第5章 隻眼の魔女 ⑤
その隙を見逃すような奴じゃない――
「――束になっていれば見切れても、一本ずつじゃ無理だったみたいだね?」
くそ、やられた――
「先に束で見せたから油断しちゃったかな? 髪を操る異能さ、一本ずつだって操れる。こんなに細くても能力を使っているときは鋼線ぐらいの強度になるんだよ。足を掬うことぐらいできるんだぁ」
目が眩む。鼻の奥が痺れ、後頭部がコンクリートに打ち付けられる。
「あはぁ」
無邪気な子供の様に笑う
「いいよ、アタルくん――すごくいい!」
二度、三度と拳を振り下ろされる。その度に顔が、後頭部が、激しく痛む。
――このままやられ続けれるのはまずい。そう思って足を使ってマウントを返そうとするが――
「だぁめ。大人しくしててね」
後ろ手に拳銃を抜いた
「~~~~っ!」
「――おっと、動脈が傷ついちゃったかな? 失血死なんて許さないよ?」
言って
そして
「君の顔を殴ればどれだけ気持ちいいか夕べからずっと想像してた――想像以上だよ。最高だ。一発殴る度に全身を雷が駆け巡るような――そんな悦びを感じる。これほどとは思わなかった! ああ、アタルくん……なるべく長く愉しみたいから、なるべく長く保ってね?」
「……あんた、今まで何人殺ってきたんだ?」
「さあ? 両手じゃ足りないのは確かだけど」
「……そりゃあ
「うふ」
微笑、からの殴打。俺も無防備じゃない。ガードをあげ、またチャンスがあれば拳を掴んで止めてやろうと苦心しているが、
「――くっ、立ち技より上手いじゃんよ」
「でしょ? マウントとって仕留めきれなかったことはないんだぁ」
「あんた、罵っても喜ぶだろ? どうやったら怒らせられるんだ?」
「……さあね? そんなことを考えているの? 随分と余裕があるみたいで嬉しいよ」
「残念なことに言葉責めぐらいしかできそうにないんでな」
本当に――それぐらいしかできる状態じゃない。他にできる事と言えば、首に力を入れて少しでも拳打の威力に耐えることぐらいだ。
「だったらやってみなよ。君を殴るのが愉しくなるだけだと思うけど」
それでも無抵抗というわけにもいかない。俺はやぶれかぶれに、
「――いい加減黙れ、ブス。てめえ性格暗いんだよ。世間様に迷惑だから引きこもってろ」
そう告げると――
……は?
「……まさかだろ? 変態とか異常者とか言われて喜ぶくせに、こんな言葉で傷つくわけ?」
「――五月蠅い!」
「どっちだ? ブス? それとも性格暗い? いや、あんた容姿に自信ありげだったもんな、ブスの方か。不細工とか言われると傷ついちゃうのか、乙女だな。ブスのくせに」
言ってやると、
「――私はブスじゃない!」
目に涙を浮かべた
逆上した
「――!」
絞められていて力を出し切れなかった。肘関節を壊すことはできなかったがそれでも筋ぐらいは伸ばしてやれたのか、
「――このぉっ!」
そして半狂乱でその傷めた右手を振り下ろす。怒りで――もしくは痛みで目測を違えたか、拳は今までより温いものだった。首を捻って躱すと、そのまま
その痛みに硬直したのは明らかに隙だった。逃すつもりはない――俺は右手を伸ばし反撃。しかし
――甘え!
「つぁあっ!」
体を捻り、肩を浮かせた。同時に握っていた拳――その人差し指を立てる。浮かせた肩と伸ばした指で稼いだ三十センチは、のけぞった
人差し指が
「――ぎゃああああっ!」
絶叫。無傷の赤く赫く右目がカッと開かれる。
「――山田アタル!」
「……隻眼でもねえくせに眼帯つけて《隻眼の魔女》はねえだろ……これでようやく《隻眼》だな? 少し可愛くなったんじゃねえの?」
「――死ねぇ!」
俺が突き上げた右腕とクロスするように
痛みはさほど感じなかった。代わりに意識が遠のく。
――くそ、ここまでか。意識を手繰ろうとするが、手繰る端からかき消えてく。
ぼんやりとした視界に映るのは逆手を振りかぶる
それが実行されるかどうかという時、足に何かを感じた。
ポケットの中で何かが動いている――スマホだ。サイレントモードにしてあるため振動で着信を報せている。
誰だ――俺に電話をかける奴なんて限られている。夏姫に違いない。
なかなか戻らない俺の位置情報を確認し、動きがないことに気付いて――それとも店の監視カメラに俺に殴りかかる
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