第10話 クエスト談義

 僕がランクEでエリーがランクC。

 パーティーを組むとメンバーの平均ランクがパーティーのランクとして、計算される。

 だから、パーティーはDランクということになる。

 ランクDの討伐クエストがないか、探してみよう。


義姉ねえさんも探して。ランクDまでの討伐ね」

「分かったわ」


 さすがに二人で探すと早い。

 ランクの低い討伐クエスト自体が少ないのも理由の一つではあるんだけど。

 あったのは結局、四つだけだ。

 エリーの為にもなるし、一つ一つを説明した方がいいかな。

 説明してもエリーの場合、覚えているかが怪しいけどね。


「一つ目は盗賊団の壊滅。これは受けない」

「どうして?」


 僕もエリーの胸に抱かれているパリュも『は?』って顔をする。

 いや、聞くまでもなく、分かると思うんだが……。

 盗賊団だよ?

 団を名乗る以上、少なくとも十人はいるだろう。

 正直、少人数パーティーで挑むべきクエストではない。

 まぁ、僕が一人で乗り込んだら、どうにか出来そうではある。

 しかし、それは正しい冒険者の姿ではない。

 おやっさんからの教えだ。


「あのね、義姉ねえさん。これは敵が団。数が多い。危ない、以上」

「何とか、ならないの? 盗賊なのよ。悪即殴じゃないの?」

「何とか、なるようなクエストを受ける冒険者は早死にする。グーフォさんの言葉だよ。冒険者は勇者じゃないんだ」

「そう……残念ね」


 シュンとして、憂いを帯びた表情になったエリーを見たくはないがこればかりは譲れない。

 冒険は無理をしてはいけない。

 冒険者だから、もっと冒険をしよう。

 そんな考えではいけない。

 石橋を叩いて、渡るくらいの慎重さでいいのだ。

 そう教えてくれたグーフォさんが子供を守るという無理をして、亡くなったのは矛盾する訳だが……。

 男は時に無理をする生き物なんだろうか?


「二つ目は六階層のリザードマン討伐。これは保留だね」

「リザードマンなら、余裕でしょ。私でも片手で殺れるよ?」


 殺れるという物騒なことを言う聖女なんて、いないだろうって?

 いるんだよね、エリーみたいのがたまに。


「だから、保留なんだよ。まだ、二つあるからね。三つめはゴブリン討伐。これも辞めた方がいい」

「え? ゴブリンなら余裕じゃない。何でなの?」

「リザードマンは討伐の証拠が十点。だけど、ゴブリンは50点もいるんだ。面倒だからだよ」

「そういうことね。五十点も何を集めるの?」

「耳」


 そう言って、自分の耳たぶを触って見せると『ひっ』とエリーがやや怯える。

 リザードマンを殺るとか、言ってたのにね。

 首を五十集めるのよりはましだと思うんだ。

 重いし、物理的に無理だからね。


「最後のは五階層のキラーリーパー討伐。これもどうだろ」

「キラーリーパーって?」

「簡単な説明をすると動く樹木。樹のくせに歩き回って、おまけに好きな物は何だと思う?」

「樹なんでしょ? え? でも、動くのよね。まさか……」

「お肉大好き。生きたまま、ムシャムシャするのが好きらしいよ」


 キラーリーパーは樹木みたいな見た目で肉を好む雑食の捕食者。

 胴体にあたる幹部分から、枝が六~十本ほど伸びていて、それを鞭のように使って、攻撃したり、獲物を捕らえるのに使うんだが、その枝が下手な金属よりも堅い。

 それで力尽きた犠牲者を幹の上部にある牙が生えた口に放り込み、強力な酸で溶かして、文字通り吸収するのだ。

 食虫植物のようだが、樹木ぽいのは見た目だけでそういう種類の魔物らしい。


「あまり、旨味がある魔物でもないし、やめた方がいいと思う」

「そうよね、ムシャムシャされたくないし」

「消去法でリザードマンしか、ないかな」

「ファルコの方が冒険者としては慣れているんだし、任せるわ」

「分かった。それじゃ、これを申請してくる」


 リザードマン討伐のクエストを許可された僕たちはギルドを後にした。

 六階層まで行くだけなら、パリュに乗せてもらえば、今日中の到着が可能だろう。

 そうなるとダンジョンの中で夜を越さないといけなくなるかな。

 今日は冒険で必要となる物を買い揃えておく準備に当てた方が良さそうだ。


「買い物をしてから、帰ろう」

「え? 今日、行くんじゃないの?」

義姉ねえさん、無理は禁物。今日は準備。準備は大事なんだから」


 納得してないようだけど、納得せざるを得ないってとこかな。

 雑貨店などを回って、ロープに保存食と冒険に必須と言われる物を買っておく。

 これで準備は万全だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る