第2話、やったね英雄! 君は今日から美少女だ!!
「――――やあやあ元気? 英雄殿」
忘れ去られた牢獄に、一人の男が現れた。
彼の者の目的は英雄――――クリストフである。
「Zzz……」
「…………」
男はチ〇コを出した。
「やあやあ元気? 英雄殿」
「Zzz……」
男は出した。黄色い汁。
「やあやあ! 元気!? 英雄殿!!」
「えッ!? だ、だれですか!? いや待て、なんだこの臭い」
クリストフは飛び上がるように目を覚ます。
そして目の前の男の黄色い水たまりに気付く。
「やあやあ元気? 英雄殿」
「やあやあ服着ろ。オーヴィス博士」
下半身にモザイクを装備した男――――オーヴィス・ブレンダーは笑顔で語り掛ける。
「え? 僕の股間が元気ないって?」
「うん言ってないね」
殴りたい衝動に駆られるも、何とか耐える。
クリストフは偉い。黄色い汁は臭い。
「オカズも無しに元気になれとは異なことを言う」
「下半身を露出しながら会話とは異なことをしますね」
一通り会話(殴り合い)を済ませるとオーヴィスは笑みを零す。
「相変わらずのツッコミだね~博士は嬉しいよ」
「相変わらず変態ですね~早く死なねえかな」
オーヴィスは笑顔で物を転がす。
クリストフはそれを受け取り、左手で床に広げる。中には一枚の紙と瓶に入った液体があった。
「で、これは何ですか(この変態のことです、催眠魔法は何か狂った方法で捻じ伏せたのでしょう)」
「魔法の誓約書~あと、君の傷を治す薬~」
「……?」
魔法の誓約書――貴族同士が契約の際に用いる紙。紙に掛かれた約束を反故にした場合、呪いが掛けられる。ウケる。
誓約書の要約
・結婚相手を探す旅に出ろ
・もし見つからなくても後述する箇所に一週間滞在すればよい。
クリストフは誓約書に一通り目を通してその内容を理解する。が、同時に違和感を覚えた。と、いうか覚えるしかない内容だった。
「すみません博士……この誓約書に〝結婚相手を探す旅に出ろ〟って書いてあるんですが……」
「うむ! 結婚相手を探す旅に出ろ!」
「え、殴れって意味ですか?」
「何故だ!?」
クリストフはオーヴィスを訝しげに睨む。
「オーヴィス・ブレンダー。優生学の権威で研究テーマは〝英雄の育て方〟
……戦争が後半になると同時に彼の研究成果が多大な功績を挙げた」
「いぇい♡」
それはオーヴィスの要約である。
唐突なプロフィール紹介にも動じずに、オーヴィスは決めポーズをとる。五十代の萌え声である、燃えろ。
そしてクリストフは〝その続き〟を告げる。
「――――研究のためには手段を択ばず、村の子供や貴族の子供、果ては魔族の子供まで誘拐していた。人道に反する研究は数知れず」
「いやん恥ずかしい」
クリストフは思った。コイツ、始末しといた方が良いよね、と。
「で、私が結婚して子供が出来たらその子供を攫うと?」
「え、何を当たり前のこと言ってるんだい?」
「いつからこの世界は世紀末になったんですか」
この男は素面でこれを言っているため、本当に救いようがない。
「(……でも、博士がいなければ死ぬしかないのもまた事実)」
しかし博士がいなければ死ぬしかない、というのも事実。ゆえにこの場合は実質一択である。
「……もし仮に子供が出来たら、全力で守りますからね」
「いいよ。全力で攫うから。誓約書にはむk……結婚相手を探す旅にいけ、としか書いて無いしね~」
これ以上の問答は労力を失うばかりであると理解しているため、誓約書に血判を押す。
「はい、サインは指が足りなくて無理なので血判で勘弁してくださいよ」
「よろしい、じゃあその薬を飲~んで飲んで飲~んではいはいっ」
「一々ボケに走らないでください。ツッコミも体力使うんですからね」
クリストフは小瓶を中指で掴むと、コルクの蓋を親指で弾くように外す。
そしてクリストフは飲んだ――――TS薬を。
「(凄い……右腕が、治ってる……? それに足も……!?)」
「気分はどうですかな? 英雄殿」
クリストフは自分の手を閉じたり開いたりして動作を確認する。
「(……? 現状、特に問題は無い……気分が悪いとかもない)」
オーヴィスの笑みを不審に思いながら健康確認を行う。特に問題がない、ゆえに答える。
「特に問題はな……」
ふに。
「……?」
ふにふに。
「…………?」
それは自分の胸に手を移動させてから気付いた。
胸、バストゥッ、男たちが命を懸けた遠き彼方の理想郷――――パイオツがそこにはあった。
「…………ふぇ?」
「おめでとう! 君は女の子になりました!」
女の子。女の子…………? その言葉の意味が理解できないのか英雄かわいいは頭にハテナを浮かばせていた。
「…………?」
英雄(可愛い)は天井を見上げた。
「…………うん」
