第4章 激突 ⑤
件の店が入っている雑居ビル――その隣のビルの屋上に着いた。裏通りではあるが、こういった店が入ったビルが並ぶ通りである。人通りはぼちぼちある。
望ましいのは店舗に踏み込んで屋内での決戦だが――
スカム名義だった店舗は一階にある。その押し入られた裏口を見下ろす形で、確定している状況から有効な手段を探る。
「――
「無駄だろ。テーザー銃は連射ができない。単発射撃の拳銃と同じと考えれば避けられるだろうよ。それに電撃対策をされてたら避けるまでもない」
「対策されている可能性は?」
「十分にあるぜ。現に俺にはスタンガンの類いは効かない」
「君にスタンガンは無効か。憶えておこう――催涙ガスはどうかな? 眠らせることはできないが効果はあるだろう」
駄目だ。例え俺がマスクで対策できるとしても、カズマくんがモロに影響を受ける。
「……それで闇雲に使った時間停止に引っかかったら笑えない。却下だ」
「ではどうしようか? そろそろラブシーンが終わるか――でなければ坂場の戻りが遅いと不審がる頃だ、ゆっくりしている暇は無いよ」
想定していた蛇と一対一の状況とは少し違うが、俺が連中の気を少しでも引ければ欲しい情報――蛇の秘密が暴ける。ある意味賭けになるが、そう分の悪い勝負じゃない。
そのままスマホを操作して、夏姫に発信。
『――もしもし?』
「――俺。連中どうしてる?」
『ラブシーンは終わったよ。今は二人でソファに座って何か話してるみたい』
「音は拾えない?」
『ごめんあっくん、それは無理。マイクがついてないタイプのカメラなの』
「夏姫ちゃんが謝ることじゃないよ、ありがとう」
告げて通話を終える。なるほど。
「――とりあえず正面――っつっても裏口だけど。門を叩いて中に入る」
「正面から? 時間停止の餌食だろう」
「突入ならまだしも、門を叩けば出会い頭に時間停止はないだろ。なんとかするさ」
「……それでどうにかなると? 本気かい?」
「それができると思って俺に話を持ってきたんじゃないのか?」
「――それって《
「生憎と持っちゃいないよ、そんなもんは。やれることはなんでもやるし、手段も選ぶつもりはない」
言って屋上の縁に足をかける。背中に
「私も行こう。参戦はしないけど、退路ぐらいは確保しておくよ」
――体のいい見張りか、俺が逃げないように。
「必要あるか?」
「バーミンの残党がバックアップしようとこちらに向かっているかもしれない」
「ねえよ――有象無象だ。そんな忠誠心がある奴はいねえよ。仮に来たところで話にならない」
「万が一ということもある。背中は任せてほしいな」
「あんたに任せてこれほど不安なことは他にねえよな」
縁を蹴って飛び降りる。さっきのビルよりやや高いが問題ない。膝で着地の衝撃を殺して地上に降り立つ。一瞬遅れて
今更だが、
そのまま無言で店舗の裏口に向かう。別に特別変わったものじゃない、ごく普通の勝手口だ。ただ、鍵はこじ開けられている――バールか何かでこじったようだ。まさかこの街でスカムの系列店に悪さしようだなんて奴がいるとは思わない――防犯装置を省いていたことが悔やまれるが後の祭りだ。
「――ドア、開けっぱなしにしといてくれ。何かあったら大声で伝えるからよ」
「了解――できれば制圧の報がいいな」
「善処する」
頷いて扉を開ける。少し深めに息を吸って――
「邪魔するぜ。そっちに行く。一人だ――出会い頭にぶっ放すなんて無粋なことはしないでくれよ?」
大声でそう宣言し、店に入る。足音は忍ばせず――逆にわざと立てて進む。裏口からスタッフ用の控え室、トイレ、事務室などを抜け――
――フロアに出る。裏口から入ったので、店として考えたら奥から出た形だ。すぐ脇にボックス席が幾つかあり――
その一つのソファに男女――蛇と
「……堂々と訪ねてきたんだ、そんな物騒なもんはしまえよ」
告げると同時に蛇がその手の引き金を引いた。発射された弾丸は俺の頭の脇を抜けて後ろの壁に孔を穿つ。
蛇はにたりと笑って言った。
「さすがだな、頭ぁ狙われて眉一つ動かさねえとはよ」
「銃身と銃口見れば弾がどこに飛んでくかなんてわかるだろ。当たらない弾丸にビビるほど暇じゃないんだ。あんたが蛇で間違いないな?」
「ああ――そういうてめえは《
「よく言われる――別に隠してるわけじゃねえんだけどな。その名前で仕事しなくなったせいか噂と名前だけが先行してんだよ」
「――で、その有名人が何の用だよ。わかってんだろ、俺らぁてめえを殺したくてうずうずしてんだよ。楽しくお話ししようなんて気分じゃねえんだけど?」
「そうか? そのわりには楽しんでたじゃんよ」
言いながら、監視カメラを指して――
「ここ、うちの系列の店だったんだよ。鍵こじ開けてラブホ代わりに使ったんだ、お前らのラブシーン盗撮DVDにして売って良いか?」
「あんたにもシテあげようか? 可愛い顔してるし、無料で相手してあげるよ」
初めてルイが口を開く。媚びるような甘い声。銀髪がやたらエロい女がいたらそいつがルイだと言っていたが、なるほど納得だ。容姿と相まって好きな奴は好きだろうが――
「――口が精液臭えんだよ。お呼びじゃねえから黙ってろ」
「なっ――」
ルイが怒りに顔を引きつらせる――が、反して蛇はゲラゲラと笑った。
「はは、面白えこと言うじゃねえか――」
そして、
「適当に座れよ」
能力に絶対の自信があるのだろう、蛇は無警戒にそう言った。
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