第21話、魔法少女は母親は殺しても罪に問われないらしい
「【第十八の使徒‐月煌】」
世界が変革する。世界が崩れる。世界が月で満ちてゆく。
「砦の灯りが……全部消えた……?」
初めに変わったのは光だった。魔力灯の明かりが消え、世界に闇が満ちてゆく。
魔法? 魔剣? 知らぬ存ぜぬ、月世界に塵を持ち込めるなど思うてか。
――――魔力が全て奪われる。
第一の能力:魔力吸収
「固有、結界……?」
世界は砕けた。あらゆる魔力が吸い上げられる。
ゆえ、新たな世界を始めよう。
天頂に煌めく黄金の満月、それは大戦に参加したものならば知らぬものなど存在しない。
「く、くく……くふふふ」
少女は笑う。童女のように。
だが、その笑い方はクリスティアのイメージとはかけ離れているものだ。
「…………おかえり、我らが英雄の帰還だ」
兵士らが怯える中、穏やかな声を出すのは一人。ルバート・デシュタール。
二歩三歩と離れ、英雄の帰還を静かに喜ぶ。
「ふふ、ふふっ、ふふふふふ――――あははははっはははははははっはははッ!!
最高、最ッ高じゃないッ!
絶望的状況、致命傷の身体、地獄が股開いてウェルカムしてんじゃない! 昨今の地獄は大層な糞ビ〇チでありますか! どれだけ災難ハーレム築けば満足すんのよ! あはははは!」
そんな声など知らぬばかりに哄笑を上げる一人の女。
蛆を再現する魔法、それは彼女が生前に使用していた魔法だった。
「
――――神様クタバレ。これは物語のゲストヒロインが使う最終奥義である。
今なお、兵士どもの精神を逆撫でし捕食し弄ぶ蛆どもは嗤う。
黄色い汁を撒き散らし、肛門へキスをし這い入る。
この世のありとあらゆる生命を侮辱し嘲笑うが如く、肉を食んでは糞尿をぶちゅぶちゅと噴き出し続ける。
「ぁ、ぁ゛……ご、けな……ぐぃ゛」
兵士は苦悶に震え、蹂躙され続ける。
声はまともに出せず、恐怖と不快感だけが押し寄せる。だが当然だ、彼らのステータスは下記のようになっているのだから……
体力:1/1
魔力:0/1
武力:1
守力:1
魔法力:1
精神力:1
――――ステータスが全て吸われている。勿論、クリスティアの魔法の力だ。
大戦時。敵の魔法を封じ、蹂躙し尽くした力。それが今、彼らに牙をむいている。
第二の能力:ステータスの剥奪
――――超広範囲のエネルギードレイン。
言ってしまえばクリスティアの固有魔法はこれがほとんどである。もう一つ力が存在することにはするがオマケのようなモノだ。
にゅちょ、ぬちゃ。蛆は這う。
「ぃ、ぃぃ……ぁひ……」
この世に存在する汚物を全て凝縮したような有様。最悪の魔法である。魔法少女セイヴァー☆クリスをご覧ください。
『この世の全ては私が救うッ! 魔法少女セイヴァー☆クリス、参上』
『ぐははは、きたな! 魔法少女よ。これを見ろッ!』
『あ、あれは……お母さま!?』
怪人の腕にはクリスの母が抱かれていた。何か瘴気を当てられたのか、ぐったりしている。
『殺したはずなのに……どうして』
『地獄みてえな家庭で草』
『再婚相手との子供じゃないお前なんか邪魔でしかないでしょ!! それぐらい分かってよ!! 虐待した程度で何で怒るの!? 意味わかんない!』
『お母さま屑で草』
『くぅぅ! お母さまを無理矢理起こすという命の冒涜、許せない! 待っててねお母さま、今、眠らせてあげる!』
『良い話に持っていこうとしてて草』
次回:クリス、お母さまの墓へ放尿! の巻。
「(何だ今の……)」
ルバートは脳裏に変なモノが流れたが、気のせいだった。
「ああ、あぁっ! 素敵、最高だわっ!
