第12話 意外な弱点

 パリュの威圧のお陰なのか、六階層までノーエンカウント。

 楽と言えば楽だが、やや物足りなさを感じる。

 そのパリュが僕の肩にちょこんと乗っかって、小声で囁いてきた。


「先程、吸ったアノ男ナンデスが珍しい能力モチだったヨウデス」

「へー? どういうの?」

「足が速インデス」

「それで僕たちについてこれたのか」

「ソノヨウデスネ。その力、私がイタダキマシタ。黒猫特急ハ黒猫超特急にナッタノデス」


 それが言いたいだけで僕の肩に乗っかったのか。

 重いんだが?


「パリュちゃんに懐かれたみたいねっ」


 エリーが鈍くて、本当助かっている。

 パリュの話はあまり、聞いて欲しくないものだし。


「ソロソロ、リザードマンのテリトリーですヨ」


 先頭を歩いていたパリュがこちらに振り返り、そう言ったのでエリーと顔を見合わせ、得物を取り出した。

 エリーはそのモルゲンシュテルンをどこに仕舞っていたんだ?

 スカートの中なのか!?

 エリーのスカートの中は異空間に通じているとでも言うんだろうか。


「ファルコ、お姉ちゃんのスカートを見てもこれは仕舞ってないよ?」

「じゃあ、それはどこから?」

「ひ・み・つ! 女の子には人には言えない秘密があるものよ」

「あのお二人サン。じゃれるのはソコマデデスよ。奴ラ来マス!」


 パリュが本来の大きさに戻り、威嚇するようにガウウと咆哮するのとリザードマンの斥侯隊が攻撃してきたのはほぼ同時。

 これは僕のミスだ。

 エリーのモルゲンシュテルンがどこから出てきたのかが気になって、囲まれていたことに気付けなかったんだから。


「パリュ、義姉ねえさんを頼む」

「ハイ、お任セヲ」


 パリュは触手を使って、二匹のリザードマンを軽く、薙ぎ払っている。

 エリーもモルゲンシュテルンを豪快に振り回しながら、リザードマンを物言わぬ肉塊に変えている。

 信じられないかもしれないが、あれで聖女なんだよ?


 一人と一匹は心配しなくても大丈夫だろうと判断し、自分が出来ることを確認しながら、戦ってみることにする。

 リザードマンが大型の槍を僕の心臓を目掛け、突き出してきたのを軽いステップだけで避けた。

 かなり鋭い突きだと思うのに僕の目にはなぜか、スローモーションのように遅く見えたからこそ、出来た芸当だ。

 ステップから、踊るように一歩、前へと右足を踏み出してから、リザードマンの頭に目掛け、ハイキックを叩き込む。


「あっ、そうなるか」


 頭が柘榴のように弾けて、見るも無残な状態になってしまった。

 主の無くなった胴体は血を噴き出しながら、仰向けにどうと倒れる。

 ハイキックだから、当然のようにミニスカートでは見えてしまう。

 ショートパンツを履いてるから、恥ずかしくない。

 むしろ見られても僕は特にどうと思うことはない。

 見られても減るものじゃない。


 斥侯隊は十匹少々しか、いなかったのであっという間に片が付いた。

 これでは不完全燃焼だ。

 確かめられたのが動体視力と身体能力の高さ。

 何よりも自分で気付いていなかった身体の頑丈さ。

 武器と同じか、それ以上の気がする。


「証拠になる牙と鱗が足りないから、もう少し狩らないと駄目」

「そうなんだ?」


 かわいく言っても証拠が駄目になった原因はほぼエリー。

 モルゲンシュテルンで文字通り、敵を叩き潰してミンチにしているせいで証拠になる部分まで見事にグチャグチャなのだ。


「心配イリマセン。サッキのよりもタクサン強いノマデ来ました」


 パリュが金色の目を細め、ニマァと笑ったように見えた。

 あまり動じない僕だが、さすがに今の顔には不気味さを感じる。


 さっき戦ったリザードマンは両手持ちの大型槍を持つものもいれば、曲剣と盾持ちのものもいて、着ている防具もどことなく粗雑だった。

 今度のやつらは装備からして、そもそも違った。

 統一された金属製の鎧を着込み、片手持ちの長剣と円盾を持つのが十匹、同様の装備だが側頭部左右から角飾りのついたヘルムを被ったものが三匹。

 そして、二メートル以上ありそうな巨大な大斧を持ち、意匠の施された鎧を着込み、図体も他の個体より一回りは大きいのが一匹。

 もう一匹は他の個体よりも小柄だが持っているのが木製の杖だ。

 魔法を使う冒険者が良く持っているのに似ているから、魔法を使えるリザードマンってことか?


「パリュ、また任せてもいい?」

「アノ方を守りナガラ、戦エバいいんデスネ。お安イ御用デス」

「僕はあの五匹をどうにかする」


 やつらの布陣は後方に指揮者らしい大きいのが控え、その脇に魔法使いぽいやつ。

 その二人を守るように三匹のやや豪華なやつら。

 その前に立ちはだかるように十匹がいるので普通に戦うと面倒だろう。


「よし、跳ぼう」


 大地を思い切り、蹴って跳躍する。

 加減するということを多少は学習したので馬鹿みたいに高いところまで跳んだりはしない。

 とはいえ、適度にスピードを殺さないといけないので身を捩って、クルクルと回転しながら、三匹の真ん中に陣取っていたものの頭に着地する。


「ごめんね。無防備だったから、つい」


 頭蓋骨を踏み抜かれ、既に事切れているリザードマンを蹴り、地面に降り立ち、次の獲物を右側のものに決めた。

 さすがに訓練された上位のリザードマンだけあって、さっきのやつらとは違う。

 円盾を前面に構えるという防御を重視したスタイルで僕の出方を窺おうと言うんだろう。


「足元がお留守」


 僕はそのまま腰を落として、しゃがみながら、右足で足払いをかける

 あくまで陽動、そちらに気を取られたところを懐に潜り込み、レバーブローを入れようと思っていたんだが……やりすぎた?

 脛から下を完全に刈り取ってしまうとは加減を失敗したらしい。

 まぁ、いい。

 背丈が小さくなったリザードマンの頭頂部に思い切り、握った拳を叩き込んで二匹目も終了。

 最後の一匹が迫ってきているので既に事切れているリザードマンの身体を蹴り飛ばし、その反動を利用して、三匹目の構えている円盾ラウンドシールドに向けて、最上段から手刀を叩き込んだ。


「あれ?」


 盾ごと真っ二つに切り裂いてしまった。

 僕の手足は危ないな、これ。

 相手を殺るって力込めない限り、日常生活でも支障ないみたいだが不意に力出ちゃうと危ない。

 気を付けないと。


 残りは指揮者と魔法使いみたいのだ。

 魔法を使えるのがいると厄介だな。

 あちらから先に殺るか!

 杖を構え、何やら良く分からない言葉を呟いているリザードマンへと一気に間合いを詰めた。


 手刀でその首を刎ねようとした僕だけど、その前に視界が真っ暗になり、意識が深い闇の底へと沈んでいく。

 あれ?

 どうしたんだろう……僕、ねむ……く。

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