終結
【憤武王】の最愛の王妃が、宮殿の庭で坊主と楽しげに話をしていたそうだ。それを知った王は怒り、姦通のかどで坊主を追放しようとした。そうして街を引かれていく坊主が市場を通りがかったとき、店先のある魚が、死んでいるにもかかわらず、笑ったというのだ。
不気味に思った王は追放刑を取りやめとした。
理由を調べさせたが、何もわからない。
目下、調査中とのことだ。
それを解けと言われた。そう簡単に解けるとは思わない。
「何か思いついたことはありますか?」
おかしな前提に基づいて想像するのだ。何を言っても正しくない可能性はある。
「市場の魚が笑うというのは、市場の噂話に関係があるんじゃないか。皆が話すから、死魚までもそれを知っていて、その上で坊主を見たら可笑しかった、だとか」
人々の噂話というのは王族やら貴人の耳には入らないものだ。
それを探るため国内に密偵を放つこともあるというが、どうだろう。
とりあえず件の魚屋に行くか。
王族である【光滴】は置いて一人で聞き込む。
「坊主が追い出された件? ああ、お兄さん知らないのかい! 王のための後宮にはこっそりと男が出入りして好き放題やってんだよ! 食事を運ぶとか、ものを届けるという口実でね。中には女装して何食わぬ顔で居座っている奴もいるねえ。それを放っておいて話しただけの坊主を追い出すなんて笑える話だよ! 魚さんも聞いてたのかね」
思ったより早く有益そうな情報が得られた。正解かどうかはわからないが、王にとって得るべき情報ではあるだろう。
宮殿に戻り、王に告げるかどうか悩んでいると、呼び出しを受けた。
「見張りのものから聞いたぞ。謎を明らかにしたとな。実に貴重な話だ。今後は国内にも密偵を放たねばならぬな」
すでに報告が行っていたらしい。
「では、私と彼との結婚は認められるわけですね」
順調に逃げ道を埋められていく。
「うむ! 幸せにな!」
旅立つ時と比べて、今や嫌だとは感じられないようになっていた。
帰った俺を待っていたのは、身ごもってお腹を大きくした【雫有】だった。【光滴】の言葉が思い出される。【雫有】が妊娠して九ヶ月経った時、腹を割いて胎児を取り出してください。
そんな恐ろしいことをせねばならないというのか。
思い悩んでいると、【雫有】から、部屋に来るように言われた。
「知ってるわ。【光滴】が、私のお腹を切り裂くように言うんでしょう」
「そう、そうなんだ! そんなこと、俺に」
「できない。そうだろうと思ったから、私がやったわ」
「え?」
なんだって?
【雫有】が服をたくし上げると、下腹が血まみれになっていた。長く深い切り傷が入っている。
「なんで……」
「いいから。私たちが半神なのは知っているでしょう。この中にいるのは赤ん坊じゃない。いいから手を突っ込みなさい」
覚悟を決め、言われた通りに手を突っ込んだ。【雫有】が呻き声をあげる。
中に短い棒状のものがあった。握って引き出した。
「剣の、柄」
不思議にも、引き出すほど刃が生じて伸びていくようだった。最終的に、どう考えても腹の中に入っていたとは思えないような剣が手に握られた。
それより、【雫有】は大丈夫か。大丈夫ではないだろう。
見ると、体が輝き、傷がふさがりつつあった。
「ありがとう。これで私は思い出した。黄金城のことを。待ってるから、来てね」
彼女を燃え盛る炎のような輝きが包む。光の粒を残して、消えて行った。
「無事、成功したようですね」
いつのまにか【光滴】が戸のところに立っていた。
「ご自分の体も見てみなさいな」
気づいていなかったが、俺の体も光っていた。
このままだと夜寝るときとか困らない?
そう言うと【光滴】は苦笑した。
「面白い人ですね。そのうち自分で引っ込められるようになりますよ。それじゃ、行きましょうか」
「行くって、どこへ」
「黄金城ですよ、もちろん。三人待たせているでしょう。今のあなたは空を飛べますから。案内は私がしましょう」
そうして、以前は非常に苦労して行った黄金城まで飛んで行った。
「やあ! 待っていたよ」「遅い到着ですこと」「さっきぶりね」
「あなたのおかげで四人で一人の完全な体になることができます。そうしたら一緒に豊かに暮らしましょう」
「えっ一人になるの」
「えっ」
内心で四人とやっていく覚悟を固めていただけに、ちょっとした衝撃だった。
「ははっ! 実を言うと私たちが一人にならないってこともできるけどね?」
「お姉さま!?」
【月光】さんが提案するが、三人の反応からすると何やら気軽な話ではないようだ。
「そうすれば私たちは
「私も構わないわ! 私だけが四人で一番に愛されるのを目指すっていうのも素敵そうだもの」
「そうとも限りませんね。私などは【雫有】よりよほど素直ですから。最初は怖がられたようですけど」
……本当にやっていけるだろうか。やや不安になってきた。
「じゃあ私たち四人と君とで暮らす! それでいいんじゃないか?」
それでいいのだろう。少なくとも、好意を抱く四人のうち三人が消えてしまうよりもずっといいと感じた。皆も嬉しそうであることだ。
「じゃあ」
「【施しの王】の街へ帰ろう」
——それから、王に領地を与えられ、四人と仲良く、時に騒がしく、幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
黄金城を求めて 〜インド昔話翻案 猿渡めお @salutaris
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