能力

 半神族は明呪ヴィディヤーという超能力を備えているらしい。【月光】さんは「水に詳しくてね」だそうだ。そしてこの超能力は女の人の形をとる。見せようと思わない限り半神以外には見えないそうだ。俺に「一部を預ける」ことで見せてくれたが、その貴婦人の顔を認識しようとするとどうしてもうまくいかないのだった。【月光】さん曰く「そういうもの」らしい。


 そして【黄金の月】姫は実は彼女と一体だったという。だから二人を愛しても一人を愛したことになるという理屈だった。さらに詳しく言おうとしたが、侍従に止められていた。


「これじゃ超能力との関係の話まで行かないじゃないか! どうするんだよ」


「ご主人様、それはまだ話せませんので」


 結局、しばらくはわからないようだ。

 数日間その宮殿でくつろぎ、長旅の疲れを和らげた。


「愛しい人、残念だが向こう二、三日私は侍従とともに実家へ行くのでここに一人で残ってくれ」


 そうしているうちに【月光】さんが言い出した。特に断る理由もない。


「ここにあるものは自由にしていい。ただし、屋上にだけは絶対に立ち入ってはいけないからね」


 留守番の一日目は、特に不自由することなく楽しく過ごした。

 二日目になると、立ち入るなと言われた屋上がどうしても気になり出した。

 実に、禁じられたことほど人は行いたくなるものだ。


 宮殿の中央から上に登る。宝飾を凝らした部屋が三つあった。一つの扉が開いている。その中へと入る。中央には宝石付きの寝椅子があった。綿の布の下に、誰かが寝ているようだった。こっそりめくって見てみた。


 【施しの王】の娘【黄金の月】姫が横たわっていた。異様なのは、冷たく、息をしておらず、心臓が動いていないことだった。

 彼女は、死んでいた。


 他の部屋に入ってみると、同じように他の娘が死んで横たわっていた。

 それから放心したような状態で宮殿の池を眺めに行った。

 ほとりに立派な馬がいた。興味を惹かれて乗ろうとすると、蹴られて池に落ちてしまった。


 池から上がると、見えたのは黄金の宮殿ではなかった。

 そこは、見慣れた出発点、【施しの王】の宮の中だった。

 池から上がった自分に一瞬驚いた近衛兵がすぐに我に返って武器を向けた。


「こいつは国外追放となったペテン師ではないか」「都城内どころか宮殿にいたとは」「処刑は免れんぞ」


 混乱しているうちに危機が迫っているようだ。どうすればいい。


「騒がしゅうございますね」


 久しぶりに聞く声がした。忘れもしない、【黄金の月】姫の声だ。


「姫さま! 黄金城を見ました! 私は黄金城に行きました!」


 目の前に現れた王女に向かい、がむしゃらに叫び声をあげる。


「見苦しいものですね。一度嘘を見破られたのにまだ諦めないとは」


「黄金城には姫さまの死体があります! あれは何ですか!?」


 王女の表情が凍りついた。どうなる。悪い方に転んでも死ぬことには変わりないだろう。


「お連れしなさい。その者は黄金城を見ています。王前に」


「姫様!?」


 そうして王の前に連れていかれた。【黄金の月】姫が口を開く。


「どこまで聞いているかわかりませんが……あれを見られたならもはやここにはいられませんね。父上、この方は間違いなく私の夫となる方です。しかし今ではない。……明呪ヴィディヤー!」


 王女が叫ぶと、傍に曖昧な輪郭の貴婦人が現れる。今度は見える。そして風が

吹き荒れる中、彼女は浮かび上がる。

 そして【黄金の月】姫は、窓から外に出て、空を飛んで消えて行く。


「ねえ、あなた。黄金城で待っています。必ず会いに、来てくださいね」


 優しい声が、俺の耳元で囁かれたかのように、聞こえた。

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