第22話、殴り合いとか実質セッ■スだろ
「「――――やってみろッ!!」」
「ぐっ……ぅ゛!」
ルバートは先手を取りクリスティアの頬へ拳を叩き込む。
仕掛けたのは同時、だがリーチの長さからルバートが先手を得たのだ。だがクリスティアも負けずと腕を絡めて右手の関節を潰す。
「がッ!?」
「痣一つで右手一本! 安い買い物だな特大セール中かよ! 90%オフシール剥がしてこいッ!」
「っるせぇっ! 調子乗んな雌ガキ英雄がッ」
ルバートはクリスティアの左足を踏み付け顔面を左手でぶん殴る。背後に倒れようとするクリスティアの胸元を掴み更に頭突きを喰らわす。
「ぁぁ、ああッ!! お前、何腑抜けてんだッ! ムカつくんだよ僕の女死んだのお前の腑抜けが原因だろうがッ!
何負けてんだよ何腕落としてんだよッ!! オメエは、お前は僕たちの憧れだったろうがッ!!」
ルバートは右手の関節を戻し熾烈な攻撃が放たれる。
ジャブとストレートは確実にクリスティアへ叩き込まれる。しかしクリスティアは倒れない。
彼女は今、ステータスが上がっているのだ。月煌の効果である。ゆえ、痛みなど知ったことかと言い放ち、頭突きを返して怯ませる。
血化粧上等、後悔なんざ死んでから。クリスティアも自分の本音を怒気と同時に言い放つ。
「ぐッ……ぎッ」
「るせぇ!! 勝手に憧れて勝手に失望すんなッ!! 女取られてキレてんなら天下上等爆発必死で殺しに行けよ馬鹿ッ! 出来ねえなら引き籠ってシコってろ包茎がッ!!」
発勁で脳を揺さぶり怯ませる。脚の拘束から解放されるとルバートの頬を蹴り飛ばす。
身軽さを利用し即座に背後へ跳躍、ステップを踏み特攻をかける。
「目覚めるためとはいえボコスカ殴りやがってッ! 半分ぐらい八つ当たりだっただろお前ッ!」
「違うわアホがッ!」
「違わんわ戯けッ! アレ抱き締めるだけでよかっただろうがッ!」
「あーッ! うるせえうるせえ! 殴りたかったんだよ気付いてんなッ!」
ルバートはクリスティアの鼻をぶん殴る。
クリスティアはルバートの腕を掴む。そこから逆上がりの要領で地面を蹴り顎へ蹴撃を叩き付ける。
「開き直ってんじゃねえぞ!! ああ糞! 倍返しだこの腑抜けッ! 女取られたぐらいで精巣腐ってんじゃねえよ、腐った精液しまえや腰抜けッ!」
両者の実力は互角だった。
月煌でステータスが強化されてる、と言ってもルバートには及ばない。
加え
だが、クリスティアは持ち前の戦闘技術を持ってほぼ互角へ持ち込んでいた。
「というかお前の言葉はなんだ意味不明なんだよッ!! 壊れてるだ!? 救われることがない? ――――余計なお世話だ自慰は他所行けッ!」
「バーカ!! それは勇者さまの言葉だよ竿無し美少女ッ! 見当違いな愛護精神は勇者様に訴えろボケッ!! あとお前のせいで勇者✖️英雄とかいうゴミにハマったんだよ責任取って僕の妄想世界で勇者に抱かれろッ!!」
「るせェッ! お前は黙って殴られてろッ!」
「なら黙らせてみろやその貧弱パンチでよッ!!」
クリスティアとルバートは殴り合う。殺し合う勢いで徒手空拳の応酬を繰り広げる。
限りなく殺し合いに興じる二人。しかし彼らの顔は清々しいほどに晴れ渡っていた。理由は簡単、これは単なる殺し合いではないのだ。
これは軍ではよくある暴力コミュニケーション、男同士の友情儀式、
「つーかならどうするんだ!! お前の渇望満たされてねえのがマジでムカつく!! 少しは報われろってんだよッ!!」
「お前が言うなッ!! 思考どんだけ鈍間なんだよ!! このおたんこナス塩原温泉ッ!!
渇望が満たされねえから救われない!? アホかお前ら視野狭すぎんだろッ!! いいか、あのな!!」
ルバートの拳を躱しすれ違いざまに裏拳。怯んだルバートへ踵落としを喰らわせる。
「――――泣いてる奴に手を差し伸べるッ! それだけで人なんて簡単に救われちまうもんなんだよッ!!」
「!!?」
クリスティアは己の、英雄の本質を踵に込めて叩き付ける。彼女は英雄になりたくて人を救っていたんじゃない。
自分がやりたいから人を救っていたのだ。
「おはようって言っておはようって返されるッ! 食い物を食べて美味い! 花を貰えてありがとう!! ――――救いなんて、探せばそこら辺に転がってんだろうがッ!!」
それは本当に当たり前のこと。ゆえに軽んじる人が多いこともまた事実。
――クリスティアは、それが許せない。
その想いをルバートへ
「当たり前の挨拶をされるだけでここに温かいもんを感じるもんなんだよッ!!
食い物を食べて作った人に感謝する、花を貰って人の勇気に触れることが出来る!! それだけで人なんて呆気なく救われるもんなんだよ!!」
「ぐっ、ぉぉ゛ぉ……ッ!」
腹部へ貫手を放ち、首筋へ回し蹴りを叩き込む。徐々にクリスティアの優勢へと変わり、ついにルバートは膝を付く。
「どれだけ大金を積んでも人の心は動かせないのにも関わらずだッ!
どうしてこんな素晴らしいことを
どうしてこんな大切なことにどいつもこいつも気付かないッ!!
どうしてこんなにも救いが溢れてるのに御大層で素晴らしい経験でもしなければ人は救われないなんて勘違いしてんだお前はッ!!」
クリスティアはこの旅で、礼儀を大切にしてきた。
挨拶されれば挨拶をする。ご飯を食べては美味しいと思う。花を貰ってはお礼をする。それは彼女が
「ああ、つまりだッ!!」
「ッぐ、ぁ゛……!」
クリスティアは拳をルバートへ放つ。ルバートは腕で交差しガードする――――だが、クリスティアは引かなかった。
この戦いで初めての絡めて無しの、純粋な拳。ゆえにルバートは動揺する。だが、そんなこと知らぬとばかりに拳を押し込んだ。
「――――英雄に憧れて足元見えなくしてんじゃねえぞ金魚の糞ども! もっと足元見てみろやああああああーーッ!!」
メキッ――ドゴォッ!!
ルバートは耐え切れず防御を崩される。そして叩き込まれる顔面強打。ルバートは鼻の骨を砕かれ吹っ飛ぶ。
「女取られていつまでも絶望してんな。次の女でも探してろ」
クリスティアは浮気推奨をして吹っ飛ばされたルバートを見る。
ルバートの顔面が傷だらけだった。頬には大きな痣を、鼻血は服にべっとりついて、目は片方半開き――――だが、その表情はとても清々しいものだった。
「…………は、はは、やっぱ、敵わねえわ……」
声からは長年の憑き物が取れたような穏やかさがあった。だからだろうか?
「――――猿ども、セxクスは終わったか?」
彼女の声がいつもより重く、禍々しく思えるのは。
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