第5章 激戦 ⑫

 ベアトリーチェに作ってもらった酸素ボトルを携えた俺とマックスは、再びヴィンセントたちと相見えるべく銃撃戦の現場へと向かっていた。


「――酸素ボトルが起爆させたら、俺が《セントルイスの悪夢》を殺って、兄弟がヴィンセントを殺るってことでいいんだよな?」


「ああ」


 二人で先を急ぎながら簡単に打ち合わせをする。


「何度も訊くと疑ってるようで気が悪ぃんだけどよ――兄弟、本当に《殺せない男アンキラブル》を殺れるのか?」


「やれるさ。ビーチェの手を借りてようやく目処が立った《セントルイスの悪夢》よりよっぽど楽な相手だよ。邪魔が入らなければジャレドや、もしかしたらフェルナンドより楽かもな。そんなことより取り巻きをどう捌くかだ。さすがにまたヴィンセントが先頭で出てくるとは思えない」


 再び俺たちがくるなら策を講じてくる――ヴィンセントもそれくらいのことは考えるはず。今度も部下たちを退かせるとは限らない――


 考えてるうちに、もう何ブロックか向こうでは銃撃戦をしている――そんなところまで来てしまった。


 物陰に隠れて先を覗う。戦場はここだけじゃないだろうが、大勢の男たちが通りの向こうと銃撃戦を繰り返しているように見える。アドリアーノたちが頑張っているのだろう。


「――どうする? 上から行くか? それともこのまま行くか?」


「このまま行こう。もしかしたらヴィンセントが負傷した部下を回復するために衛生兵メディックをしてるかも知れない」


「ボス自らか?」


「案外奴らの手かも知れないぜ? さっきのコウモリ男から考えれば、即死でさえなければ秒で治せるみたいだし」


「――なるほど、兵士を死なせねえってのはいい上官だ」


「……あんたも指揮下に入ったらどうだ? 元海兵隊だ、敬礼は得意だろ?」


「あいつに払う敬意はねえな――行くぜ兄弟」


 マックスがスーパーブラックホークリボルバーを抜いて言う。俺はそれに頷いて――二人同時に通りに飛び出した。ビルとビルの間――狭い路地を駆け、一ブロック、二ブロック――奴らは銃撃戦の轟音で俺たちに気付いていない。


 走りながらマックスが連中の背中に発砲した。眉をしかめたくなるほどの銃声が響き、《グローツラング》のメンバー――その一人が肩あたりから血飛沫を上げて吹っ飛んでいく。


「オラァ! 《暴れん坊ランページ》マックス様の登場だ! 死にてえ奴からかかってこい!」


 続けてもう一発。別の男が血飛沫を上げ、倒れる。


「……考えて撃てよ、.44マグナム弾だぞ。貫通した弾が《モンティ家》の連中に当たったら笑えない」


「わぁってるよ、素人じゃねえ!」


 言い返してくるマックス。そして、


「――《暴れん坊ランページ》だ!」


「《色メガネフォーアイズ》もいるぞ!」


 連中の後方――俺たち側にいた連中が振り返る。その内何人かは短機関銃を持っていた。拳銃はまだいい、短機関銃は厄介だ――そいつらを優先的に無力化すべく、腕、あるいは手を狙ってグロックの引き金を絞る。


「ぎゃっ――」


「ぐっ――」


 悲鳴がいくつか響く。これでこちらに向いた短機関銃は無力化したが――


「――!」


 駆ける先に地面に手を置く男が見えた。


「――マックス!」


「おう!」


 危険を予感した俺は短く叫び、地面を蹴る。マックスも同様――俺は右側、マックスは左側のビルの壁面を駆けると、伝導体でも仕込んでいたのか細い路地の地面に絨毯を敷いたかのように紫電が走った。


「ニンジャ――」


「――じゃなくてもできるだろ、この程度!」


 壁走りで避けられるとは思っていなかったのだろう、呆然と俺とマックスを見る発電能力者エレクトロキネシストの肩口に発砲、着弾。発電能力者エレクトロキネシストは肩を押さえて蹲る。


 だいぶ近づいた。集団を見回して――


 こちらを睨みつけるヴィンセントと目が合った。


「――《色メガネフォーアイズ》!!」


「第二ラウンドだ、《殺せない男アンキラブル》!」




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