第3話、凄い! 新たなチートだよ! 聖女の胎

「(さて、と……まずは資金調達の方法を探さないと)」


 クリスティアは己の目的を再確認する。

 資金調達、加え旅に必要な物資の調達だ。


「(最低限の護身武器、地図、寝具はボロ布を裁縫で加工すればどうにかなるとして……兎に角、お金を稼がないとなぁ)」


 身分は旅人。滞在期間は不明。そんなクリスティアがこの辺境の街で資金集めを可能とする場所は限られてくるだろう。


「(冒険者ギルド、か)」


 クリスティアはバックに詰めたある物を思い出しながら足を進ませた。


◆◇◆

「こ、これなら、魔草一枚につき小銀貨一枚です……! 魔草は全部で二十枚ですので……」

「(予想よりかなり高い……相場が変わったのかな?)」


 受付嬢の言葉に周囲が騒がしくなる。それは魔草一枚の買取価格があまりにも高いためである。


「凄いですね……ここまで的確な処理がされてる魔草は本当に珍しいですよ」


 魔草――魔力を吸った薬草であり、川などを探せば簡単に見つかるものである。

 主に〝初心者向けの依頼〟とされており、金額は低い。


 その上で小銀貨一枚、という高額買取の理由を受付嬢は口にする。

 ――処理が上手すぎる、と。



「この品質。まるで薬学の精通している専門家の先生が採取した薬草みたいですよ!! 最近は雑に引っこ抜いたもので報酬を要求する人が多くて……本当に助かります」

「あ、あはは……ありがとうございます(軍学校では薬学は必須科目でしたから、なんて言えない……)」


 それは裏技でもスキルでもない〝純粋な熟練の技術〟が可能としたことである。

 かつて所属していた軍学校で学んだ技術。それを戦場で何年も何年も繰り返して身に着けた匠の技である――――ゆえに笑って誤魔化すしかない。


「それでは、失礼します」


 用意された硬貨をポケットに仕舞いその場を後にする……が。


「やあっ、君すごいね~(短パンニーソ。嗚呼、美しいことよ)」


 それを冒険者が遮った。だが、それは当然の結果だ。

 女性独り身、採取の高等技術、旅をするほどの体力。それだけで声を掛けるのには十分すぎる理由である。


「君、冒険者なの? 凄いね、ソロ? もしよければなんだけどパーティとか組んでくれない? 実は今日は欠員が~」

「私は冒険者ではありません。なのでパーティは組めません。欠員は頑張ってください」


 この上なく簡潔に回答する。鮮やかな手並みに周囲の冒険者が口笛を鳴らす。


「僅か二秒で振られる俺、可哀想じゃね? 同情するならパイくれ」

「むしろ流れるようにセクハラされる私に同情してください」


 クリスティアの啖呵に周囲の視線が集まる。

 それは周囲が予想していた反応とは大きく異なる対応をしていたからに他ならない。


 普通、十四歳の少女が冒険者にナンパされればそれだけで怯えてしまうだろう。

 ――――なら、目の前の光景はなんだ?

