第2章 少年と少女 ⑤
「どうやって俺を捕捉した?」
「それはこの街に《
「違う。どうやって今日俺を尾けたか――いや、もう面倒だから最初から吐け」
「アタルくんて見かけによらず王様系だね? まあいいや――んとね、数年前に《
「ああ? そんな前からか」
「まぁね。で、それからしばらく《
「――で?」
「八代宗麟の件の後、君にコンタクトを取ろうとして君がU市から去ったことを知ったの。慌ててその後を調査して――G県の組織との抗争で公安の介入があったんだね。そのことで日本を去ったことを知ったわけ。それから私は天龍寺夏姫の動きにアンテナを張ってたの。で、君と同じように動向が掴めなくなって――天龍寺夏姫を張ってて正解だったなって。案の定しばらくして天龍寺夏姫が戻ってきたら君も一緒についてきた。今日君を捕捉したのは単純だよ、朝から天龍寺夏姫のマンションを張ってただけ。向かう先から天龍寺家に向かってるのはわかったから、接触するなら天龍寺家を出たあとかなってね」
――くそ、部屋を出たときから尾けられてたのか。俺も大概間抜けだ。
「私からも聞いていいかな?」
説明を終えた小鳥遊清花が尋ねてくる。
「ソフトクリーム代くらいは答えてやる」
「太っ腹ぁ――さっき、私のお尻を優しく撫でてくれるって」
「そんなことは言ってねえよ」
「おっと、うっかり――私のケツを拭くってのは、それってT市の件? もしかして、また公安と――
「……あいつの名前まで抑えてんのか」
「当然。私は小鳥遊清花――見た目は美少女、中身も美少女、名探偵清花さんなのだぜ」
小鳥遊清花はそう言うと、巫山戯てよくわからないポーズを取る。
「ノーコメントだ」
「オッケイ。その反応だけで十分です」
そして、小鳥遊清花は表情を引き締め――
「――公安を信じちゃ駄目。警察も――あいつらは一般人をないがしろにする」
「そうか? 連中ほど
かの
しかし、小鳥遊清花は――
「連中はその為に異能犯罪者を見逃すことがあるよね。だから異能犯罪がなくならない。そのしわ寄せがいくのは――わかるよね?」
「――てめえが公僕を嫌ってるのは良くわかった。それは佐木柊真の件の私怨じゃないと言い切れるか?」
その問いに、小鳥遊清花は答えなかった。代わりに――
「目的はT市の異能犯罪者の撲滅。一緒でしょ? だったら公安じゃなくて私と手を組もうよ」
「あんたに公安が俺に用意する報酬と同等のそれが用立てできるなら考えてもいいけどな」
「私のわがままボディが今! 君のものに――」
「話にならねえな」
一刀両断。小鳥遊清花はわざとらしく驚愕したかのような表情で、
「私のわがままボディで釣れない……だと……?」
「お前、実は面白い奴か?」
「ふっふっふ――その私が今ならなんとプライスレス!」
無視――すると小鳥遊清花はわざとらしく『探偵っぽい』ポーズを取り、
「むむむ。これでも駄目――公安は君にとって相当価値のある報酬を用意したんだね? たとえば――そう」
小鳥遊清花の目がすうっと細くなる。
「君が持っていないはずの戸籍、とか」
「……てめえ」
ぎろりと睨む。小鳥遊清花は俺を挑発するように怖がって、
「アタリかな? フゥー、冴え渡るこの頭脳が我ながら怖ろしい……」
「どうやって知った?」
「推理推理。名探偵清花さんの『必殺! お色気悩殺推理』に暴けないものは――……」
小鳥遊清花の語勢が弱くなる。俺が、奴を睨む視線に本気の殺気を込めたからだ。
「こっわ……それ本気? 脅し?」
「てめえのやってる異能犯罪者狩り――てめえがここにいるってことは、俺の件だけじゃなくいよいよU市に手をつけようってんだろ? 《スカム》の面子に手出しして見ろ、そしたら俺が本気かどうかわかると思うぜ」
「そっかそっか。私としてはアタルくんと敵対したくなかったんだけどな――」
一貫して戯けていた小鳥遊清花が、俺の視線を真っ向から受け止めて。
「《スカム》なんて――異能犯罪組織なんて一般人にとって害悪でしかない。潰すよ」
「その思想のせいで、T市で公僕や一般人がどれだけ死んだか知ってるか?」
「知ってるよ――それを償うためにも、私は日本から異能犯罪組織を排除する」
視線が交錯する。ビー玉のような美しい榛色の瞳に俺が映っている。それができるかできないかは別の話だが、どうやら小鳥遊清花は本気らしい。
不意に小鳥遊清花は視線を外し――
「残念だけど、次に会う時は敵同士、かも」
「かもな。てめえが引けばそうはならないけどな」
「それはない、かな」
そう言って小鳥遊清花は立ち上がり、ビッグスクーターへと向かって行く。
「おい」
その背に声をかける。小鳥遊清花は肩越しに振り返った。
「なに?」
「本当に一人でそんなこと、できると思ってるのか?」
尋ねると、小鳥遊清花は先と同じように自分の胸を指し示し、
「私は一人――一人だけど、一人じゃない。彼がここにいる」
それだけ言って、小鳥遊清花はヘルメットを被り、そのまま立ち去った。
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