英雄(可愛い)は自分の掌を見た。
「…………おやすみなさい」
そして寝た。
「おうこら寝んなや。助けに来たゆうとるやろが」
「博士、キャラ変わってますよ」
◆◇◆
――銀髪は腰まで伸びており、その滑らかさは薬物を投与したかのように美しい。
「もうちょい良い言い回しありませんかね?」
※薬物=トリートメント。
――石ころの瞳。
「隠喩にしろって意味じゃない」
※石ころ=アッシュグレー
――元はアラサーだったのに、ロリコンを引き寄せる容姿となっている。ロリコンホイホイと呼ばれる日も近いだろう。
「呼ばれる頃には博士は死んでると思いますよ」
「殺意たっか」
オーヴィスはやれやれ、と言った風に両手を上げる。
だが、クリストフが怒るのも無理はないだろう。そう、何故なら
「一生童貞だからって怒らないでくれよレディ。どうせ粗末な爪楊枝なんだから取ってあげたんだぜ? 感謝してくれてもいいと思うよ、僕は」
「爪楊枝じゃないです、頑張れば親指ぐらいはありました」
童貞、そうクリストフ・アルトマーレは永遠の童貞であることが確定したのだ。
現在、クリストフ・アルトマーレは間違いなく美少女になってしまっていた。
「年齢は……十四ぐらいかな? 鏡ないから分からない」
「うん、多分そのぐらいじゃないかな。じゃ、開けるからさっさと出てきてね」
オーヴィスは牢屋の鍵を解除して、中に小さなカギを投げ込んだ。クリストフは形状から首輪の鍵だと察して、二年ぶりに自由の身となった。
「ええと、言いたいことは沢山ありますがまずは感謝します。ありがt――――」
「じゃあ旅の荷物と身分証を渡すから、あとは頑張ってね~(かちッ」
次の瞬間、草原が広がった。
「……ふぇ?」
【名前】クリスティア・アルトマーレ
【魔法スキル】
・身体強化・極
・身体操作・極
・■■■
・聖女の胎
【称号】
・英雄(不憫)
◆◇◆
「…………」
目の前には草原が広がっている。頬を撫でる風が温かい、春なのだろう。
なんと素敵なのだろう――――で、ここどこ。
そんな問いを投げるぐらいにクリスティアは困惑していた。
「…………(服着よう)」
羽織っていたボロ布を脱いで、用意された荷物から服を取り出す。
――そして二分後。
「…………」
『クリスティアちゃん(笑)へ。
着替えは気に入ってくれたかな?
短パンとニーソは僕の性癖です。
オーヴィスより』
現在、クリスティアはオーヴィスが用意した服を着用している――――勿論、女の子用の服である。
クリスティアの服は髪色に合わせ白と黒が基調となっている。同時にスカートが嫌だろうというオーヴィスの気遣い悪意で、下は黒いショートパンツに白いオーバーニーソとなっている。
【ショートパンツ】
・浄化
・水耐性
・自動修復
・色変更
・治癒(腰のみ)
【サイハイニーソ】
・浄化
・水耐性
・自動修復
・色変更
・治癒(脚部のみ)
「(まずは現状把握から始めるかな)」
嘆いていても意味がない。と割り切ってバックを漁る。
問答無用で旅をしろと言うのだ。ならば当然、何かしらのサポートがあるのだろう、とクリスティアは期待して――いた。
「…………身分証に、着替え、手帳とペンに、銀貨二枚、で、誓約書ですか」
クリスティアは『うんうん』と頷いた。
「ふぅー」
その場に寝転んで仰向けになる、背に草が触れる。こそばゆい、けれど不快ではなかった。
空を見上げれば、美しい青空が広がっている。
「(……綺麗だなぁ。本当に戦争が終わったんだ)」
これが見れるなら、戦争で死に掛けた甲斐があるだろう。そして――
「…………これで旅しろと?」
――現実が襲ってきた。
「(……とりあえず近くの街を目指して、資金集めから始めるかな)」
身を起こしてバックを背負う。必要最低限未満の道具しか入っていないため、特に苦も無く持ち上がる。
彼女の旅はここから始まる。
これから彼女は様々なことを経験するだろう。
痛いこと、苦しいこと、泣きそうになること、嘆きたくなること、悲しいこと、嫌なこと、絶望、悲劇、暴力、不快、悪夢――――
その旅の果てに彼女は何を得るのか。それはまだ誰にも分からない。
九割九分九厘トラウマだけど。
◆◇◆
――――辺境の街ナニータ。同日の昼過ぎのことである。
「暇」
「知らん、暇ならこれ貸してやっから黙ってろ」
門番が二人。彼らは現在、どうしようもなく暇だった。
何故なら彼らが住む街は辺境の街ナニータ――要は田舎なのだ。
この街に来るのは隠居目的の貴族か、余程の物好きばかりである。
つまり、門番の仕事は、ほとんど座ってるだけなのだ。
「週刊誌タリーゼ? 月刊メスガキパンチしか読まない派なんだけど、俺」
「次、文句言ったらお前の彼女、寝取るから」
