女体化した英雄の受難 クリス『あの、え…? ちょっ、まっ、ひぎぃっ! がぁ゛ッ、も゛、殴らぇ゛ゅの゛っ、やだよぉ…っ』

足将軍

第1話、やったか!? よし、これで世界救った!!

前書きーーーーーーーーーーーーーーーーー

 この作品を開いてくださりありがとうございます。

 この作品には残酷な描写と良質なリョナが登場します。苦手な方はブラウザバックしてください。


 作品は好きだけどお前は嫌い、と言われるような作者を目指して精進いたします。


本文ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「(凄い……右腕が、治ってる……? それに足も……!?)」


 そこは薄暗い部屋だった。部屋にあるのは簡易トイレ、ボロイ布切れ、そして手枷に鉄格子・・・・・・――――まあ、牢屋である。


「気分はどうですかな? 英雄殿」


 胡散臭い笑みを浮かべた初老――オーヴィス・ブレンダー博士は問いかける。しかし何故だろうかその笑みはとても気持ちが悪い。


 まるで悪戯を仕掛けている子供が『いつ気付くかな、いつ気付くかな』と笑みを堪えているような……。


「(……? 現状、特に問題は無い……気分が悪いとかもない)」


 オーヴィスの笑みを不審に思いながら健康確認を行う。特に問題がない、ゆえに答える。


「特に問題はな……」


 ふに。


「……?」


 ふにふに。


「…………?」


 それは自分の胸に手を移動させてから気付いた。

 胸、バストゥッ、男たちが命を懸けた遠き彼方の理想郷――――パイオツがそこにはあった。


「…………ふぇ?」

「おめでとう! 君は女の子になりました!」


 女の子。女の子…………? その言葉の意味が理解できないのか英雄かわいいは頭にハテナを浮かばせていた。


「…………?」


 英雄(可愛い)は天井を見上げた。


「…………うん」


 英雄(可愛い)は自分の掌を見た。


「…………おやすみなさい」


 そして寝た。


「おうこら寝んなや。助けに来たゆうとるやろが」

「博士、キャラ変わってますよ」

◆◇◆

 これは過去。今より二年ほど前の話である。

 結論から言おう、その日、戦争は終わった。一人の英雄の手によって。


「(……長かった)」


 彼の住む大陸では戦争が起きていた。それは30年ほど前から続いている大戦である。人と魔族の生存競争、それが今、この瞬間に終わったのだ。


「……今までありがとうな。ええと、剣ちゃん」


 英雄――クリストフ・アルトマーレは長年、使っていた剣に感謝を告げた。

 剣を天に掲げる。それは背後に付き従う兵士たちに向けたもの。これを見て兵士たちは本能で理解した――勝ったのだと。


「クリストフ様が、ついに勝ったんだ……!(剣ちゃんって名前、絶対今付けたろ)」

「やった、俺たちの勝利だ!! やったんだ!!(名前のセンス無さすぎワロタ)」

「うおおお! クリストフ様、万ざああああぁぁぁい!!(今日の夕飯、カレーが良いな。クリストフママにお願いしとこ)」


 兵士たちは称賛の声を上げる。当然だろう、彼らからすれば戦争とは物心つく前からあった謂わば〝日常の一つ〟だったのだ。

 それから解放される、それは一種の夢心地、と呼ぶべきものだった。


「……っ」

「クリストフ様!?(カレーライス)」


 クリストフはその場に膝を付いた。兵士が駆け寄り見てみれば、その表情は苦痛に歪んでいた。


「すまん、単純に疲れた……少し休むから、その間に魔王の死体を、焼いてお、いてく…れ……」


 クリストフはそう言い残し、そのまま意識を失った。


 兵士は慌ててクリストフの身体を調べる。だが特に外傷は無く、呼吸も安定していた。ゆえに疲れたという言葉は真実であると納得した。


「そのまま寝かせときましょう。クリスさんは魔力を使い過ぎただけだと思いますので」

「勇者さま……(とクリストフ様のBL本を妻から送られるの、本当にどうにかならないかな)」


 クリストフの傍らに立つ青年の言葉に安堵して、兵士はクリストフを寝かせておく。英雄を放置するのはどうかと悩むも、英雄からの命を優先したのだろう。


「あれ……? 死体、どこいった……?」


 〝魔王の死体を燃やす〟それを行おうとするも肝心の死体が姿を消していた。

 その事実に兵士らは即座に抜刀。周囲に最大の警戒をした、が、それはもう遅く……。


「これが、賢者の石……! やった、これがあれば……!」

「! おいアーノルド! 何をしている、それは魔王の死体だぞ!!」


 一人の兵士が叫ぶ、それと同時、全ての兵士がそちらへと視線を向ける。

 それは軍一の問題児とされる青年、アーノルドである。素行不良、喧嘩、軽犯罪、と様々な問題をおこし、その上で〝高貴な家柄であるため〟裁かれない典型的な血統派の貴族である。


