第4章 ギャングとカルテル ②

「さすがにちょっと緊張してきたぜ」


 ハンドルを握るマックスが呟く。そろそろ地区の中心部だ。地区の外縁が海岸の北区・東区と違い、西区と南区は地区の中央が最も濃い・・場所だ。


「意外だ。あんたでも緊張なんてするんだな」


「そりゃあなぁ。もうここらは《グローツラング》のテリトリーだろ。周りが全部敵って考えりゃあお気楽じゃあいられねえ」


「かと言ってブルってるってわけじゃないだろ? ――おっと、そこ右だ」


 マックスから預かってるスマホでナビすると、彼は俺の言葉に従って車をターンさせる。


「《グローツラング》と同じくれえおっかねえ奴が相棒だからな」


「そんな奴がいるのか。今度紹介してくれよ」


「兄弟はホント俺につれねえよな」


 ぼやくマックス。そのまま道なりに進むと、しばらく先に何人か見張りが立っている大きなガレージが見えた。見張りの連中は三人――その誰もが《グローツラング》のホワイトのものを身につけている。間違いないだろう。


「あれだ――目の前まで乗り付けるなよ。カチ込みと勘違いされる。手前で停めろ」


「了解」


 俺の言葉に頷いたマックスは注文通りガレージの手前――見張りたちから十メートルほど離れた場所で停まる。


 こちらに気付いた連中が銃を構えてこちらに向けた。俺とマックスは敵意がないことを伝えるため両手を挙げつつ車を降り、連中に近づく。


 しかし、効果は薄い。連中は俺たちの顔を見て色めきだつ。


「――《暴れん坊ランページ》に《色メガネフォーアイズ》――?」


「てめえら、ここがどこだかわかって来てんだろうな? 陽が高えっつったってここはメインストリートじゃねえぞ!」


「おい、兄弟。どうやら俺たち歓迎されてねえな?」


「ふざけんなよな――ヘイ、これ・・が見えないのか? ケンカしに来たわけじゃない」


 俺はマックスに文句を言いつつ、挙げた手をアピールするが――


「じゃあなんでその車で乗り付けてんだ? そいつはウチのメンバーの車だぜ」


 連中の一人が車を指して吠える。


「間の悪い……すまない、他のギャングに追われててな、見かけたこいつを借りたんだ。代わりにキーをつけっぱのフィアット置いてきたんだけど」


「そんな話を信じると思うか?」


 言いながら連中の一人がリボルバーの撃鉄を起こす。途端、マックスの声音が変わった。


「スーパーレッドホークか? いい趣味だ――だがいいのか? 俺たちは《暴れん坊ランページ》と《色メガネフォーアイズ》だぜ。こうして手を挙げてる俺たちに引き金を引くってことは、そりゃあ殺されても構わねえってことだよな?」


「やめろマックス――なあ、本当にケンカしに来たんじゃないんだ。あんたらのボスと話がしたい。襲う気なら車から撃てたし、もう間合いの中だ、仕掛けてる」


「そう言って乗り込んできた奴が今まで何人いたと思う? 昨日の《パンドラ》の件は聞いてるぜ――ケリも着いたってな。そのはずなのに昨日の今日で殴り込まれちゃ面子に関わる。誰が相手だろうが退けねえな」


 今度は別の奴が撃鉄を起こして俺に向ける。


 ――と、連中の向こうにこちらに向かってくる見覚えのある車が見えた。俺たちが乗り捨ててきたフィアットだ。


 そのフィアットは俺たちのすぐ傍で停まり、運転席のドアが開く。降りてきた男にも見覚えがあった――昨日パンドラで俺に異能を使った奴だ。


「酷い目にあったぜ。車はパクられるし近くにあったフィアットに乗ったらどこぞの組織に追いかけられるしよ。やっと撒いたと思ったら盗まれたはずの俺の車がアジトにある。誰か何がどうなってんのか説明してくれ――って、《色メガネフォーアイズ》!」


 身構える男。


「――な。本当だったろ?」


 俺がそう言うと見張りたちは互いに顔を見合わせて銃を下ろす。


 しかしそうはいかないのが昨日の――そして車の持ち主の発火能力者パイロキネシストだ。


「よう《色メガネフォーアイズ》――昨日は確かに《パンドラ》で仕掛けた俺が悪かったかも知れねえ。けどその次の日に俺の車を盗むはアジトまで乗り込んでくるは――ちっとやりすぎじゃねえのか、ああ?」


「ああ、肋骨折って悪かったな。けどその割には元気そうだ――もうくっつけたのか?」


「ああ、高い金払ってな――仕事で負った怪我じゃねえから倍払いだったよ、くそったれ。《パンドラ》じゃてめえの勝ちだったがここは俺たちのホームだぜ、生きて帰れると思うなよ」


「まあ、待てよ。落ち着け。ケンカしにきたわけじゃないんだ」


 俺は言いながら財布を取り出し、


「車の修理代と治療費だ。《パンドラ》の修繕費はてめえのペナルティなんだから自腹切れよな」


 百ドル札を何枚かまとめて抜いて男に差し出す。男は差し出した札を不思議そうな顔で受け取った。


「おい兄弟、そんな奴に金握らせるこたねえだろ」


「構わねえよ、必要経費だ。報酬に上乗せするから損はしない」


 文句を言うマックスにそう言って、今度は男たちに告げる。


「さて――何度も言うが《グローツラング》のボス、ヴィンセントに会って話がしたい。あんたらにとって損な話じゃないはずだ。北区のトラブルバスターが会いに来たと伝えてくれ」


「……ボスは留守だよ」


「まさかだろ? この状況でか? 東区に行ってるなんて言うなよな、知ってるんだぜ」


 俺がそう言うと、連中の一人がスマホを取り出しどこかに電話をかける。しばらく待つと男は通話を終え、スマホをしまい――


「……ボスが会うそうだ、着いてこい」


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