黄金城を求めて 〜インド昔話翻案
猿渡めお
プロローグ
今でいうインド共和国西ベンガル州バルドマーンの辺りでのお話です。
昔むかし、「施しの王」という王様がおりました。民に多大な恩恵をもたらすのは、乾燥した大地に雨を降らせる雲のようです。さて、雲には稲妻がつきものなように、この王様には稲妻のような鮮やかな容姿のお妃様がおりました。その名を「黄金の輝き」といいます。稲妻のように鮮やかな容姿ですが、稲妻のように移り気ではありませんでした。
王夫妻に娘が生まれます。その綺麗なことと言ったら、美の神の自信をくじくため創造神が手ずから創ったかのようでした。お姫様はすくすくと育ち、人々の目をお月様のように喜ばせるのでした。そこで王様は「黄金の月」と名付けました。
そんな彼女も父母のもとを巣立つべき年齢にまで育ちます。
王様はお妃様と二人きりのとき、相談を持ちかけました。
「黄金の月の姫に似合う結婚相手を、どう見繕えばいいだろう。ふさわしくない相手に嫁げば、誰にとっても不幸せだ。それが私は心配なのだよ」
お妃様は答えます。
「あなたはそう言うけれど、娘は結婚を望んでいませんよ。今日もおままごとをしているのを見て、いつ結婚するか聞いてみたの。でも、そんなこと言わないで、私は結婚なんかしない、しない理由があるんだ、って」
王は大変な衝撃を受けます。娘が結婚を望まないとは! 娘のもとに行き、尋ねました。
「神々の娘でさえも、夫を得ようとするのだ。そのためにたいへんな努力をする神話だってあるだろう。お前は嫌なのか」
お姫様は、いやです、と答えました。今までそうだったのですが、子供らしくない、いやに落ち着いた雰囲気です。
「何か、理由があるのか」
「もしどうしても結婚してほしいというのなら、黄金城という都を見た人を連れてきてください。その人こそ私の夫にふさわしいのです。連れてこなければ、父上の非難は埠頭です」
お姫様は理由を教えてくれませんでした。しかし、条件をつけて結婚を認めました。王様は、ともかくも結婚を絶対にいやだと思っている訳ではないなら、と思い、引き下がります。
「黄金城とは聞いたことがない。若くしてこんなことをどこで知ったのやら。もしかすると、女神様や何やの化身なのかもしれない」
王様は翌日、会議の場で大臣や側近たちに聞きます。
「お前たち、黄金城という都を知っているか。それを見たものには姫を嫁にやろう。高い地位もだ」
皆は顔を見合わせます。そんな都は誰も聞いたことすらありません。まして誰が見たことがありましょうか。誰も都のことを知らないようなので、王様は近衛の者たちを呼び、命令しました。
「黄金城という都を見たことがあるか、布告して呼び掛けよ。太鼓を鳴らして周知させよ」
そうしてあちこちで太鼓が鳴らされ、黄金城を見た人を探している、とおふれが出ました。
「今言われた、黄金城とはどういう街なのだろう」「知らない」「我々は長生きしたが、聞いたこともない」「知らない」
街の人々は語り合いますが、「私が見た」という人は誰もいないのでした。
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