 美少女は怯えない。それどころか皮肉で返しているのだ。困惑も無理はない。


「そこで何をしているんだ?」


 その時、男性の声が響いた。視線の先にはギルドの職員がいた。


 三十前半ほどの男性、右腕が無いもののその存在感に陰りは無く、周囲の冒険者は一瞬のうちに沈黙した。


「げっ。片腕かよ……ちぇ、面白くなってきたのに」

「片腕? ああ、戦争で利き腕を失った例の……」

「ナニータ領主の庶子だ……利き腕がないから職員として働いてるらしいぜ」


 だがすぐに周囲は噂話を始める。その言葉には様々な感情が込められていた。憐み、嫉妬、嘲笑――総じて負の感情。

 負の感情を向けられていた男性――ルバート・デシュタールは一顧だにせず目の前を向く。


「い、いやぁ~このお嬢ちゃんとお話ししてただけですよ~」

「セクハラがどうとか聞こえたが?」

「(´・ω・`)」


 冒険者は歩きで逃げ出した。


「ありがとうございます、デシュタール卿」

「どういたしまして。ですが卿は結構ですよ、僕は庶子ですので」


 ルバートはクリスティアに視線を向ける。その視線から逃げるようにクリスティアは目を逸らした。


「(確か爵位が与えられると聞いていたのだけれど、何かあったのでしょうか)」


 クリスティアは若干困惑する。それは二年前に得ていた情報と明らかに相違している状況であったためだ。

 しかし本人に聞くのは気が引ける、ゆえに話を合わせるという選択をとる。


「……お嬢さん、いくら自分に自信があってもこんな場所に来ることは良いことではないことぐらい、分かるね?」


 ルバートの言葉に圧が乗る。クリスティアに事情があるとはいえ、それを見過ごすことは出来なかったのだろう。ギルドの職員として。


「歯を食いしばりなさい。大人として罰を与える」

「……はい」


 クリスティアは口をきゅっと結ぶ。

 だがこれはまだ優しい方だろう。軍学校では問答無用で拳が飛んでくるのだから。


「(まあ、少し痛いだろうけどそれで――)」


 ――それがクリスティアの最後の言葉だった。


 ドゴォッ(拳の音)、

 ズザザザーーッ!!(数メートル吹っ飛んで床を滑る音)


「……?」

 カシャンっ(フォークを床に落とす音)

「……え?(っっっっっろ)」

 ポト(床にシャカチキを落す音)

「……なんか、数メートル吹っ飛んだぞ」

 ドピュ(暴発)


「……え?」


 クリスティアを殴った張本人は呆気に取られていた。

 何故なら彼は本当に軽く殴ったつもりなのだ。だが、どういうわけか数メートル吹っ飛んだのだ。


 ――忘れてはいけない。ルバートは大戦を生き抜いた戦士である。

 忘れてはいけない。クリスティアは現在、女の子である。


「…………」


 そして殴られた少女、クリスティアはうつ伏せになりながら……


「コイツ……死んでいる……!?(俺、死体しか愛せないからこの子と結婚しよ)」

「医者なんて意味ねえ! 葬式するしかねえ!(女の子が火葬……はぁはぁ、やべ、興奮が止まらん)」

「こんなに若いのに……! くっ(今なら脚触ってもバレないよな……?)」


 ……気絶していた。目を閉じている姿はそれだけで物語の一ページのようであった。


◆◇◆

 冒険者ギルド、医務室ベット。


「本当に、申し訳ございませんでした」

「頭を上げてください。この程度の怪我ならば数日で治りますので」


 クリスティアの頬には現在、ガーゼが当てられていた。

 それはガーゼの下に出来た痣に対する治療である。


「だが未婚の、しかも子供の顔にこんな傷を……」

「(戦争時にはもっと大きな傷をしてたから本当に大丈夫なんですが……)」


 クリスティアが殴られてから二時間、彼女はギルドが用意できる限りの治療を受けていた。


「(やっぱり治癒士は相変わらず不足してるようですね)」


 クリスティアは治療がガーゼのみということの理由を察した。それは現在、治癒魔法を使える人が不足しているという現状である。


 戦争の終盤で治癒が使える人は八割ほど亡くなった。それが戦後に強く影響しているのだ。


「(あとは……この場合で最も平和的に解決するには……

 【状況】真面目な気質の相手が罪悪感を抱いている。

    要点:何もなしで許すでは納得しない。

 【目的】円満解決

 【手段】何らかのペナルティを与える。

    要点:相手の罪悪感が丁度解消される程度のものであること。

  ……こんな感じかな)」


「では二つほど頼みを聞いてくれませんか?

