追放

 俺は不機嫌だった。

 博打で財産を残らず擦ってしまった。

 以前は遊郭でヒモなんぞやっていたが、もうどの娘にも愛想つかされている。

 父親の家にも今さら戻れはしない。


 そんな時、太鼓の音が聞こえた。近頃うるさいのだ。一体何の騒ぎなのか。


「黄金城という都城を見たものはあるか! 高い地位と姫とをやろうと国王陛下は仰せだ!」


 噂の黄金城とやらの話だ。そんなもの聞いたこともない。黄金城を見た男を姫様がお望みらしいが、それは遠回しに結婚を拒否しているんじゃないのか。

 と、ここで目の覚めるようなことを閃いた。

 布告する王の家来の前に出る。


「はいはい! 私が見ました! 黄金城を見ました!!」


 むろん、見たことなどない。誰も見たことがないのだろう。ということは、嘘をついてもバレることはない。成功すれば貴族位と姫、疑われはしても刑罰など受けまい。嘘をついたとバレることはないのだ。


「国王陛下! 連れて参りました!!」


 王の面前に通される。貴族の前に出たことなどない。王など雲の上の存在だ。しかしハッタリは張りなれている。


「ふむ。本当に見たと言うのだな。では姫を呼んで私は下がろう」


 なんとか、この関門も突破した。あとは姫をなんとかするだけだ。姫はでっち上げた黄金城を見たと言う者が来て面食らうことだろう。俺の方が心理戦には慣れている。王よりはよほど勝ち目のある相手だ。


「あなたが黄金城を見たという方ですか。どういう経緯でそれを見たのですか? どういう光景でしたか?」


 微笑んで【黄金の月】姫が尋ねる。想定質問だ。


「私が学を志し、諸方を遍歴していたときのことです。まず南の町に行きました。それから聖都に旅をし、そこから何日かかけて【砂糖黍の国】というところに着きました。そこから東へ行くと、黄金城がありました。善行を積む人はこういう享楽を得るのか、というような楽しみに満ち溢れた都城でした。神々の目は瞬きをしないと言いますが、その目を楽しませる神の街とはおそらくあのような場所なのでしょう。そこで学問を身につけて私は帰ってきたのです」


 我ながらすらすらと出るものだ。叩けば埃が出るところは沢山あるが、意外とそういう話の方が引っ掛けやすいのだ。


「素晴らしい! あなたは本当にその都を見たのですね。どのような道を通ったか、もう一度言ってください」


 信じた風だが、おそらくまだ疑ってる。でまかせなら二度同じことは言えないと思っているのだろう。俺はさっきと同じ内容を述べた。姫様は手を叩く。侍従を集める合図だ。


「お前たち! この者をつまみ出せ」


 想像したよりもあっさりと嘘がバレた。どこが怪しかったのか。

 まさか、姫は本当に黄金城を知っているというのか。


「娘よ、そういう嘘つきは国外追放にするのが良いだろう。どこでまた悪さをするともしれん」


「そうですわね」


 王が出てきて言う。これはまずい。


「お、お待ちください! 証拠もなしに国外追放などと」


「証拠が必要なのは黄金城を見たと主張する側でしょう。それを用意できない時点であなたは嘘つきなのです」


 姫は冷淡だった。

 こうして俺は、国外追放の憂き目に遭うのだった。

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