「はは、お前らは馬鹿で貧乏みたいだから知らないみたいだけどな。魔王の死体には賢者の石ってのがあるんだ。それがあれば、それがあれば……! いひひ」


「餅つけ! アーノルド!」

「お前が落ち着け。餅ついてどうすんだ」

「アーノルド! ハウス!」


「うるさいうるさいうるさぁぁぁいッ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって……!」


「(ああ、馬鹿にされてることは気付いてたのか……)」

「(警戒してる猫に見えるからついつい……)」

「(こいつが女なら絶対ポンコツヒロイン張れるよな……いや、性根が腐ってるから無理か……)」


 兵士たちの言葉はアーノルドに届かなかった。そして激昂したアーノルドは、アーノルドは――――

◆◇◆

「(ん……ここは)」


 彼は目を覚ます。彼の者の名はクリストフ・アルトマーレ。人魔大戦を終結された英雄である――――元。


「(そうだ、私は気絶したのだったか……だとしたら、ここ、は……?)」


 キンッ。不思議な音がした。それは彼が首を回したと同時に響いた音だ。

 音の元は彼のすぐ近く、ちょうど腹部の部分辺りだろう。


「……鎖」


 鎖、罪人の繋ぐ悪夢、ぶひぃと鳴く椅子が散歩の際に装備する特殊アイテム――――その鎖が、クリストフの首に嵌められていたのだ。


「はぁい、ご機嫌いかが? 糞野郎」

「元気の一歩手前、と言ったところかな。ところでここは何処か――――ぁ?」


 同時、腹部に強い痛みが走る。


「ォ゛ッ……っ、ッ―ぅぁ……っ、っぃ゛っ」

「ふふ、無様無様、大変無様でよろしいっ♪」


 それは拳、なんていう生易しいものではない。

 腹部には今、剣・が突き立てられていた。


 その剣は淡い光を帯びていた。そしてその光をクリストフは見たことがある。その上で知っている。

 ――――これは、私の弱点だ。と。


「へえ、人と魔族糞のハーフだけあって身体は頑丈なのね?」

「(冗談じゃない、体内の魔力搔き集めて必死に止血しているんだ……! 私以外に聖剣を耐えられる魔族とか聞いたこと無いのだが……!)」


 彼は必死に止血をして、思考をするだけの余裕を取り戻す。

 だが、また一つ、絶望に気付く。


「(魔力が、少ない……?)」

「あれ? おかしいわね……魔術師一中隊規模は抜いたと思ったのだけれど、また残ってたのね~」


 謎の女は訝しげに思いながら、クリストフの首輪に触れる。

 ――――瞬時に、激痛が走る。


「ぁ、ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ッ! ん、ぅ……ぃ゛」

「うんうん正しい形になってきた、じゃあそろそろお仕事と行きますかっ♡」


 女は自分の肩を掴み、そこに描かれている紋章を見せた。その紋章はとある部隊に与えられる特殊な紋章、それを見せたのだ。

 それが意味するものは単純な話、自己紹介のつもりなのだろう。


「ヴェスタリーゼ大陸 人類軍第六 南部駐屯部隊 執行部所属 コーネリアですわ。 と、言っても糞には分からないか~」


 執行部。それはヴェスタリーゼ大陸南部に存在する超大規模の罪人収容施設にて働く組織である。仕事内容は罪人から〝おはなし〟を聞くこと。

 ――――つまり拷問である。





 コーネリアはその後、沢山のことを語った。同時に、沢山の苦痛を強いた。


「(つまりアーノルドが〝自分が英雄と認識される〟ような魔法を使ったということかな? ……私の認識が正しければ、だけど)」


 結果的に言えばそういうことだ。コーネリアの言葉とクリストフの記憶には大きな齟齬があった。

 それが〝英雄〟の存在である。どういうわけか魔王と倒したのも四天王を倒したのも全てアーノルドの手柄となっていたのだ。


「(干渉系の魔法が私に効かないのは、なんでだろ……)」


 【■■■】


「(あれのおかげでしょうか)」


 自分に認識改竄が起きていない理由を一瞬に引き当て、思考を本筋に戻した。


「(で、私が魔王の副官……と)」


 代わりにクリストフは〝亜人の癖に魔王に与した愚か者〟ということになっていたのだ。

 何と笑えることだろうか。人々を救った英雄が、どういう訳か屑同然の扱いを受けているのだ。それに対し、クリストフは……