門番はいつものように軽口を叩き合い、過ごしていた。
特に変わったことのない、普通の日常だ。
「はッ、やってみろやww」
「はい」
門番は門番に水晶を手渡した。
「え? なにこれ…………映像結晶?」
「帰ったら見ろ」
門番はとりあえずポケットに仕舞い、週刊誌タリーゼを開いた。
「へえー英雄殿がスキャンダルだってさ。『王女と結婚して数ヶ月で不倫か!? 不倫相手は王宮の女全員』……うわーww不倫とかすげえなww
ま、相手を満足されられない女なんか不倫されて当然かww」
「そうだね。特に愛とか言う言葉を使って女の子に暴力振るう奴とかは死んでもいいと思う」
「お、おう…………なんか、やけに具体的だな」
門番二人は誰かの気配に気付く。気配のする方へ視線を向けると、そこには一人の女の子がいた。
背には大きめのリュック。少し疲れている様子から旅人だろうと察する。
「お、珍しいな旅人なん、て…………」
「どうした、あの子がどうかし…………ああ、なるほど」
門番は門番が唖然とした理由を察した。それは門番は門番の性格を理解し門番だからだ門番。
「(コイツ、大の女好きだからな……にしても可愛いな、人形かなんかかと思った)」
門番の性格、それは無類の女好きである。美しい女を見つけては口説いて落としてペット扱いをする。
その上で結論を言おう。門番は視線の先の女の子に見惚れたので門番。
視線の先にいた女の子、彼女は驚くほどに〝愛らしい〟のだ。
傾城の美女、ならぬ傾城の美少女――そう呼ばれても可笑しくないほどにその少女は可愛かった(尚、本人は不本意)。
「こんにちは」
門番は間違いなく見惚れて門番。それは魅了と言っても過言では無いほどであり、実際に我を忘れるほどだったで門番(門番)。
「こんにちは。身分証はありますか」
「はい、どうぞ」
門番は呆けている門番を無視して、銀髪の少女に問いかけ門番。それは職務上、必要なことで門番。だから特に問題は無いで門番。
「……はい、問題ありません。ようこそナニータへ」
「はい、ありがとうございます」
銀髪の美少女は身分証をしまうと、街の中へと消えていっ…………。
そしてその際、微かに彼女の香りが目の前を通った。通ってしまったのだ。
ならばどうなる? 間違いなく生きてきた中で最も愛らしい美少女が目の前に通った、自分は大が付くほどの女好き、そんな状況ならば一体どうなる?
「ま、待ってくれないか(何だこれ、何だこれ……! こんな気持ちは初めてだ)」
「何してんだ、お前(いやいや、まさかこの子をナンパするとかないよな……? お前、一応だけど彼女いるだろ)」
呼び止めた。呼び止めたのだ。
――彼女持ちの門番がナンパをしようとしている。相方門番は塵を見るような視線を向けた。
「……? はい、なんでしょうか」
「(なんだ、なんで心臓がバクバクして止まらないんだ!? 落ち着け、落ち着け、変な奴に見られちまうだろうが……!)」
ヤリ〇ン門番は、間違いなく初恋をしていた。女は玩具を素でやってる男は、今まで恋をしてこなかった。
ヤリ〇ン男を童貞に叩き落すほどの魅力、それを目の前の少女は持っていたのだ。
「えっと……?」
「な、名前! 名前を、聞かせてくれ」
ヤ〇チン門番はそう告げると銀髪の少女に頭を下げる。
銀髪の少女は少しだけ驚く。だがそれは決して負の感情ではない。ただ不思議に思っている、それだけなのだろう。
「クリスティア・アルトマーレです」
ゆえに銀髪の少女――――クリスティアは特に気にする様子もなく答えた。
「……?」
クリスティアは微笑みながら困ったように首を傾げる。それだけで門番はたじろいでしまう――――なんだこの究極生命体は、と。
「あ、え、あとっ……その……」
「ええ、ありがとうございます。確認できましたのでもう大丈夫です」
門番は門番に変わり、門番の仕事をするで門番。
「はい、それでは」
銀髪の少女は街の中へと進んでいく。ヤリ〇ン門番は憎悪を相方門番へ向ける。相方門番は無視した。
◆◇◆
【名前】
クリスティア・アルトマーレ
【ステータス】(本人はこのステータスに気付いてません)
体力:120
魔力:2/測定不能(9999以上)
武力:35
守力:30
魔法力:40
精神力:35
魅力:950
運:500
【名前】
クリストフ・アルトマーレ(男性だった時)
【ステータス】
体力:8200
魔力:4500
武力:700
守力:500
魔法力:300
精神力:800
後書きーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クリスティアの魔力は50万超えてます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます