第5章 隻眼の魔女 ③
早く帰ってきてね!――夏姫の言葉が頭をよぎる。
悪いな、夏姫。もう少しかかりそうだ。
ビルの屋上――その中心で足を止めて振り返ると
「暗いねぇ――こんなところでいいのかい?」
「夜目が利くっつったろ」
「じゃあ対等だね。私も夜目が利く方なんだ」
相変わらず嬉しそうな
「準備はいいかな?」
「いつでも」
「では――
言って
追いかけっこでわかっていたが、
その
バーでの乱暴な攻撃と違い、両手をコンパクトに構える
高い技術が伺える――しかし何より怖いのはその異常性だ。攻撃に殺気が伴わないせいでタイミングが掴めない。勘が働かず、応戦に高い集中を強いられる。
前に置いた右手でジャブをいなす。三発目をいなした手でそのまま
手応えはあったが、同時に脇腹を抉られるような衝撃。拳打を誘って左ボディ――
「ちぃっ――」
たまらず距離を置く。
「いいねぇ。苦痛に歪むその表情――ぞくぞくする」
切れた唇から垂れる血を舐め。
後手に回っては不利か――そう考えて今度はこちらから仕掛ける。
間合いを詰め、ジャブを意識させて前足を踏む。反射的に抗って退ろうとした瞬間体重を乗せ、逃さない。動きが固まったところにショートフックから返しの左ストレートをお見舞いする。
しかし――
「ぁぁああああっ!」
「ぐっ――」
「嗚呼、素敵だよアタルくん! いいコンビネーションだ、とても痛いよ!」
口から血を飛ばして
「私の
「――一人で勝手に感じてろ!」
完全にイった目で喚起の声を上げる
「かはっ……!」
割れた額で打ったのだ、こちらも痛みが走るが
顔が上がったところを外腕でさらにのけぞらせ、足を刈る。尻餅をついて無防備になる
「……っ!」
息を詰まらせる
「――っ!」
反射的に跳び退ると
「……ずるいよぉ、アタルくん……私にも殴らせてよぉ」
のそりと起き上がる
「――おっと、これは恥ずかしい」
「どう? 美人の私に戻った?」
「……笑えねえよ」
「それにしても魔眼を使わずにその強さか――さすがだね。君ならきっと私を満足させてくれるに違いない」
「……どこまでこじらせてんだ」
「ちょっと性癖が歪んでいるだけさ。さあ、もっと殴ってくれ。君に打たれただけ、君の顔をぐちゃぐちゃに――」
「――付き合いきれねえよ!」
口上を遮って仕掛ける。
魔眼を使えば仕留められるかもしれないが、
なので、魔眼ではなくナイフで攻める。バトルナイフを抜くと
「――いよいよ使うかい、それを!」
「卑怯とは言わないよな?」
「まさか――好きにしたらいい!」
対坂場で
前にある左手を狙う。退がる
やはり――ナイフ相手では相打ちは狙わないらしい。
「ふぅ……この緊張感、たまらないね」
「でもやっぱり
そう言った。そして眼帯を外す。その下の目が露わになる。
昼間見た時は闇を落としたような黒色だったそれが、今は赤く
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