろう。
落葉が日ごとに増えていくのを見る度に、家に閉じ込められる日が迫っていると思ってきた。去年までは。
今までは落葉を見るのも嫌だったが、今年は苦痛を感じない。
むしろ、今は早く、冬が来れば良い。
そうなればもう、紅茶を入れてくれる優しいこの人と2人だけの世界だ。
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