第8話 聖女は食欲の権化
「
「この際、おかゆだろうが、かゆうまだろうが何でも構わないわ」
かゆうまは食べ物じゃないと思うんだ。
まだ、寝ぼけているのかな。
エリーには良くあることだから、気にしないでいいか。
お粥を軽くよそって、食卓についたエリーに渡してあげると脇目も振らずに掻き込んでいく。
エリーの辞書に乙女の嗜みという文字はないらしい。
見た目は本当、どこからどう見ても聖女なんだけどなぁ。
蜂蜜のような色合いの金色の髪。
サファイアを思わせるきれいな瞳。
清楚な雰囲気を漂わせたエリーの姿は道を歩くだけで擦れ違った男たちがこぞって振り向くほどに魅力的なんだが……。
「焦らなくてもまだ、たくさんあるから」
食べるのに夢中で聞いちゃいないらしい。
食べ終わったのか、無言でお皿を差し出すエリーにちょっと呆れながらもよそってあげる。
「それでパリュ。君は何で料理を知ってる?」
「エー、何のことデショウ? 私、猫だから分カリマセーン」
顔を洗う振りを急に始めるパリュ。
今更、普通の猫であるアピールをしても既に遅いと思うんだ。
いくら猫とは違う高次元の生物だろうが、料理に詳しいのはあからさまに怪しい。
「君、今度は首と胴体で違う世界を見たい?」
「そ、それは困リマス」
ガタガタと震えだし、明らかに怯えすぎなくらいに怯えるパリュだが、それもしょうがないか。
僕に手足を切断されたんだから、そりゃ怖いか。
「エットですね、それはたまたま、私が吸し……教えてくれた人がいたんデスヨ。エエ、そうですトモ」
「へぇ、そうなんだ?」
目を細めて、睨みつけると目を逸らしたね。
まぁ、いいけど。
秘密にしておきたいことって、誰しもあるものだろう。
「ふぅ、少しは回復したわ」
「まだ、お粥はあるけどいいの?」
「もっとボリュームあるのが食べたいのよね。肉とか、肉とか、肉はないの?」
「吐いたのに平気?」
「うん、平気だよ? 肉焼いて。それから、ファルコ。その恰好、駄目よ。ちゃんと着替えて」
「えー? 駄目?」
「駄目ったら、駄目」
「どうしても駄目?」
「駄目! その恰好で外出るなんて、絶対の絶対に駄目だからね」
「分かった。着替えてくるから、ちょっと待ってて」
ここまでエリーに言われたら、しょうがないか。
僕は諦めて、適当に着替える物を見繕いに部屋に戻ることにした。
「まともなのがないから、これでいいか」
ビリビリに破れている皮のパンツを脱ぎ、真っ黒なホットパンツを履く。
太股が剥き出しになっているが別にいいだろう。
僕は気にしない、この方が動きやすいのだ。
軽く、ロ―キックとハイキックを繰り出してみる。
問題ない。
格闘をするにはパンツルックだね。
問題は上着だなぁ。
既にボロキレのような上着を脱ぎ捨て、何を着るかで迷ってしまう。
とりあえず、さらしは巻いておかないとまずいことだけは分かる。
何より、そうしないとエリーの頭に角が生えるのは確定なのだ。
「これでいいや」
袖が無く、動きやすそうなデザインで、なるべく着てないようなのを探す。
残念なことに黒いタンクトップしかなかった。
これでいっか。
上も下も黒。
別にお洒落をする必要はないのだ。
お洒落するつもりなんて、これっぽちもなかったし、いっか。
太股と肩から二の腕まで全部見えている格好で居間に戻った。
案の定、エリーが半目で睨みを利かせてくる。
「着替えたよ? これで問題ない」
「そんなに肌出てたら、問題なのよ。ファルコ、お姉ちゃんは心配してるの。あなた、いつもは顔をヘルメットで隠していたでしょ? それって気付かれていなかっただけ! その顔でその恰好は危ないの。分かって」
僕は天使みたいなエリーの方がよっぽど危ないと思うけどなぁ。
「大丈夫。排除は簡単」
「ファルコ、排除は駄目だからね。今のあなたがやると冗談で済まなくなるでしょ」
「分かった。とりあえず、肉を焼く」
「うん、お願い」
保冷庫にまだ、何枚か残っていた肉らしきものをとりあえず、焼く。
塩と胡椒のみで味付けをしたが、素材を生かすも何も肉らしきものだから、大丈夫だろうか?
だが、ソースの材料に出来そうなものがないから、しょうがない。
エリーは何の疑問も抱かず、パクパクと口に放り込んで『美味しい。やっぱり、肉よね、肉』と満足しているようだ。
いいということにしておこう。
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