 それでこの件は貸し借り無しということにしましょう」

「……ありがとう」


 ルバートは少しだけ間を開けると感謝を呟くように口にする。クリスティアの意図が伝わったのだろう。


「先ず一つ。体罰はやめるよう心掛けてください。

 体罰を行うと子供は『間違えていたら殴ってもいいんだ』という形で学習してしまいますので、これからの世では大変危険です」

「ええ、分かりました。誓いましょう。必要なら誓約書も用意しますが?」

「不要です。その言葉が聞けただけで良しとします」


 体罰。それは軍学校では当たり前に行われていたことだ。しかし現在は戦争が終わり、新たな時代が始まろうとしている。

 ならば過去の常識もいくつか変わっていくだろう。それを戦争で活躍した貴殿が示せ、そう言っているのだ。


「二つ目に、費用はそちらでステータスカードを作ってもらいたいのです」

「分かりました、ステータスカードですね」


 ステータスカード。それは一種の魔道具であり一般に流通しているものだ。

 効果は自分の能力値を数値化し、いつでも確認できると言うもの。値段は特に高くは無いがそこまで安くもない。


 それならばルバートが困らない程度に罪悪感を解消できるだろう、とクリスティアは判断した。


「(あと、どれくらい自分が弱ってるか知りたいし……)」


 この時のクリスティアは知らなかった。

 まさか自分のステータスがそこからの村娘未満のものになってるなんて――――



◆◇◆

「凄い、最近のステータスカードは見知らぬ人のステータスを表示できるんですね」


 自分のステータスを知った後、一言目に放った言葉がこれである。

 現実逃避、悲しくなるぐらいに現実逃避。


 ぼふっ

 クリスティアはベットに仰向けで倒れた。ベットはそこまで柔らかくないがクリスティアには丁度よい硬さだった。


「んん~っ」


 背筋を伸ばして体をほぐす。天井を見る、不思議と心を落ち着かせる。


「…………」


 掌を空へ向ける。澄んだ瞳に繊細な指が写る。握りしめて、また開く。


「ふふ」


 それが何だが可笑しくて、つい笑ってしまう。この場に誰かがいれば、ハートを撃ち抜かれていたことだろう。


 深呼吸をする。手の力が抜けてぽふんっ、という音を立てベットに落ちる。


「世界は、こんなにも美しいものだったのですね」


 クリスティアはどうでもいい自己流の真理に辿り着いた。


「………………これで旅しろと?」


 ――――ついでに現実が追い付いてきた。

 何ならその辺の村娘の方が強い。


【名前】

 クリスティア・アルトマーレ

【ステータス】

 体力:60

 魔力:2/測定不能(9999以上)


 魅力:950

 運:500

【魔法スキル】

 ・身体強化・極

 ・身体操作・極

 ・■■■

 ・聖女の胎

【称号】

 ・英雄(不憫)


「(聖女の胎……ですよね、こうなった原因)」


 クリスティアは以前には無かった魔法スキルに気付く。

 名を【聖女の胎】。間違いなくオーヴィスが関係しているスキルだろう。ゆえにその詳細を確かめる。


【聖女の胎】

 ・魔力を吸い続ける。吸った魔力に応じて産まれる子供が強くなります。

 ・能力値が上昇する(一日ごとに)

 ・『祝福』が使用可能になる。



「(一つ目は置いとくとして……能力値の上昇、ですか……? 間違いなくステータスは下がってるように思えるのですが……)」


【一日に上がる能力値】

 体力:0,01

 魔力:200

 武力:0,001

 守力:0,001

 魔法力:0,001

 精神力:0,001


 魅力:200

 運:100


「え、馬鹿なの?」


 一年間過ごすだけで体力が3,56も上がるという超優秀スキルだ。なのにどうしてかクリスティアは不満だった。


「(餅つけ、餅つくんだ私。とりあえず別のもので意識をずらそう)」


 別のもの、即ち三つ目の効果である。

 ――『祝福』が使用可能になる。という効果だ。


【祝福】※神官や修道女が得られるスキル。

 己の信仰心に応じて他者の傷を癒す力。魔力は必要ない。


「(今すぐにでも神様に中指を突き立てたい私に信仰心があると思ってるらしいですね。このスキルは)」


 だが使えるならば効力を確認したい。とクリスティアは考える。

 祝福は強力なスキルだ。年月を重ねた神官ならば腕の再生すら可能であると聞いている。


◆◇◆

「え? 祝福のスキルを使わせてほしい?」

「はい」


 そしてクリスティアが頼んだ相手はルバートである。彼は先ほどの件もあり断り辛いだろう、という計算もあってのことである。


「構いませんよ。ではどうぞ」

「ありがとうございます」


 ルバートは右肩をクリスティアに向ける。クリスティアは感謝の言葉を告げると患部に触れ、祝福を使用する。


「〝汝に黄金の加護があらんことを〟」

「……随分と懐かしい祝詞を唱えるのですね」


 祝福の発動条件は魔法とは異なる。

 魔法は魔力を操作するのに対して、祝福は相手に対する祝詞を唱えるのだ。


 尚、現在の子は『頑張れや』『治れよ』『乳首の輝きブラザーズ』などのインスタント祝詞を使う子が多い。

 クリスティアは戦争中に流行った祝詞しか知らないため自然とこれを口にしたのだ。


「……治りませんよね、やっぱり」


 クリスティアは申し訳なさそうに俯いた――次の瞬間。


「え……治っ、た……?」

「嘘、だろ……? 祝福で再生を可能とするのは十年近くの修業が必要なはずだぞ!?」

「聖女さまでさえ習得に8年は……あれ? 8秒だったっけ」

「8、6秒だよバーカ」「あ、そうだなったな……ん? なんか違くね?」



 失われた右腕、それが呆気なく治ってしまったのだ……。


後書きーーーーーーーーーーーーーーーーー


ネクロフィリアにパイロフィリアにポドフィリア。この国は末期だ



・作者は嫌いだけど作品は好きな読者様

・クリスティアを可愛いと思ってくれた読者様

・この作品を気に入ってくれた読者様

・評価したくなった読者様

   が、いましたら評価を是非よろしくお願いします。

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