第14話、人をゴミ程度に思ってる人は、開き直ってると逆に好感持てる(偏見)

本文ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 五月十七日、黒色の塔。


「で! 本当にいるんだろーな、その傷心の聖女ってのは!!」


 それは黒色の塔の近辺での出来事である。

 この付近には二週間ほど前からとある御方が滞在していた。


 名をアーノルド・フォン・サージェント。救世の英雄と呼び声高きその人である。


「は、はい……二週間ほど前には確かにいたのですが……」

「んなのどうでもいいんだよ!! 俺は、今! どこにいるかって聞いてんだよ!! さっきも言っただろうが!! お前の記憶力どーなってんだ!? あぁん!?」

「ひぃ! 申し訳ございません!!(言われた……か?)」


 彼はこの一週間で激高していた。それは彼の目的が思うように達成できなかったからなのだろう。

 曰く、365人目の妻を探している……と。


「ったく……使えねーな」

「休みてえ 嗚呼休みたい 休みてえ ニーソの香り かぐわしきかな」


 恐ろしく頭の悪そうな短歌を謳っている男が蹴られた。


「おめー気持ちワリィンだよ!! どっか行ってろ!!」

「……あ、はい」


 短パンニーソに取り憑かれた男。イアル・ドレッドはとぼとぼとその場を後にする。


「はあ……どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ」


 喫煙所を見付けて座ると、飴を舐め始める。喫煙所にいるのは癖である。


「(そろそろ辞職してーな。田舎で畑とか作って暮らしたい。短パンニーソが育つ種ってあったかな……あはは、畑一杯に短パンニーソが……)」

「おーい、そこの末期太郎くん、少しいいかな?」

「はい?」


 イアルが短パンニーソの畑を(脳内で)育てていると声が掛けられた。

 初老の男性だ。白衣を纏っている辺り、何処かの研究者を思わせるだろう。


「はい、どうかなさいましたが御老k」

「この辺にさ~アーノルドくんっているかな~」

「?? いますよ、あっちです」


 イアルは特に何も考えずに後ろを指差す。初老は笑顔で「ありがと~」と告げ、アーノルドの方へと向かった。


「あ? なんだ爺、きたねえな、あっちいけよ」

「うんうん、そうだね~。ポチッとな」


 初老は懐からリモコンのようなものを取り出すとボタンを押した。アーノルドの胸元へ向けて……


「よし、賢者の石回収完了ッと~じゃあの~アーノルドくん」

「あ? あんだァ? あのジジィ……まあええか。おいハゲ!! いつまで待たせてんだよ! 俺様は救世の――――」


 ※諸事情により、カットします。中年デブのリョナシーンなんて書きたくないでござりちょふ。


・チ〇コピアスで街を散歩 モザイクを添えて

・三日間の街に磔 石トッピングはセルフサービス。

・ノコギリで遊ぼ♪ 先着四名限定

・豚の挽肉 ~踊り挽きバージョン~


◆◇◆

 五月十日、アーノルドが死ぬまで残り10日。

 場所は変わってナニータの街にて。


「この家で自由に過ごしてもらって構わない」

「はい、ありがとうございます」


 クリスティアがナニータに戻り数時間。とある町はずれの物件を紹介されていた。


「……あの、このような立派な家を無料で、よろしいのですか……?」

「ああ、誰も使っていないことに加えて君の力で復職した人も多いのでな。特に反発は無かったよ」

「……そう、ですか」


 クリスティアは素直に喜ぶことは出来なかった。


「……私は、数日でこの街を出ますので、それまでの間、お借りします」


 理由は沢山あるが一番を大きな理由はソレ。彼女は現在、旅を強制される身だ。

 契約書がある以上、破ることは出来ない。ゆえにこの街に滞在してもそれは必要最低限、ということになるのだ。


「この街に、永住するつもりはないかな?」

「…………申し訳ございません」

「……そうか」


 ルバートは悔しそうに目を伏せる。だが、彼は諦められなかったのか、追加で情報を告げた。


「……マルマイルが、さ。死んだんだよ、一週間ぐらい前にね」


 ルバートは唐突にそう告げる。彼は話の流れを読むのが絶望的に下手なのだろう。それは悪印象しか与えないということに気付けていない。


「アーノルドくんがやりました。ちょっと面白いなぁと思いました」

「なんで子供の感想文みたいになってるんですか」

「いや……なんか詳細語るのも面倒くさくて……」

「気持ちは分からないでもないですけれど……」


 単純な話。彼はクリスティアに留まってほしいのでだろう。

 マルマイルこの街から逃げる理由は無いぞ、と言いたいのだろう。


「(´・ω・`)……こんばんは?」

「はい、こんばんは」


 唐突に割り込む冒険者。クリスティアへ綺麗な花を渡した。すぐそばで慌てて買ってきたのか値札が貼ってある。


「(´・ω・`)……じゃあの」

「あ、僕はまだ話が……ちょ、引っ張るな!!」


 ルバートは退散した。そんな様子を見てクリスティアは可笑しくて微笑みを零した。

 渡された花を見て、ほんのりと頬を赤く染める。


「(……後で、お返しでもしましょう)」


 クッキーの作り方と書かれた本を取り出してクリスティアは家へと入った。


「(と、その前に、掃除ですね)」


 部屋の『とりあえず掃除してみました感』を認識して、アイテムボックスから掃除道具を取り出した。




 数時間後。時刻はすっかり夜になっていた。花は小さなテーブルに飾り終え、最低限目が届く部分の掃除を終えた。

 一仕事終えたクリスティアは遅めの夕食を取っていた。


