第一話:好きであるという事
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◆1.誕生日と年齢を教えて下さい。
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「えっと。五月五日生まれの十六歳っと」
まずはよくありそうな無難な質問。
自分で何かを確認するように口にしながら、雅騎がそれをさらさらと回答欄に書き起こす。
「もうそんなになったんだっけ?」
「当たり前だろ。高校入ったからバイトできるようになったんじゃないか」
他人とはいえ。ある意味家族と同じ位に身近な相手のありえない言葉に。雅騎が思わず呆れた顔を向ける。
だが。
「そりゃそうだけど。以前から何だかんだ言って手伝いに来てくれたし、実感が無いのよ」
彼女はそう言って、優しく微笑んだ。
彼は中学時代も休みとなれば
勿論バイト料など出せば、彼が学校に怒られてしまう。
その為、知人の手伝いと称してフェルミナは彼を止むなく受け入れていたが。内心、当時から献身的に力になろうとする彼の優しさを見ては、嬉しく思ったものだ。
彼女のそんな心を知らない雅騎ではあったが。言葉と表情から、褒められたと察したのか。
「そりゃ、フェル
少し困ったような顔で照れを隠し、頬を掻く。
「フフッ。そういう優しいわよねぇ」
彼を茶化すようなフェルミナの追い打ちに。
「うるさいなぁ。もう……」
何処かうざったげに、雅騎はちょっと膨れっ面を見せた。
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◆2.自分ではどんな性格だと思いますか?
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「う~ん……。そう言われてもなぁ……」
次の質問に、早くも雅騎は頭を捻る。
正直な所、あまりそんな事を考えたり、分析した事などない。
だからこそ、良い言葉が浮かばず悩む雅騎に。
「明るく、優しく、元気ではあるわよね?」
フェルミナは何とも適当な言葉を返す。
「何、その小学生ばりの説明は……」
「あら。あながち間違ってないわよ?」
フェルミナはまるで当たり前と言わんばかりに、納得させようとする言葉を口にするが、雅騎はどうにも納得がいかない。
「そうかなぁ?」
「そうよ。後、誰にでも優しいわよね?」
またも首を捻る彼を見て、フェルミナは更に、そんな言葉を付け足した。
「そんな事ないって」
これに関しては自信があるのか。はっきりと否定をする雅騎だったが。
それはあくまで、自分目線でしかない。
「こないだの子、佳穂ちゃんだっけ? あの子も『速水君には、何時も優しくしてもらってるんです』、なーんて話してくれたわよ?」
「何その物真似……って。綾摩さんが?」
最初は下手な物真似が気になった彼だったが。
ふとその言葉に出てきた佳穂の名前にはっとする。
「ええ。こないだご馳走したのをわざわざお礼言いに来てくれてね」
そう言いながら見せる、フェルミナの悪戯っぽい笑みに。
「はぁ……。マジかよ……」
雅騎は露骨に、大きなため息を漏らす。
「あら、どうしたの? ため息なんか
「別に……」
笑みを崩さず視線を向けたままの彼女に、思わず視線を逸らすと、片手で頬杖を突き。
──そういうのはフェル
心で、いじられるネタを与えてしまった佳穂に、ちょっとだけ苦言を呈していた。
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◆3.好きなものを教えてください。
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「好きなもの、か……」
世間一般的によくある質問。
だが、実は最も広義で、答えが定まりにくい質問でもある。
視線を上に向け、顎に手を当て思案する雅騎に。
「そういえば。最近、中国茶に
フェルミナがそんな助け舟を出すと、思わず彼も納得する。
「ああ、確かに。プーアル茶とかジャスミン茶とか。香りよくてあっさりしてるから好きなんだよね」
「他に趣味とかで好きなものはないの?」
「一応ゲームは結構好きかな。ゲームセンターにも顔出すし、家でも遊んでるし。その辺にしとこうかな」
そう言って、紙にそれを書き込むと、次の質問に目をやった。
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◆4.嫌いなものを教えてください。
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「まあ、だよね」
「定番よね」
思わず二人は顔を見合わせると、苦笑する。
好きがあれば、嫌いがある。
ある意味世の常だろう。
「お酢使ってるやつは苦手なんだよなぁ」
「確かに酢の物とかダメよね」
「味もそうだけど、鼻に付くあの臭いが苦手なんだよね……」
これに関してはっきりとした答えを持っていた雅騎は、その食べ物を思い出し、露骨に嫌な顔をし、眉間に皺を寄せる。
それが滑稽だったのか。
「そういう所は、やっぱりお子様よねぇ」
フェルミナは思わずくすっと笑い。
「そうやってすぐ子供扱いするの止めてくれよ。まったく……」
またも雅騎は不機嫌そうな顔をした。
そして、次の質問に目をやったのだが……。
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◆5.好きな人はいますか?
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この質問に、思わず雅騎の表情が曇り。フェルミナもしまったと、申し訳無さそうな顔をする。
彼女はこのアンケートを受け取った時、それほど質問内容は気にしておらず、中身まで読んではいなかったのだ。
後で読んで、問題があれば断ればよいだけの話だったのだから。
だが。忙しい中で受け取ったのもあったが。それでも彼女は自身の思慮の浅はかさを後悔した。
こんな質問があったのなら、雅騎に見せることも、やらせることもしなかったのだから。
「……」
「……この質問は、飛ばそっか?」
気落ちする雅騎に気を遣い、彼女がそう声を掛けるも。
彼は弱々し笑みを浮かべ、首を振った。
「いた、って、書いておけば、いいかな?」
「そうね……。でも、この辺にしときましょ」
心配そうに、そっと雅騎の肩に手を当てるフェルミナに。
「ごめん……」
心配させまいと、雅騎は無理矢理笑ってみせると。
「次、いくね」
痛々しい空元気ばかり目立つ笑顔を見せ、次の質問に目をやった。
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