第4章 心の在処 ⑥
――なるほど? 昨夜も襲撃者の正体が死人とわかって驚いたが、何度でも蘇るってわけだ。
小鳥遊清花も不気味だが、佐木柊真がコピー能力というなかなか面倒な相手だと言うのはカズマくんもわかっている。加えて死人という不気味なステータスまで持っている。恐らくカズマくんはシオリを兼定氏のガードに残し、自ら出陣したのだろう。
俺に助けを求めたのは、きっと奴が俺の能力をコピーした印象が強いせいだ。
奴は俺が出向かなければ俺の異能はコピーできないはず。その場にいない対象の異能まで使えるなら、奴が俺から逃げようとしたときわざわざ夏姫の
それに弱点もある。今の奴ならカズマくんでも畳める相手だと思うが――
おっちゃんは昨夜の佐木柊真――その死体処理に関わっていないのだろう。関わっていたのなら相手の風貌、そしてカズマくんの剣幕で察しがつくはずだ。
まあ、いい。どのみち小鳥遊清花をこのままのさばらせておくつもりはない。いつ夏姫に連中の目が向くかわかったもんじゃないからな。
だとすれば襲撃者が本当に佐木柊真であるのかを確認しておきたい。
「――で、現場はどこだって?」
『へい。お嬢の事務所の近くです』
「ふぅん。あの辺はもう
『助かります』
おっちゃんの返事を聞いて通話を終える。スマホをテーブルに置くと、それで通話が終わったと察したらしい夏姫がキッチンから尋ねてくる。
「丹村さん、なんだってー?」
「カズマくんの伝言で、佐木柊真が現われたから助けてくれってさ」
「え――」
俺の言葉に驚いた夏姫が振り返る。
「だって、佐木柊真は昨日あっくんが……それに、死体処理だって――」
したはずなのに、と夏姫が続ける。
「それを言い出したら、そもそも二年前に死んでるはずなんだよな――どのみち小鳥遊清花にはこの街から手を引いてもらう必要があるしね。事務所の近くだって言うから、ちょっと行ってくるよ」
夏姫にそう告げて俺は自室に向かう。一応ホルスターやそれにしまう銃、ナイフやグローブを持っていくためだ。
部屋に入ってチェストからそれらを取り出していると、料理を中断した夏姫が部屋に飛び込んでくる。
「ちょ――ちょっと待ってよ!」
「ん?」
バックサイドホルスターを装備しながら問い返すと、
「そんなコンビニ行ってくる、みたいなノリで――」
「俺にとってはこういうの、普通の人のそれみたいなことなんだろうなって気付いたんだよ」
ナイフを吊るし、グローブをポケットへ――グロックをホルスターにねじ込んで、夏姫の手を取る。
「だからまあ、慣れて」
「……あっくん、変わった?」
「夏姫ちゃんに嫌われないように、せめて正直であろうと思ってね」
開き直っただけとも言うが。
「夏姫ちゃん――佐木柊真は元々死人だ。多分また殺す。でも、小鳥遊清花はなるべく殺さないで済むようにするから」
「大丈夫? その、死人が相手なんて――……」
不安そうに夏姫が言う。俺はそんな彼女の頭に手を置いた。
「信じがたいけど――俺の結論は『小鳥遊清花の異能』だ。そうでなければ死人が蘇るなんて有り得ない」
逆に、それ以外で死人が蘇り活動をしている理由が説明できない。
死人を生き返らせる能力なんて聞いたことがない。そんな異能があるなら金は稼ぎ放題だし、噂ぐらいにはなるはずだ。だがそんな話は聞いたことがない。
しかし――銃創の男はともかく、小鳥遊清花にはその可能性がある。小鳥遊清花は少なくとも二年前までは表社会の人間で、そして警察や公安でも奴の異能は掴んでいない。
そしてもし本当に死人を蘇らせる異能が存在するのなら、似たような能力が他にもある可能性がある。そして小鳥遊清花のように、表社会でも裏社会でも目立たずに潜伏している可能性も。
「でも、怖いのはその小鳥遊清花が何度でも佐木柊真を生き返らせるだろうってことだけ。心配はいらないから、夏姫ちゃんは夕飯作って待っててよ」
「……今日も勝てる?」
「楽勝だって。昨日も言ったでしょ。夏姫ちゃんの言う通り殺さずとも別の手段を模索しても良かったかもって――あの時は奴は体現者で、まして死人だとは思ってなかったから――でも奴は体現者じゃない。それがわかった以上、脅威は――ないとは言わないけどさ」
大したものじゃない、制御できる――そう締めくくると、夏姫は頷いた。
「わかった。夕飯、ハンバーグだから」
ああ、そりゃ空気抜きしてたら手が離せないわな。
夏姫が、少し不安げに――それでも笑顔で。
「無事に帰ってきてね?」
「なるはやでな」
俺はそう言って夏姫を軽めにハグし、そして部屋を後にした。
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