性欲と肉欲と獣欲と愛欲が満たされていく……!」
「性欲しかない」
血に伏すは骸の山。淫靡な表情を浮かべるクリス(?)は嗤う。
兵士の肉は腐り堕ち、原形すら留めていない。
「……で、僕は何故殺されていない」
腐肉の蔓延る森で、健常なモノは二人。
その片割れは問う。己の処遇に対する不満を。
「うーん、そうねえ……」
クリス(?)は視線をチラリと向ける。
彼女はルバートの問いの意味は分かっていた。
先ほど、ルバートは意図的に固有魔法の発現を促した。
この固有魔法を発動するには二つの条件、そのどちらかを達成する必要がある。
一つ目は〝魔力の消費〟だ。これは通常の魔法と何ら変わりのない条件である。
だが、クリスティアは常に魔力がない。ゆえにこの発動は二つ目の条件に由来するものだ。
――――本人のトラウマを抉ること。つまり、クリスティアが本心から嫌う行動を行うことを意味する。
当然、本人のトラウマは蘇り脳は苦痛で支配される。それを理解し行ったのがルバートだ。ゆえに何故、と。
「彼女が殺したくなかったからじゃない? 知らんけど」
「テキトーすぎる……」
「いや、知らんし。つーか知りてえなら本人に聞きなさいよ――――あ、やべ」
天頂に浮かぶ黄金月へ、ノイズが走る。
それはクリスティアの固有魔法/月煌の時間切れを意味していた。
だが、それも当然だ。月煌の維持に使用される
「はぁーあ、来世は男でありますよーに」
クリス(?)は瞠目し、祈りを捧げる。
「じゃあね、愛しい愛しい英雄様。貴方の手は温かったわ――――大好き。
あ、寝てる間にパンツ直飲み合衆国すんなよタピオカミルクティー」
ピッ――ピリッ――パキッ――パキパキッ――――パリーーンッ。
消滅する異界。黄金の月は消える。魔法の拒絶が解除される。
それはクリスティアが
「……どうして、どうして……どうして……」
「……?」
戻ったクリスティアは、俯きながら壊れたように『どうして』と呟き始めた。
それは代償。力の代償。
彼女は月煌を精神的に追い詰められた際に限定して魔力無しで発動できる。
だが、一度に数千を殺戮できる力を無条件で発動できるほど、この世界は甘くない。
「信、じてたのに……ちがう、ちがう、違う違うfthbwdvcs:亜slンフェkkzjqwdd――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「――――!?」
これは首狩りの魔女、彼女の記憶。
クリスティアはそれを追体験して不足分を補っているのだ。そして、それこそが代償。それこそが英雄の闇だった。
「信じてた信じてた信じてた信じてたッwdbl;gfdさzb!!!
嫌だ許して違うの止めてっ、私は魔族じゃないの、私は違うの、目が、目があ゛あ゛あ゛ああぁぁッ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…っ!!」
彼女の記憶。魔族の疑いを掛けられ、身体調査と称された性的拷問の記憶。
欲望塗れの超えた司祭、国の重鎮、軍の幹部。そういった彼らに嬲られた絶望の波。
目を抉られては突っ込まれ。
熱した鉄槍で腹部に穴を開けられては突っ込まれ。
口に、髪に、耳に、首に、胸に、脳味噌に、小腸に、肺に、あらゆる場所が白濁の絶望で塗り潰される。
それが首狩りの魔女の記憶――――戦時中にありふれていた絶望の一つだった。
「やめ゛て、も゛う、やめで、目に陰茎を入れないで、小腸がいい感じってどう゛いうごどっ、そこはちがうの間違えてるの、やめ゛でやめ゛て、scdssっ、お゛ねがいしま゛す、奉仕もなんでもじま゛す……だか゛らぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああdfんvbぃw;おうsq:あlヴぇjば――――ぁ」
クリスの瞳に光が戻る。追体験が終わったのだ。
目や股から水をポタポタと滴っていた。それだけ怖い思いをしたのだろう。
クリスティアは自分の肩を抱き、その場にしゃがむ。
「…………」
沈黙。ルバートも声を掛けることは出来ない。
彼女の小さな背中には、多くのものを背負い続けて尚、試練が積み重なるのだ。そんな少女には何を伝えようと応えぬし届かない。
「…………うん」
パンっ。渇いた音が小さく響く。音の主はクリスティア。だが殴られたわけでも拷問されたわけでもない。彼女は自分で自分の頬を叩いたのだ。
クリスティアは立ち上がり、ルバートを見据える。
「ありがとう、ルバートさん。おかげで目が覚めた」
「……」
彼女の瞳に陰りはない。真正面からルバートを見据えていた。
そして――――拳を構えた。
「でだ――ムカついたから殴らせろ」
彼女は彼の行動が仕方ないことだと知っている。クリスティアを目覚めさせるにはトラウマを抉る必要があった――――だが、ストレスが溜まるかどうかは別だ。
「……ふっ」
ルバートは腰に差していた軍刀を投げ捨て拳を構える。
「奇遇だな英雄――ムカついたから殴らせろ」
彼は英雄の心が折れても仕方ないことを知っている。同じ経験をすれば自分も心が折れると分かっている――――だが、人の心はそんな単純じゃない。
全く同じ応え。全く同じ言葉。ならば、あとは言うまでもない。
「「よし――――やってみろッ!!」」
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