「亜人差別、結局、なくせなかった、な……」


 それだけ、呟いた。月の光も差し込まない地下牢獄で、一人ボッチの声が響いた。


「(英雄にでもなれば、差別は消えるかも……なんて、かっこつけが過ぎたのかな)」


 仰向けになる。背中に冷たい感触が伝わる。


「また……届かなかったんだな」


 〝もう指が二本しか残っていない〟、そんな欠陥だらけの左手を天井に掲げる。

 親指と中指以外は、もう全て千切れてしまったのだ。


「もう、二ヶ月……か」


 拷問――肉体的苦痛によって情報を引き出す技術。だがクリストフはそもそも情報を持っていないのだ。ゆえに今、彼が受けているのは純粋な暴力。

 その結果がこれである。


◆◇◆

 その頃、王城の一室にて。


「英雄アーノルド・シェイカー様、か。英雄、英雄か……!」


 アーノルドは己の称号を噛み締めるように呟く。

 アーノルドは魔王の心臓――――高純度の魔力の集合体を使用し、超広範囲の催眠魔法を行使した。

 その結果、アーノルドは英雄へ。クリストフは亜人の裏切り者へと〝認識を変えたことに成功した〟


「(まあ、魔王の城まで言ったのは確かなんだし、英雄というのも強ち間違いじゃないんだよな……ん?)」


 コンコン、扉の叩く音が響く。アーノルドは笑みを零す、その来客が誰か知っているためだ。


「アーノルド様……失礼します(中年太りすご……)」


 頬を赤らめ、下着にローブの姿の女性が入室する。普段はこの城で働くメイドの一人だ。

 彼女は事前にアーノルドに呼び出されていた。この日、この時刻に薄着で自分の部屋に来るように、と。


「おお、待っていたよ(英雄色を好むって言葉もあるし、彼女も英雄の子供を授かれて嬉しいんだろうな~。王女コーネリアちゃんは妊娠しちゃったし、俺も男だからってことで許してくれるだろ)」


 コーネリア……コーネリア・フォン・サージェント。それは彼が婚約した王女様である。そんな彼女を脳裏に浮かべながらメイドに服を脱ぐことを促す。


「(コーネリアちゃんは締まりが悪かったからな~顔は可愛いけど性格はちょいキツいし……やっぱ従順な子が一番なんだよな)」


 アーノルドは過去の選択が失敗だったかもしれない、と今更ながらに思うのだった。

 しかし王族を嫁にしたことで得られた栄誉や贅沢を秤にかければ、十分満足であると納得できていた。


「(もしもの時はまた催眠術掛けなおせばいいしな~魔王の心臓はまだまだ使えるし)」


 アーノルド・シェイカーは、人生の勝ち組を満喫していた。おめでとう、一級フラグ建築士の検定試験に合格。


「(…………ゆる、さ…………な)」


 そんな一級フラグ建築士だからこそ、それに気付くことが出来なかったのだろう。魔王の心臓が、微かに鼓動を始めていることに……気付けなかったのだろう。


◆◇◆

 ――――魔王討伐から、二年後。


「…………(罪人を忘れるのって、管理雑すぎないかな)」


 クリストフ(現28歳)は忘れられていた……存在ごと。


「(瞑想でもするかな)」


 【瞑想】――――精神を休ませることにより魔力の回復を促す。

 瞑想は彼の日課である。というのもこの牢獄には娯楽の類が全くと言っていいほど存在しないのだ。それに加え、瞑想する理由はもう一つある。


「(このマカロニ……なんかホットドッグみたいだな)」


 クリストフは自らに繋がれている鎖を見る。それは一見すれば只の鎖だが、一つだけ特殊な能力が与えられている。


 【生命維持】――――魔力を吸い、栄養調節や健康維持を行う。製作者の『生き地獄を味合わせたい』という意思を感じる。

 そう、この鎖はクリストフの魔力を限界まで吸うのだ。


「…………(あ、不味い。また魔力枯渇しそう)」


 鎖がある限り脱出も餓死も出来ない。

 ゆえに彼は一日のほとんどを瞑想で過ごしていたのだ――――。

◆◇◆

 その時、彼は久方ぶりの変化に気付いた。

 コツ、コツ、と響くそれは間違いなく人間の靴。音は少しずつ大きくなり、そして――。


「――――やあやあ元気? 英雄殿」


 今、救いは訪れた。

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