「(……さて、夕食、ですか)」


 クリスティアはアイテムボックスから一つの瓶を取り出した。

 瓶の中には白い錠剤が入っていた。それはマリンに里を出る際、貰ったものである。


『もし、食欲がなければこれを飲んでください。三錠で一日に必要な栄養が取れると思います……』

「(……こんなに早く、お世話になるとは)」


 クリスティアは一錠だけ取り出すとそれを飲んだ。


「(さて、明日に備えて今日は寝ましょう)」


 白のネグリジェへ着替え、上の灰色のニットカーディガンを纏う。

 備えられていたベットへ横になり、布団を頭まで被る。


「…………」


 明かりを消す。部屋は月の光に照らされる。

 青白い月光はクリスティアの身体を優しく包んだ。


「…………」


 彼女は身体を少しだけ丸める。

 小さなテーブルに飾られた花は少しだけ首を傾ける。


「…………」


 彼女は、少しだけ身体を丸めた。

 小さなテーブルに飾られた花は花びらに乗る雫の重さを感じた。


「…………」


 彼女は、少しだけ、身体を震わせた。

 小さなテーブルに飾られた花は、雫が流れるのを感じた。


「…………」


 彼女は、少しだけ身体を震わせた。

 小さなテーブルに飾られた花は、雫を零した。


「(…………人、こわいよ……)」


 彼女は、本当に小さい声で、泣きそうに呟いた。

 小さな彼女の小さな声は、静寂な部屋に切なく響いた。

◆◇◆

 五月二十日、王城会議室にて。


「……屑ども、会議を始めるぞ」


 告げた声は重々しく、瞳に宿る憤怒は何者だろうと有無を言わせず。

 彼女の名はコーネリア・フォン・サージェント。先日までアーノルドの術に囚われていたこの国の王女である。


「さて議題【王国の混乱をどう収めるか】になるわけだが……お前ら、何か案はあるか?」


 彼女は現在、素面である。

 ゆえこの口調こそ本物の彼女なのである。瞳に宿る底無き憎悪。まるでこの世の全てを憎んでいるかの如きオーラは周囲へ強大な圧力をかけていた。


「……チッ。役に立たん屑どもが……!」


 周囲の文官が一斉にびくりと肩を震わせる。コーネリアは傍にあったナイフを無造作に放り投げる。


「ジャックが死んだ!!」


 立ち上がる文官をぶん殴った。倒れた文官へ馬乗りになると最大級の罵倒と共に嬲り始める。


「お前らなど、私に利用される程度の価値しかない屑だろうがッ!! 何故そんな世界の真理すら読み解けんのだ塵どもォ!! 乳首削ってパスタに掛けるぞ!? アァン!?!?」


 ポカポカ。


「こんな世界、私に必要とされなければ何の価値もない糞だろうがッ!! 聞いてんのかァ!? お前らは糞だッて言ってんだよ!! この産業廃棄物の上位互換割る2が!!」


 ポカポカ。


「ああ、そもそも何故私が便所の糞にも劣る屑どもの起こす喚きに一々行動を起こさねばならん? おかしいだろうが、なァ? おい」

「そ、それは王族としての職……」「ペッ」


 意見しようとした文官に唾が吐かれる。文官は股間を手で押さえた。

 コーネリアは椅子に戻り、ガンッと踵を机へ乗せ煙草を取り出した。


「貴様らはどこまで低能であれば気が済むと聞いているんだよ劣等」

「はっ、と、言いますと……?」


 コーネリアは煙草に火をつけると煙を燻らせる。

 徐に立ち上がって、文官の方へ向かい――――煙草を押し当てた。


「ぐっ……! ぅ゛……!」

「――――お前らは何故、この程度の暴動を止めることが出来んのだ?」

「こ、この程度の……?」


 現在、王都サージェント近辺では大規模な暴動が起きていた。

 アーノルドの起こした事件の責任が王族にあると言った貴族が起こした事件であった。

 それなりに高位の貴族が起こした事件だけあり、断じてこの程度と言い切れる規模ではなかった。


 曰く、アーノルドの催眠術など王族が止めるべきだった。

 曰く、王族が責任を取るべきだ。

 曰く、自分の妻がこうなったのはお前らがしっかりしないから……などである。


「(この暴動は早い話、八つ当たりだ。自分が高尚なナニカだと勘違いしてる蛆は八つ当たりする相手が欲しい)」

「ひいいいいいいいいいいいいい!!!! 死ぬ!! 死ぬうう!!」

「ああ! 服に火が!! 水! 水持って来い!!」


 コーネリアは暴動の原因を即座に理解し、その上でどうすれば貴族の八つ当たりが終わるかを指向する。


「(ああ、そういえばお誂え向きの奴がいたな。

 確かスラム街の出だったか、あの英雄は)」

「はは、俺もう死ぬんやな……ああ、死ぬ前にエッチな店、行きたかっ、た……」

「ジャックううう!!! しっかりしろおおおおおおおおおおお!!!」


 そして脳裏に浮かぶ結論。それは単純にして至高の解決先であった。

 ――――クリスティアを生贄にするか。


「(あのカスへ適度にヘイト向けりゃあ良いわけか。だとすれば必要な素材は……)」

「あ、もう死んだんで水はいいっすよー」

「りょー」


 そうと決まれば話は早い、とコーネリアは計算を開始する。

 人の感情、地形、戦力、ありとあらゆるものを材料に頭の可笑しい規模の暗算を繰り返す。そして。


「おいそこの糞以下のナニカ」

「自分ですか!?」


 コーネリアは文官の身体に火をつけた。


「ジャック-----!!」


「塵。英雄クリストフを探せ」

「はっ……? 英雄、殿ですか」

「あー、もうお前いいや。私が探す」


 コーネリアは文官の口に釘を突っ込んでぶん殴った。

 彼女はコーネリア・フォン・サージェント。この国の王女である。

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