第11話 自重するのはやめた
ダンジョンまでの道中はパリュに乗せてもらって、飛ばしてもらった。
さすがは黒猫便だ。
定刻通りにちゃんと到着するが、乗り心地は最高とは言い難かった。
到着してから、エリーが暫く、草むらから出てこないのはもう様式美ということでいいだろう。
エリーはちょっと三半規管が弱いのだ。
船にも酔ってしまうんだろう。
「も、もう大丈夫だから、行こっか」
まだ、心無しか顔色が青白いエリーがそう言うので『おんぶしようか?』と善意で申し出たのに全力で断られたんが。
傷つきはしないが、全力で断らなくてもいいだろう。
ダンジョンの入口から、六階層まではパリュは黒猫サイズで一緒に歩くだけに留めた。
変に大猫の姿を見られて、怪しまれるのは本意じゃない。
「五階層までは私が殺気を出スダケで近付いてキマセンヨ」
そうパリュがドヤ顔で語っていた。
冗談かと思ったら、どうやら、本当の話だったようだ。
フリーパスで『どうぞどうぞ』と通されているような感覚だね。
「何か、付いてきてるね?」
「気付イテマシタカ」
「え? 何の話?」
エリーは気付いていないようだけど、ずっと
どうする?
エリーは知らない方がいいだろう。
「
「どうしたの? あっ、分かった。お花摘みでしょ、我慢はいけないわ」
「私もイッテキマス」
エリーが変に鈍いというか、天然で助かった。
パリュも来る気ということは何か、する気なんだろうか?
この黒猫もいまいち、何を考えているのか、分からない。
油断はしない方がいいのは間違いない。
「さて、あなた。何の用?」
パリュともども別に大したことはしてないんだけどね。
ちょっと高速で動いただけだ。
ただそれだけなのに驚きすぎだ。
「お、驚かせやがって。お前、ファルコなんだろ?」
僕を名前で呼ぶこいつは……ああ、思い出した。
僕を落としたやつじゃないか。
気持ち悪い目で僕を上から下まで見つめてくる。
舐め回すような視線とはこういうのを言うんだろう。
すごく気持ち悪い。
「どうやって帰ってきたのか知らねえが、お前、女だったんだな?」
視線が胸の辺りを凝視してるのが良く分かるんだが?
本当、気持ち悪い男。
殺す?
いや、まだやめておこう。
殺すだけなら、すぐに終わる。
「何の用と聞いてる」
「お前たちさ、姉弟じゃなくて、姉妹なんだろ? 俺が二人とも女にしてやろうってんだよ。悪い話じゃないだろ? 俺、見たんだぜ。そこの猫がおっきくなったのをよ」
「パリュ、こいつが何を言ってるか、分からない」
「戯言デスネ。消シマスカ」
泳がせる必要はなかったようだ。
頭の中まで精液に浸かったような男と会話するなんて、時間の無駄だったということか。
「うん、そうしよう」
「は?」
問答無用で思い切り、男の股間を蹴り上げると何かが潰れたような感触とどこかの骨が砕けたような音が聞こえた。
勿論、とても手加減した。
手加減しないと真っ二つに寸断しかねないし。
「容赦ナイデスネ」
「する必要ある?」
「ナイデスネ」
「あっあががが」
あまりの痛さの為かな?
涎を垂らしながら、股間を押さえ、
また、何かが潰れた音が聞こえ、血しぶきと脳漿を撒きながら、男が大地に仰向けに倒れ込む。
勿論、手加減したよ?
頭が破裂したら、苦しまずに死んでしまう。
それはいけない。
もっと苦しめてから、消そう。
「汚い血がついた」
「あなた本当、容赦ナイ」
「してるよ? 自重するのをやめただけ」
僕を脅すだけなら、怒らない。
エリーを脅そうとは万死に値する。
「証拠が残らないように細切れにするか」
「私にお任せクダサイ?」
パリュが目を細め、さもこれから、楽しいことが始まるとでも言うような顔をしている。
ドヤ顔してる時は人間味があって、いいやつかもと思ったが、信用しすぎない方が良さそうだ。
「じゃあ、任せる」
僕がそう言うとパリュは黒猫サイズから、大型の肉食獣へと身体を変貌させた。
既に痙攣するだけでまともに動いていない男へと近づいていく。
食べる気なんだろうか?
それなら、意外と普通なんだが。
静かに見守っているとパリュの肩から生えている二本の触手が男の身体に伸ばされていった。
「それではイタダキマース」
触手の先が肥大化したと思ったら、パックリと二つに割れ、まるで口のような形状になった。
細かく、鋭い牙のような物がたくさん生えていて、凶悪な見た目をしてる。
その見た目通りの評価で良かったようだ。
次の瞬間には男の身体はその場から、消えていた。
「食べたのか?」
「食ベタとちょっと違イマス。エネルギーとして吸ッタノデス。ゲプッ」
パリュはやっぱり油断ならないやつだ。
さて、戻らないとエリーが心配するかな。
「遅かったね。今度から、我慢しないようにね」
「分かった。今度は早めに行くよ」
エリーは全く、怪しんだりすることなく、純粋に用を足してきたと思っている。
彼女はこれでいいんだ。
このままでいて欲しいと思う。
汚いことなんて、何も知らず、太陽のように明るく笑っていて欲しい。
その為なら、僕はこの手がどんなに汚れようと構うものか。
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