第2章 - 大廈の入学式


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〜国立灯方ひがた高等学校 入学受付所〜

「......ここか。」

 零也れいやは受付所で貰った冊子に目を凝らした。



[国立灯方高等学校 要項]

1.本校は、實力じつりょくあうじてクラス編成を行(う)


2.身柄、これ迄の成績、能力適性檢査けんさから情報を吟味し、星使→朝暾→暐曄→曉習→晦冥→晻昧の順にクラスが低くなる。頭文字を取(っ)て、S、C、I、G、K、Aと表される。


3.2の例として纍計るいけいXPが10まんXPの場合、レベルは45に成り、Gクラスの穪號しやうがう付與ふよされる。


4-1.普段の生活はすべ數値化すうちかされる。善行は加點かてん惡行あつかう減點げんてんとする。


4-2.加點及び減點は其の內容ないやうに應じて變動へんだうする。

1つの基準として、校則違反は-1,000EP、條例じやうれい違反は-2,500XPとなる。よ(っ)て、きまごとは遵守するようにする亊。

〈後略〉



 なんだこの文字の羅列は。こんなものを読みたがる者は文系だけだろう。(現に、横の文系新入生は正信偈しょうしんげでも唱えているかのようにすらすらと読んでいる。)

 兎も角、個々流々ここりゅうりゅうで生きていけば良いのだ。古今東西当たり前のことである。減り張りを付けるだとか、ごみは分別して捨てるだとか、授業は真面目に聞くだとか、決して不可能なものでは無い。最近の教育は甘過ぎるのでは無いかと心底ちょっとだけ思っている。ちょっとだけ。



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 この世は性格と実力が社会を左右される。正直者が馬鹿を見る世界では決してあってはならない。

 そのような教えを高国民は皆強いられて来た。唯一、人々より崇高の存在であるのが赤色矮星・ベテルギウスと水神・暗罔象神クラミツハ

 その2つ以外は総て、ベテルギウスと暗罔象神によって創られているものだと言われている。水によって風が生まれ、恒星によってこの地に生が訪れた。宗教的集まりは無いものの、日本国であった時代から日本人は自然崇拝という形であらゆるモノを祟っていた。

 しかし、当時日本がこの星に着陸した頃には既に清水がささらいでいた。よって実は神話上の存在である。新しい国をつくってもなお、全て正しい答えが存在していない。相変わらずの偶像崇拝だ。



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〜国立灯方高等学校 体育館 ・ 入学式〜

「······続いて生徒会長からの祝辞です。」


「第17期新入生の皆さん、入学おめでとうございます。私から在校生を代表して祝詞を述べさせて頂きます。

 私は2年生から生徒会長を務めさせている4年・Cクラスのあきない迦楼羅かるらです。3月、352名のダイヤモンドとなった7年生が社会のそれぞれの頂点に立つため、ここを発ちました。

 私達は産まれたいという欲望も持たず、産まれる家庭の願望も無く、突然空っぽのまま産まれました。産まれたからには生きることが義務となり、働くことが使命であり、貢献するのが生きる意味であるのです。これは誰に対しても平等であって、為さねばならないことなのです。

 しかし、何もしないままで居て自分自身が動くことはありません。流れるのは時間と数値と人のみ、即ち自分以外です。置き去りにされるのは人としての意味を成しません。人は動き、人は走り、人は動かし、人は作り、人は逸り、人はり、人は流行はやり、人は人を作り、人は人を人として社会にする。その準備をするのがこの学校の教育指針となります。

 今日ここに集まった皆さんへ、この敬虔値のシステムについて軽く説明します。この「敬虔」はこの世界に於いてベテルギウスや暗罔象神といった『社会』を作った人を指し、社会貢献度となります。

 皆さんは今レベル0です。入学式の後、皆さんには能力適性検査を受けさせて頂きます。その出たXPが自分の始値になります。XPを一定数集めるとレベルが上がり、レベルによって6つのクラスに振り分けられます。レベルが上がるとクラスも上がります。7年後の2月のレベル及びクラスで進路がある程度絞られ、卒業となります。のでとても大事な資料であり、皆さんの命とほぼ同じになるものです。詳しくは受付所で貰った冊子を一読下さい。

 新入生500名がそれぞれ才力知識を研磨して行って、『社会』となれる様、良い高校生活をお送りして下さい。以上です。」


 迦楼羅が静かに壇から降りて行く。体育館内に足音と緊張と静寂が水と油となって響き渡った。


「気を付け、礼。」

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