第13話 首の皮一枚残すとか無理なんで
「ファルコ! ファルコ―!」
誰かが僕の名を呼ぶ声に深い闇の底に沈んでいた意識が覚醒していく。
やけに重い瞼をようやく開くと今にも涙が零れ落ちそうなほど目を潤ませたエリーと視線が重なる。
「僕、どうなった?」
「魔法使いに眠りの雲をかけられたのよ。それで……」
「寝ちゃったってことか。よっこいしょ」
まだ、はっきりしない頭を軽く振りながら、起き上がって周囲を確認する。
僕のことを優しく見つめているエリーの姿と原形を留めないほどにグチャグチャに潰された赤黒い何かが見えた。
その側に杖らしき物が落ちてるから、僕に魔法を掛けたリザードマンはエリーの手で引導を渡されたんだろう。
エリーにモルゲンシュテルンを渡したのは誰なんだろ。
危なすぎるよ、あれ。
「あれ? あの強そうなのは?」
「パリュちゃんが今のところ、抑えてくれてるわ」
風を切り裂くような音がしたかと思えば、それを振り払うような金属音が周囲に響き渡る。
ようやくしっかりとしてきた意識を傾け、音の方に目をやると大斧を自由自在に振り回す大きなリザードマンの姿とその周囲を軽やかに跳躍し、襲い掛かる大斧をかいくぐるパリュの姿が見える。
あれは遊んでいるね。
本当は余裕で倒すことが出来るのに敢えて、倒していないだけだ。
さっき、僕にだけ分かるような
しょうがないね、僕がやるしかないか。
「ちょっと片付けてくるね」
「え?フ、ファルコ!?」
言うや否や既にトップスピードで駆け出したのでエリーが僕を止めようと伸ばした手は僕を捉えられず、宙に浮いていた。
ごめんね、速くってさ。
「選手交代しようか」
パリュのやつはまた、ニヤァと妙に嫌らしい笑みを浮かべながら、大きく飛び退っていく。
入れ違いのように僕が大きく振り下ろされてくる大斧の矢面に立つ。
避けるのは簡単。
左右に高速でステップを踏むことで残像を生じさせることも出来そうだ。
質量のある残像を生まない限りはあまり、意味ないかな?
分身攻撃なんて攻撃が出来たら、最高なんだがそれじゃ、物語の世界の話みたいだから、無理だよね。
避けるのではなく、真っ向から大斧の刃を右の掌で受け止める。
何かの力を使ったのか、それとも元々、膂力が尋常じゃないのか。
受け止めた瞬間、僕の掌は痛くも痒くもないのに足元の地面がメキメキと不快な音を立ててながら、沈んでいく。
「でも、それだけ」
大斧の刀身に添えていた指に力を込めると思っていたより、あっさりと粉々に砕け散る。
あまりの手応えの無さに僕自身も驚いているが一番、驚いているのは大斧を振るっていたリザードマンだろう。
思い切り、全体重をかけて振るっていたものが急に失われた訳だから、どうなるでしょう?
バランスを崩すよね。
左の手を手刀にしてバランスを崩し、僕の方に倒れ掛かってきたリザードマンの腹に目掛け、それを突き刺した。
金属を抜け、肉を断ち、内臓を突き抜ける嫌な感覚が伝わってくるがそのまま、気にせず、突き通す。
「終わりだよ?」
耳障りなリザードマンの苦痛に満ちた呻き声を無視して、大斧を砕いた右手を手刀に替える。
止めを刺すのにはやはり、利き手の方が楽だしね。
突き刺さったままの左の手刀を抜き、倒れ掛かってくるリザードマン目掛け、左足で思い切り蹴り上げると血飛沫を上げながら、ふわっと浮き上がっていった。
僕は蹴り上げた左足をやや前方へと下ろし、それを軸足に跳躍し、無防備になっている首筋に向け、右の手刀を叩き込んだ。
「やりすぎたかな」
思い切りよく手刀で切り込み過ぎたようだ。
リザードマンの大きな首が凄い勢いですっ飛んでいった。
主を失った胴体の断面からはシャワーのように凄まじい血が迸っている。
でも、しょうがないよね。
首を切り落とすなんて、初めてやった訳だし。
飛んでいったけど、首であることは間違いない。
潰しちゃったエリーのよりは大分ましなはずだよ。
回収すれば報酬として、認められるよね?
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